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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第18話 調教

 翌日、さっそく竜の調教を行う事になった。


 早朝、夜明けと共に竜は嘶く。このあたりは、竜というより、その生態は鶏に近いかもしれない。そのけたたましい鳴き声に、休んでいた厩務員が一斉に事務室を出て竜房へと向かう。


 まずは竜の状態を確認するところから。基本的に竜は朝から元気いっぱいなのだが、夜の間にしている糞の状態を見ると、病気をしているかどうかがわかる。確認が終わったら頭絡とうらくという簡易のくつわを付けて、一旦竜房から出す。

 外の明かり、それと照明で竜の状態が確認できるようになるので、顔、体、脚とゆっくりと観察し、異常が無いか、怪我をしていないか確認。その間に別の厩務員が竜房の寝藁の掃除を行う。

 ここで回収される汚れた寝藁と糞は、農業関係者がそれなりに良い値段で引き取ってくれる。そのため、粗略には扱えない。


 竜の状態が良好であれば、ここで竜具が装丁されて、まずは引き運動から行われる。人で言ったら散歩なのだが、これはそれまで寝ていた体を目覚めさせる効果がある。これにより内臓の働きも活発となり、餌の消化も良くなる。

 調教が無い竜は、これで竜房に戻って餌を食べる事になる。


 雑賀や調教助手の本多、諏訪調教師はこのあたりで出勤してくる。


 まずは諏訪が脚元の状態を確認し、問題無さそうと判断したら雑賀か本多に細かい調教の指示を出す。

 厩務員が竜の手綱を引いて調教場へ連れて行き、そこで雑賀や本多が乗り込み、調教場の手前の広場で乗り運動を行う。これは本格的な調教の前の軽い事前運動のようなもので、これを行う事で怪我の防止となる。


 乗り運動をしていると、竜の方から徐々に走る気を出してくれる。徐々に歩幅が大きくなり、踏み込みも力強くなる。ある程度気合いが乗ったら、いよいよ調教場へ乗り入れ、調教開始となる。


 竜障害の調教場の形状は非常に独特な設計となっている。

 まずは直線、その先に急坂があり登って降りる。そこからまた少し直線が続き、その先には二つの柱に棒がかけられた垂直障害があちこちに設置されている。

 再度少し直線が続き、その先で急に走路がぐねぐねと曲がり、反転角が続くつづら折りとなる。

 その先は鋭角に走路が折れ曲がっており、その先暫く直線が続き、再度鋭角に走路が折れ曲がり、そこから復路となる。

 復路も基本的には往路と同じで、急坂、垂直障害、つづら折りを経て、最初の位置に戻って来て調教は終了。


 その後、乗り運動も兼ねてゆっくりと最初の広場に戻って来て、そこで轡に手綱を付けて、厩務員が厩舎へと連れて帰る。

 そのままだと竜の疲労が溜まる一方だし、体調を崩してしまいかねないので、汗を水で洗い流し、刷毛で体をこするようにして汚れを落としながら、血流も上げてあげる。


 調教を終えたら、状態、手応え、気付いた点などを諏訪に報告する。



「雑賀、初めて調教してみてどうだった? 他の竜たちと比べて気付いた事はあるか?」

「周囲はどうなんだというのを特に観察していたのですけど、はっきり言って、何か特別な事をしているようには見えませんでした。ただ、まだ初日ですので、もう少し観察を続けたら、何か発見があるかもしれません」

「持久力的なところはどうなんだ? やはり周囲とは違うか?」

「どうなんでしょう。確かに復路で少し息切れを起こしてはいましたけど、それは周囲も同様だったように感じます。強いて言えば、うちは一周だけでしたが、他は二周させていましたね」


 諏訪厩舎はまだ地二級であり、出走できるのは平特のみ。平特は竜の交換をせずに、競技場も一周しかしないので、あえて一周のみとしている。それが後々、経験不足という事になってきたりはしないかと雑賀は危惧している。


「調教させて、どこが苦手そうというのはあった?」

「それは、昨日まで平坦な競技場を走っていた竜ですから、全ての調教で戸惑ってる感じでしたよ。急坂とつづら折りはそこまでじゃないのですけど、飛越障害は露骨に嫌がってましたね」

「そうなのか……竜障害用に牧場で少し調教を施してくれるって話だったんだがな。そう一朝一夕ではいかんという事なのかな」


 諏訪が両手を頭の後ろで組み、椅子にもたれかけた。椅子がギリギリと音を立てて軋む。


「ここから二か月。どこまで竜が障害に対して慣れてくれるかだな。変に力が入ったら、ただでさえ少ない持久力が余計に持たなくなってしまうだろうからな」

「今日一回だけの感想ですけど、いきなり好走するというのは難しいかもしれませんね。何せ、うちのは一周、他は二周走った状況と同じなんですから」

「今のままでは持久力不足で勝負にならないって事か。なあ、雑賀。今の状態で二周走らせる事ってのは可能だと思うか?」


 雑賀が首を傾げる。何かを言う前からその顔が無理だと回答しているようなものであった。諏訪の鼻から吐息が漏れる。


「今の状態で二周走らせたら、恐らくどこかの垂直障害で脚をぶつけて怪我をするか、つづら折りで脚の踏ん張りが効かずに捻挫してしまう事になるんじゃないでしょうか」

「なるほど。それは容易に想像できるな。故障してしまったら、そこで色々と破綻してしまうかもしれん。無理は厳禁、焦りは禁物か」


 諏訪が首を後ろにもたげ、左右に振った。


「そうだな。焦っても仕方がない。まずは五月から始まる『赤穂特別』がどんな感じになるか。全てはそれからだな」

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