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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第30話 失敗の原因

 先生が帰ってくるのを大人しく待て。そんな風に言われても、「はい、わかりました」と簡単に返事ができるような厩舎の状況ではない。そんな状況なら、そもそも雑賀はこんな毛野郡くんだりまで足を延ばしていない。

 無言でうなだれる雑賀を見て、湯川主任は時計をちらりと見た。すでに時刻は夕方四時を過ぎ、厩舎の外は少し赤みを帯びてきている。


「何やら色々と聞きたい事があるみたいだね。だけど、うちら勤務時間がもう終わりでね。もしよかったら呑み屋予約するけど、どうする?」


 湯川の提案に、雑賀はうなだれながら、無言で首を縦に振った。



 帰り支度を整え、競竜場の外にある一軒の居酒屋へ向かう雑賀たち三人。

 席に着いた湯川は、せっかく来てくれたのだから地の物をと、餃子、から揚げ、芋串揚げを注文。そしてそれに見事に合いそうな冷えた麦酒も。


 注文を終えてすぐに、お通しの焼売が皿に二つ乗って出され、一緒に麦酒も配膳された。

 何を置いても、まずは乾杯だと言って早速飲み始める湯川と多米騎手。雑賀も口は付けたが、その前にお通しの焼売を箸で二つに割いた。焼売だと思っていたそれは、焼売の形をした何か。少なくとも挽肉は入っていない。湯川たちがやっているように甘辛のタレをかけて食べてみる。


「ん? なんですか、これ?」

「何って焼売だよ。玉葱のな。甘味が強くて美味しいんだ、これ」


 そう言っていると次々と料理が運ばれて来た。餃子は普通の餃子だが、から揚げが何やら黒っぽい。芋串揚げも見た事が無い。だが、どれもこれも味は良い。


「なんか……美味しいんですけど、全体的に味がしょっぱいですね」

「そうかなあ。まあ、俺たちはこの味に慣れちまってるからな。でも、しょっぱい方が麦酒には合うだろ?」


 湯川と多米はゲラゲラ笑いながら、から揚げを突き、麦酒を喉に流し込んだ。



 ある程度酒が進んだところで、本題に入る事になった。


「あれは確か六月の終わり頃だったかな。ふと、食事中に安見先生、中継映像を見て、『わかってねえなあ』って呟いたんだ。それで、その翌日にどこかに電話して。その三日後くらいじゃなかったかな。諏訪先生が訪ねてきたのは」

「安見先生は、そのわかってないっていう内容について、諏訪先生に何か言ってました?」

「いや、直接は言ってないね。だけど先生が何を言おうとしてたかなんて、俺にだってわかるよ。だって、極めて初歩的な事だもん。初歩的というか基礎的な事って言った方が良いかな」


 『極めて初歩的な事』という湯川の発言に、雑賀は愕然としてしまった。二か月間、誰も原因がわからなかったのに。なんなら大熊先生も鮎川先生もわからなかったのに。


「でも、湯川さん。そんな事言いますけど、うちらだって最初その対処で大きく躓いたじゃないですか。そんな言い方したら可哀そうですよ」

「確かにな。実際それで辞めていった仁級出の調教師もいるもんな。うちだって先生が泉沢先生に助言を貰いに行かなかったら、今頃は厩舎解散していたかもしれないし」


 湯川と多米が同時に笑い出す。だが、雑賀は全く笑えなかった。


「あの、何が原因なのでしょうか?」

「竜が障害を怖がっちまってるんだよ。極端にな。その原因はいくつもある。鞍上の問題、血統の問題、竜の資質の問題、調教内容の問題、色々あるんだ。どれが原因かはわからない。何せ俺たちは調教を見てないから」


「でも、うちと一緒に二つの厩舎が開業していて、そっちはそんな事は無かったんですよ。何でうちだけ?」

「程度の問題だろ。その二つの厩舎だって、障害は怖がってるはずだ。だけど、中には極端に障害を怖がる竜ってのがいるんだよ。そういう竜には、まず先にそういう調教を施す必要があるんだ。うちらがやってるのは競竜じゃあない。竜障害なんだよ」


 優しく諭すように言う湯川の言葉に、何故か雑賀は涙が出そうになってしまっていた。そんな雑賀に、多米が厳しい一言を浴びせた。


「だけどな、雑賀。お前、鞍上なんだから、調教とか競争中とか、竜の異変に気付けただろ。俺はすぐに気づいたぞ。ただ対処がわからず、先生が試行錯誤したけど駄目で、他の先生に教えを乞いに行ったってだけで」

「多米さんは、具体的に何が変って感じたんですか?」

「色々だよ。最初は最終角で竜が身構えたままになっちまって、最後の直線の加速が鈍くて、それで変だなって思ったんだ。そうしたら、次からは枠入りを嫌がるようになってな。もしかしてと思っていたら、水濠障害前に躊躇うようになったんだ」

「あれって、そういう事だったんだ……」


 その雑賀の呟きを聞き、多米は露骨にため息をついた。


「って事は、お前気付いてたのかよ! じゃあ、何でそれを諏訪先生に報告しなかったんだよ! あの先生は竜に乗れないんだから、お前の感覚が頼りだって事くらい、専属ならわかってるはずだろ!」

「いや……あの……」

「調教師と専属は二人三脚。競竜学校でそう教わっただろ。先生の足りない部分は専属が塞ぐ。当たり前の話だろうが」


 唇をぎゅっと噛みしめた雑賀を見て、湯川が「その辺にしてやれ」とたしなめた。


「雑賀君だって報告してたと思うよ。諏訪先生がここに来た時の状況思い出してごらんよ。多分言われても諏訪先生には理解ができなかったと思う。多米だって、扶養控除の話されたら意味が分からなくて固まるだろ?」


 どうやら扶養控除で何かあったようで、多米は思わず食べようとしていた芋串揚げを吹き出しそうになってしまった。それ以上何かを言ったら余計な事をバラされると感じたのか、無言で麦酒を呑み始めた。


「雑賀君。先生がいなくて不安だとは思う。うちらも安見先生がいなくて不安だから、その気持ちはよくわかる。だけど、竜障害の厩舎ってのは一つの班なんだよ。先生がいないなら、不在の間を他の全員で埋める。それが竜障害なんだよ。帰ったら厩舎の皆にもそう言っておいてよ」

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