第21話 絶望的な結果
大熊、鮎川厩舎と違い、諏訪厩舎は全く勝負にならなかった。
この競争を厩務員たちは全員何らかの形で目にしており、翌日の厩舎の雰囲気は非常に重苦しいものがあった。
諏訪は朝から首脳陣を集め、緊急会議を開いている。参加者は諏訪、雑賀、高遠主任、本多助手、保科の五人。
そもそも原因がどこにあるか全く見当が付かない。竜の素質、調教の仕方、騎乗、大別すればその三つに分けられるのだろうが。
「俺が初戦だからって緊張しすぎて、変に力が入ってしまっていたのかもしれません。それが竜に移ってしまい、ただでさえ持久力に欠ける竜が、余計に消耗してしまったのかも」
「そういうのは確かにあると思う。でもそれってきっと、鮎川や大熊さんたちも同じだと思うんだよ。それにしては、いくらなんでも負けすぎなんだよ」
「調教で俺が何か間違ったんでしょうか」
「何もわからないんだから、自分のせいという事にして簡単に片づけようとするんじゃねえよ。俺はお前を責めるために人を集めたわけじゃないんだ。原因がどこにあるか、皆の意見を聞こうと思って集めたんだ」
そう諏訪が諭すように言うと、高遠たちも雑賀を見て無言で頷いた。
勝負所までは問題無く追走していた。向正面での障害の飛越を見れば、障害を飛ぶ事に抵抗したり戸惑っていたようには見えない。ならば、騎乗の問題はそこまででは無いように思える。だとすれば、問題は竜。調教に何かあるのかも。高遠たちの意見を集約するとそんなところであった。
「何かか……いったい何があるっていうんだろう」
「先生にもわからない、調教していた雑賀君にもわからないとなると、根は深いところにあるのかもしれませんね」
「まだ一戦だけだから何もわからない……と言いたいところだけど、もしかしたら、何かとんでもない誤りを俺たちはしているのかもな」
結局、緊急会議では何も結論は出なかった。高遠の「情報が少なすぎて判断材料が足らない」という意見に皆が賛同してしまい、そこで思考が停止してしまったのだった。
◇◇◇
ただ、容赦なく週末はやってくる。
前回と異なり、今回は『キキョウタテナシ』での出走となった。少なくとも、『メング』よりは素質の高い竜で、前回のような事は無いだろうと、厩舎の全員が期待していた。
だが、結果は前回と全く同じ。最終角で全く手応えが無くなってしまい、最後の直線で残りの七頭にどんどん引き離され、大差のシンガリ負け。
その翌週、今度は『キキョウオニダマリ』で挑んでみたのだが、まるでここまで二戦の再現映像でも見ているかのように、最終角で手応えが無くなって、大差シンガリ負けしただけ。
予選最終週、再度『メング』で出走したのだが、やはり初戦と状況は全く同じ。大差シンガリ負けであった。
二走目の『メング』が同じ結果だったという事は、障害のある競争に慣れなかったという事が理由ではない。一月走らせてみて、わかったのはそれだけ。
予選の四戦が終わると、準決勝に進む者が発表となる。
竜障害は竜ではなく、厩舎でもなく、参戦した騎手に点数が割り振られる。あくまで主役は騎手。厩舎はその騎手を支援する陣営。ただし竜は厩舎の所属なので、実際には厩舎、竜、騎手はまとめて一つの団体という感じになってしまっている。
現在は一厩舎、一騎手という状況であるが、ゆくゆくは一厩舎で複数の騎手を抱えて参戦する者を増やしていきたいという協会の考えがあるらしく、このような仕切になっていると最初に研修で教わった。
『雑賀重巳 諏訪厩舎(岡山)……0』
結果一覧の一番最後、そこにそう記されていた。その上は鮎川厩舎の長井で一点。その上が大熊厩舎の篠原で三点。その上はもう十点台なので、新人三人の結果がいかに酷かったかが察せられる。それでも長井は四戦目で五着に入線しており、篠原も四着が一回、五着が一回という成績。諏訪厩舎だけが全く周囲に付いて行けていない状況だという事がわかる。
「おかしな話だよな。聞いた話では、競竜から竜障害に移籍した調教師の半数は仁級のはずなのに、なんで八級出のうちがこんなに酷い成績じゃなきゃいけないんだろうな」
寮から遠く離れた居酒屋で、雑賀、仁科、坂崎の三人で呑む事になり、少し酒が入った所で仁科がそんな愚痴を零した。
「俺はここまでの経緯みたいなんて聞いてへんし、競竜の事情みたいなんも、よう知らんのやけど、うちの厩舎は競竜の時はそこそこやれる厩舎やったん?」
「そっか。坂崎さんは会社員辞めてうちに来たんだもんね。競竜って級が四つあってね、それぞれ成績上位五人しか昇級ってできないんですよ。それで諏訪厩舎は三番目の八級だったんですよ」
「八級って、今、俺たちが扱うてる竜だよね。ほな、うちの厩舎は八級の竜もまともに扱った事の無いような厩舎に歯が立ってへんいう事なん?」
「ね、おかしな話でしょ? 周りが八級出身だらけっていうんならわかるんですよ。だけど、なんで仁級で芽が出なかったような奴ら相手に、四戦全て大差シンガリ負けしなきゃいけないんでしょうね」
実際に騎乗している雑賀としては、仁科たちの会話は、何となく責められているような気がしてしまって、どうにもバツの悪さを感じてしまっている。
「雑賀君はどうなの? 実際に乗ってて何か違和感みたいなのって感じないの?」
「それが、さっぱり。最後の勝負所になっても、竜が全然加速をしてくれないんです。ですけど、その原因がわからないんですよ。まるで持久力が切れちゃってるみたいになる原因が」
「持久力かあ。確かに、どれもこれも持久力がある竜じゃ無いってのは確かなんだよなあ。だとしたらさ、竜を代えてもらわないと俺たち一勝もできないって事になっちまうんだよね」
はあと酒臭いため息を付く仁科に、雑賀と坂崎もうなだれる。
「せめて七着になれればなあ……」
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