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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第12話 岡山へ

 雑賀たちの住む瑞穂皇国は、古くから動脈とも言える太い街道を整備している。その街道の起点は北から浪岡の佐野橋、幕府の瑞穂大橋、皇都の三条大橋、太宰府の朱雀大橋。浪岡から皇都は北陸道、浪岡から幕府は東北道が結び、幕府から皇都へは東山道、東海道が結び、皇都から太宰府へは北から山陰道、山陽道、南海道が結び、九州は西海道が一周している。


 これら八本の街道は、まさに瑞穂皇国の背骨ともいえるもので、ここに電線、通信、鉄道、道路の基幹線が通っている。街道には大昔から人だけでなく、馬や牛車、荷車なんかも行き来している。当然、それらは全て速さが異なる。そのため、最初は一本道だった街道は、歩道、馬道、車道と別けられ、どんどん道幅が広くなっていった。

 どれだけの広さが必要になるかわからないため、大昔から街道の南側は建物を建てないようにと何度もお達しが出ている。仮にそれを無視して住もうとする者がいても、すぐに立ち退きにあっている。



 幕府北部の街、上尾での研修を終えた雑賀たちは、翌日の午前中に荷物をまとめ、午後には東山道高速鉄道に乗って皇都駅へ向かった。皇都駅で山陽道高速鉄道に乗り換え岡山駅へ。そこから山陽道の在来線快速に乗り吉永駅という駅まで向かった。


 吉永駅に着いた時には、陽はすっかり傾いてしまっており、かなり肌寒くなっていた。周囲は見渡す限り、山、山、山。想像していた以上の寂れた景色に、思わず厩務員たちの表情も強張る。


「諏訪くん。競竜場が全然見えねえな」


「そりゃあそうでしょう。あの北の山のさらにその先なんだから。伝説によれば、津山駅行きとかいう電車に乗って、その途中にあるんだそうですよ」


「伝説って……宝でも隠してあるのかよ。で、その津山駅行きとかいう電車はいったいいつ来る事になっているんだい? ぜひ職場を見ておきたいんだが」


「もうしばらく待てば来るようですから、見に行くなら行っても良いんでしょうが、間違いなく今日中には帰って来れませんよ。何せ次が終電だそうですから」


 二人とも時刻表を確認した上でのこの会話であった。

 ちなみに終電は十七時発。電車は竜障害開催日とそれ以外で異なっているが、この日は六時、七時、八時、十一時、十二時、十五時、十七時、それぞれ一時間一本で計七本のみ。


「なるほどなあ。うちらだけ残されて、先に宿泊所の手続き進めてから向かってくださいって言われるわけだよ。いきなりここに来ても、そう簡単には宿は見つからんよな、これじゃあ」


「八つの競竜場の内、断トツで集客が悪いって聞いてたけど、そりゃあそうだよね。交通の便が悪すぎるもん」


「だけどさ、諏訪くん。うちらが住むのはこの辺だけど、競竜場はここからさらに電車で行ったところなんだよね。いったいどんな山奥にあるんだろうな」


「駅直結とはいえ、ここから電車で十分以上かかるんでしょ。よっぽどの好き者じゃなきゃ来ませんよね。そんなとこまで」


 あまりに長閑な風景に、大熊と諏訪は悪態が止まらない。一面に広がる雪化粧の施された田んぼに、雑賀も開いた口が塞がらない。


「……居酒屋はどこだろ?」


 ぼそっと呟くように言った雑賀の一言で、全員が顔を見合わせ周囲をキョロキョロとし始めた。少なくとも目に見える範囲に居酒屋と思しき店構えは見当たらない。


「おい、嘘だよな? たまたま駅前通りに無いってだけだよな? 近くにはあるんだよな?」


 狼狽した柿崎主任が、荷物をその場に置いて駅前通りを走り出してしまった。高遠主任も「冗談じゃねえ」と言って柿崎の後を追って行く。


 駅前通りと言っても、建物が数件並ぶだけの短い通り。走って行った二人はその先の大通りで左右に別れたらしく、すぐに見えなくなった。


「なんだか、えらい所に来ちゃいましたね。電車に乗ってて徐々に風景が寂しくなったから、嫌な予感はしてたんですよね」


「この感じだと、どこか遊びに行くって言ったら、岡山駅まで行くしか無いんだろうね。こうしてみると、田舎だ田舎だって言ってたけど、盛岡競竜場って都会だったよね」


「ほんとですね。最初に競竜場をここに作ろうって言った人は、いったい何を考えていたのやら」


 雑賀と仁科が笑い合っていると、保科の特大のため息が聞こえてきた。


「ここでこれだと、競竜場の回りは本当に何も無いかもしれんな。単に山を切り開いて競竜場作っただけだったりしてな」


「その可能性は大でしょうね。元々線路の通ってた横に無理やり競竜場を作ったんでしょうから」


「こりゃ、うちのかみさんが来たら、どんな文句言われるかわかったもんじゃねえな」


「大型商店も無いんだけど! くらいは言われそうですよね」


 保科と高梨がため息交じりで言い合う。


 そこに柿崎と高遠が、とぼとぼという感じで戻って来た。


「先生、宿舎は見つかりましたよ。ここから結構近くでした。古くも無く新しくも無くってとこじゃないでしょうかね。すぐ隣の建物が寮になってるみたいで、若い厩務員の姿がありましたよ」


「で、居酒屋は?」


 かなり引きつった笑顔でたずねた諏訪に、柿崎と高遠は同時に首を横に振った。その瞬間、全員の口から一斉にため息が漏れた。

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