第22話 原因不明
月が替わり六月。岡山競竜場では、引き続き『赤穂特別』が行われている。
日程の後半は準決勝が二週で四戦、最終週に決勝が行われる。ただ、それだけではわずか一、二戦しかしない事になってしまう。一日は八競争も行われるのに。
残りの競争は、そこに残れなかった人たちで消化試合のような競争を行う。ただ、これはお金を賭ける側にとって消化試合というだけで、選手側にとっては決して消化試合では無い。
この『赤穂特別』が終わると、半期に一度の級別けが行われる。
障害竜は参加する騎手に四つの級が割り振られている。上から天一、天二、地一、地二。まだ参加したばかりの雑賀たちは当然一番下の地二。
級によって参加できる重賞は限られている。
天一は特一、特二、特三。
天二は特二、特三、準特。
地一は特三、準特、平特。
地二は平特のみ。
障害竜は各競竜場に遠征する事を前提として番組が組まれているので、例えば今回の『赤穂特別』だと、対になる鈴鹿競竜場や、近くの阿蘇競竜場に所属する騎手が遠征してきている。岡山の次節は特三の『七夕賞』なので、雑賀も来月から鈴鹿に遠征する事になるだろう。
各級の人数は、天一と地二が全体の一割、天二と地一が全体の四割と、総人数に対する割合で決められており、獲得賞金額の上位者から割り振られていく。つまりは、天一に居続けるためには賞金の高い重賞で上位着を取り続ける必要がある。
現状でまだ獲得賞金の無い雑賀には、全く持って関係の無い話だが。
一週目、二週目と出走したが、やはり先月同様全く歯が立たず大差シンガリ負け。
意味がわからないのは、調教場ではちゃんと追えば加速してくれるのに、競技場では最後の直線で追っても走る気を出してくれない事。
最初こそ調整室で「今日はちゃんと付いて来れるのか?」やら「ずいぶんと慎ましい競争をする」などとからかわれもしたのだが、最近では、もはやからかわれる事すら無くなってしまった。どこか憐みの目で見られ、篠原、長井以外、声もかけてくれない。
「ねえ雑賀、何で毎回最後の直線でもっと追わないの? 追わなかったら何回やっても勝てないよ」
「実は、ちゃんと追ってるんですよね。だけど竜が走ろうとしてくれないんですよ。だから、それ以上無理に追って何かあったらって思ってしまって」
「それは何、持久力が切れちゃってるって事?」
「それすらわからないんですよ。原因が全然わからなくって。だからどうしようも無いんです」
雑賀が小さく首を横に振る。その顔は完全に諦めの顔。それを見てしまうと篠原もそれ以上かける言葉が無かった。
「やっぱり俺の騎乗のせいなんですかね。調教は普通に走っているわけですし」
「だけど、見ている限り、競争中に何かあるようには見えないんだよね。長井はどう? 何か気付いてる事ってある?」
先月は開業したてで自分の事だけで手いっぱいだった長井も、今月に入って多少気持ちに余裕が出てきたようで、雑賀の騎乗を見る余裕が出てきているらしい。そこで感じたのは竜のせいじゃないんだろうなという事なのだそうだ。
「もし竜のせいなら、別の竜の時には別の反応をすると思うんですよ。だけど、どの竜も等しく同じ結果が出る。という事は、雑賀さんに何かあるんじゃないかって、俺も思うんです」
「何かって?」
「新人の俺に聞かれたってわかるわけないじゃないですか。これまで競竜でさんざん経験詰んできた諏訪厩舎の面々ですらわからないのに」
「ごもっとも。かくいう俺も全然わからんわけだしな」
あまりに色々な事がわからなすぎて、雑賀の口から出るのはため息ばかり。そんな雑賀を慰めるように、篠原が肩をぽんぽんと叩く。
「やはり原因は俺なんですかね……」
「どうなんだろうな。でも俺も雑賀の状態だったら、夜寝れないくらい悩むと思うよ。もし雑賀に問題があるんだとしても、せめて技術的なものか、精神的なものか、どちらかでもわかればね」
「そうなんですね。何もわからないから対処もわからない。せめて夜はちゃんと寝なきゃってくらいしか」
「そうだな。寝不足は確実に騎乗に悪影響が出るからな。敗戦の原因がわからず不安だろうけど、睡眠だけはちゃんととるようにしないとな」
篠原も長井も、自分の事のように深刻な表情となっていた。
◇◇◇
翌日、第四競争に出走したのだが、やはりこれまで同様、最後の直線で全く加速せずにシンガリ負け。
翌週、『赤穂特別』の最終週。雑賀の出走は最終競争。その一つ前が決勝であった。何か掴めることは無いかと、決勝の様子をじっと凝視していた。だが、自分と何が違うのか全くわからない。結局、何もつかめぬまま最終競争に臨む事になった。
これまでも色々と試行錯誤はしてきた。位置取りを前にしてみたらどうか、他の竜にピッタリと付いて走ってみたらどうか等々。
今回は最初の直線で押してみて、無理やり先頭に立ってみた。向正面で障害を飛越する場面で二頭に抜かれ、三番手に下がったものの、『タテナシ』はそこで踏みとどまり、なんとか勝負所を迎えた。
最終角を前に『タテナシ』は周囲に合わせ加速を開始。だが、最終角を回るとそこからはそれ以上加速しなくなり、一気に五頭に抜き去られていつもの定位置へ。
そこからはいつもと同様に、前の竜群からはどんどん離されて行く。そしてまるで晒し者のように一頭ぽつんと終着。
「いったい、何が悪いっていうんだよ……」
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