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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第17話 竜が来た

 諏訪厩舎にやってきた竜は三頭。

 黒毛の『キキョウメング』、赤毛の『キキョウタテナシ』、栗毛の『キキョウオニダマリ』。


 竜障害は八級という二本脚で走る恐竜が使用されるのだが、基本は現役の競竜を引退させて、それを提供してくれている。八級の竜の毛色は、白、芦、月、栗、赤、鹿、黒、青の八種。白、赤、黒はそのままだが、残りは若干名前からは想像がしにくいかもしれない。芦毛は灰色、月毛は薄黄色、栗毛は薄茶色、鹿毛は茶色、青毛は漆黒。


 『毛』と言っているが、そう見えるというだけで、実際には毛ではない。毛のような細さの『羽根』だったりする。

 瑞穂には昔から駆竜という名では呂級の竜が多く生息していた。呂級の生態は非常に馬に似ていて、群生で四つ脚、おまけに顔も長く尻尾も長い。よく見ると馬には無い角と牙が生えており、脚下に毛が無く、ボコボコした皮膚が露出している。蹄も馬と異なり五つに割れている。決定的に異なるのは馬が胎生なのに対し、呂級は卵生。

 後にこの駆竜が恐竜に分類される事になるのだが、もはやその時点で羽毛の事を『毛色』と呼んでしまっていた。呂級の抜けた毛を見ても、馬と同じ単なる毛にしか見えないのだが、よくよく顕微鏡で観察したところ、毛の中に空洞があり、羽毛である事がわかる。

 だがもうすでに言葉というものは長い年月をかけて定着してしまっており、どう見ても羽毛である八級も『毛色』と言われるようになった。



「へえ、竜ってこんな感じなんですね。もちろん動物園なんかで見た事はありますけど、こんなに間近に見るんは初めてですね」


 自分より大きいというだけでかなり恐怖心があるのだろう。石川は距離を取って三頭の竜を興味津々で眺めている。そんな石川の背を三村がポンと押す。急に竜が迫って来たように感じ、焦った石川が「きゃあ!」と悲鳴をあげた。それを周囲の男たちがクスクスと笑う。


「ちょっと! 明日香さん酷いやないですか」

「何やってるんよ。そんなへっぴり腰で遠巻きに見たりして。この仔たちはね、私たちの仕事仲間なんよ。恐れてどないすんのよ。研修で習ったでしょ。こうやって、首筋を撫でると喜ぶって」


 そう言って慣れた手つきで三村が『メング』の首筋を撫でる。すると『メング』は嬉しそうに顔を三村に摺り寄せた。『メング』が顔を離すと、三村の顔は涎でべとべと。そんな三村を石川だけでなく、他の厩務員も大笑い。


 そんな楽しそうにはしゃぐ厩務員たちを他所に、諏訪と高遠主任の竜を見る視線は非常に厳しいものがあった。


 高遠が人差し指をくいくいと曲げて雑賀を招き寄せる。それに気付き、雑賀はこっそりと高遠の隣に移動した。それを見て諏訪と高遠が事務室に戻っていく。雑賀もその後を付いて行った。


 執務机に座った諏訪は、少し小さな声で、高遠にどう見えるかとたずねた。


「あの三頭はちょっと酷いですね。本来であれば、ここは長距離竜を送ってくるところでしょ。あれ、三頭とも短距離竜ですよね。中距離竜ですらない」

「同感だ。事前に聞いていた話で竜障害はいかに小回りを利かせられるかが鍵という事だったが、まさか持久力を鍛えるところから始めないといけないとはな」

「ですけど、体躯からして、三頭とも根っからの短距離竜ですよ。持久力なんて伸ばせるんですか?」


 できなくは無い。だが限界がある。それが諏訪の回答であった。

 三人の口から同時にため息が漏れる。


「雑賀、お前はどう思う? お前もここまで毎週競争を見てきただろ。あの短距離竜でやれると思うか?」

「もちろん持久力は無いと駄目ですけど、乗り方次第で多少は持たせられる部分はあるのかなって。でも、もちろん限度ってものはありますけどね」

「小手先技か。それでどこまでってとこだな。ただでさえ平坦な道じゃなく競竜より持久力が求められるってのに。会派の馬鹿どもめ」


 諏訪が握りしめていた拳を机に押し付けた。競竜学校で出会ってからそれなりに年月が経つが、こんなに苛立った諏訪を雑賀は初めて目にした気がする。


「ちょっと気になる事があるんですけど、こういう距離適性的な事っていうのは、どの厩舎でもある事だったりしないのでしょうか?」

「……それはつまり、どの厩舎も抱えている悩みなはずと?」

「ええ。もしそうだとしたら、やはり乗り手である俺がなんとかする問題だったりするんじゃないのかなって。もちろん持久力があるに越したことはないですよ」


 雑賀が言わんとする事は、何となく諏訪にも理解できるらしい。だがその方法に全く見当が付かず、苦虫を嚙み潰したような顔で、雑賀の顔をじっと見続けている。


「つまりは、何もかもが勝手が異なるという事なのかな。これまでとは」

「そうなんでしょうね。竜障害は、競竜とは似て非なるものという事なのでしょうね」

「そうなると、もしかしたら、そもそもの話として盛岡時代の調教方法や知見といったものはあまり通用しないのかもしれないな」


 高遠が無言でうなづく。それを見て雑賀もうなづいた。


「わかった。俺はこれからどうやったら持久力が伸びるかを研究していく。雑賀、お前はどうやったら持久力に影響を少なくして騎乗できるかを研究してくれ。高遠さんは厩務員の事をお任せします」

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