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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第16話 人が集まった

 二月も残り一週間という日になって、わらわらと諏訪厩舎に人がやってきた。男性が四名、女性が二名、総勢六名。諏訪は雑賀たちを呼び集め、自己紹介をさせていった。


 六人のうちの一人は調教助手。名前は本多晴忠。年齢は雑賀より少し上で、元は久留米競竜場で騎手をしていたらしい。ただ、調教助手といっても当面は雑賀が調教を行うので、今は厩務員の一人にすぎない。


 残りの五人のうち二人、津田、土橋つちはしは紀三井寺競竜場に所属する潮騒会の厩舎から来てくれたらしい。

 残りの三人、三村、坂崎、石川の三名が完全に新規での採用。ただし女性二人の内の一人、三村明日香は学生時代に短期就労で厩務員をやっていたのだそうで、厩務員の経験者。なので未経験者は坂崎ともう一人の女性、石川楓だけ。


 年齢順で行くと、一番上が筆頭厩務員の保科、次が主任の高遠、諏訪調教師、津田、高梨、三村、坂崎、本多助手、仁科、雑賀、土橋、石川の順になるのだそうだ。


「来週から竜が入ってくるので、やっと厩舎として稼働していく事になります。目標は五月から開催になる『赤穂特別』への参戦。まずは一勝しよう!」


 諏訪が右手の人差し指を立てて微笑みかけた。


「先生、さすがに目標が『一勝しよう!』は志が低すぎやしませんか?」


「何言ってるんだ、高梨。たかが一勝と思うかもしれないけど、既に開業している先輩たちを負かすんだぞ。俺たちは最下級の地二級。地一級の先輩方と一緒に争う事になるんだ。それで一勝って決して簡単な事じゃないと思うぞ」


「そっか、競竜で言ったら仁級の厩舎が八級の厩舎に挑む感じなんですもんね」


 競争はこれまで何度か見ている。だが、いざやってみろと言われれば、それは勝手が全く異なるであろう事は容易に想像が付く。諏訪の言った事が決して誇張などでは無い事は、その場の全員が簡単に理解できた。


「半期に一度級別け判定ってやるらしいけど、まあ、地二級から下に落ちる事は無いから、一歩一歩、皆で手を取り合って上を目指していこうじゃんか。うちらはこれから戦う集団として一つになっていかなきゃいけないんだから」


 『戦う集団』その言葉で厩務員たちに一様に気合が入り、険しい顔になった。その表情を見て、諏訪が満足そうに頷く。


「おし、まずは団結の一歩として……」


 そこで区切り、諏訪が全員の顔を一人一人見渡していく。最後に保科で視線を止めた。


「早めに上がって呑みに行こっか!」


 諏訪の残念な一言で、皆に入っていた気合いが、ふっとどこかに抜けて行った。



 ◇◇◇



 呑みに行こうは良いのだが、競竜場の付近には呑み屋は一軒も無い。電車で寮に戻っても、吉永駅近辺にもそんな宴会がやれるような呑み屋は無い。結局、一つ隣の和気駅の居酒屋に予約を入れるしか無かった。海鮮居酒屋『沙弥丸』という、駅から少し離れた漁船の親方が経営しているという居酒屋で決起会をやる事になった。


 さすがは漁船直営。会場に入った瞬間に大きな船盛が目を引いた。さらに横には麦酒に米酒。皆の席に付く足取りが異様に早い。目の前の船盛に目を奪われたのは厩務員たちだけじゃない。諏訪も同様であった。そのせいで、いつにも増して挨拶は短く、その後、高遠が乾杯の音頭を取ると、皆一斉に飲み食いを始めた。


 ある程度食事が進むと、どの人も少し落ち着きを取り戻し、そこからは徐々に会話の時間となっていく。女性が二人いると、やはりそこは女性二人を男性が囲むような席になっていく。その結果、諏訪の周囲に数人、三村の周囲に数人、石川の周囲に数人という風に、三つに席が別れた。もちろん一番人が多いのは若い石川の周り。


 雑賀は諏訪の所の集団にいた。他には本多だけ。当初隣にいた高遠と保科は三村の隣に陣取っている。


「先生、竜っていうのは、何頭くらい来るものなんですか? 竜房は九頭分あるようですけど」


「最初は三頭なんだって。たった三頭に厩務員が主任含めて九人必要って、やんなっちゃうよね」


「はい? たった三頭なんですか?」


「そうなんだよ。地二級って平特にしか出れないだろ。平特って競技場を一周しかしないし、竜の交換もしないから、三頭もいれば十分なんだと」


 それを聞いた本多が眉をひそめた。


「それって、調教助手必要なんですか? わずか三頭ですよね。しかもうち一頭しか出さへんのでしょ?」


「騎手だけだと単走調教しかできないからね。それだとどうしても勝負所での伸びみたいなのが悪くなっちゃうから、必要は必要だよ。そこは俺もそう考えるから本多君を雇ったんだけどね。問題は厩務員の方さ。夜勤なんて一人でも良いじゃんね」


「……俺は嫌ですね。こんな寂しい山奥で一人で一晩過ごすやなんて。夜になると『ホウホウ』って変な声が聞こえてくるし、ものごっつい虫がでかいんですよ。先生は一人でも平気なんですか?」


 雑賀と本多、二人の視線を集め、諏訪は二人から顔を上に背けた。


「まあ、俺は平気だが、確かに言われてみればご婦人方には厳しいものがあるかもしれんな」


「そういえば、先生の実家もこんな感じの山奥ですもんね」


「おい、雑賀! お前、田舎の話をするとすぐ俺の実家の話をするけどな、うちの実家は、あそこほど山奥でもなければ田舎でもねえよ! 何回も言うけど、大型商店が近くにあるんだからな」


 若干酔いがまわっているらしく、諏訪は雑賀に向けていた指を本多に向けた。


「それと本多! 夜に聞こえる『ホウホウ』って声は鳩か梟の鳴き声だよ! 山奥を妖怪の住処みたいに言ってんじゃねえよ!」


 諏訪の指摘は全員に聞かれており、一瞬の静寂の後、大爆笑となった。

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