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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第10話 竜障害

 今ここにいるのは六人だけ。元々諏訪厩舎には諏訪を含めて十二人が在籍していた。そこからすると半分は盛岡に残留した事になる。だが、諏訪からはあまり悲壮感のようなものは感じない。主任の高遠も、明日から始まる研修が楽しみなんて言っている。


 竜障害の協会本部は上尾駅から結構歩いたところにあり、周囲にあまり高い建物が無いせいで、ポツンと一棟だけ場違いな建物が建っているという印象を受ける。ぱっと見た感じでは十二階建てくらいだろうか。


 保科に近くの喫茶店で待つように言って、諏訪は高遠と二人で協会本部に向かって行った。


「じゃあ、そういう事だから、喫茶店で待つとするか。ああいうのはどれだけ時間がかかるか、わかったもんじゃないからな」


 そう言うと、保科は高梨、仁科、雑賀を引き連れ、駅前の喫茶店へと向かった。


「でも、保科さん。書面的な物っていうのは事前に提出していたりするんですよね? 一体、何をそんなに時間がかかるような事があるんですか?」


「俺たちはな、これから競竜の組織とは違う団体に所属する事になるんだよ。労組だって違うだろうし、そうなると管理書類ってのは一から作り直しになるんだよ」


「竜の情報は共有できるのに、人は共有できないんですね。なんだかなあ」


 珈琲を飲みながら、高梨が呆れ口調で言った。すると保科は高梨に顔を近づけ、少し小さな声で喋り始めた。


「俺もちらっと聞いた事あるんだけどさ、共有ってされてるらしいんだよ。だけどわざわざ作り直すんだって。そうする事で事務員が仕事してる感が出せるんだと」


「く、くだらねえ……」


「取り寄せた情報と提出された資料を照会して、間違いが無い事を確認しましたってやるんだって。そのためにわざわざ書式をちょっとだけ変更したりするんだそうだ。ほんとくだらないよな」


 あまりのくだらなさに、高梨は呆れて天を仰いでしまった。



 竜障害の公式戦が瑞穂で開始されてから三年が経過している。その為、巷にもある程度情報は流れている。さらに、竜障害に参加する事にしたと諏訪が通告してから、各人で竜障害について情報をかき集めている。

 そこから四人は自分たちがかき集めた情報の共有に入った。


 竜障害は八級という二足歩行の恐竜を走らせて速さを競い合うという事以外は、競竜とは全く違う競技である。

 まず距離からして全然違う。競竜の八級は短距離、中距離、長距離と三種の競争が行われていて、それぞれ距離は六六十間(千二百m)、八八十間(千六百m)、千百間(二千m)。

 対して竜障害は、一周は千百間だが、なんとそれを六周もする。当然一頭の竜で走らせたら、バテて障害を越えられなくなってしまい危険なため、二周毎に竜を交換する。

 さらに競竜の競技場は楕円形をしているのに、竜障害の競技場はわざわざいびつな形にして道をぐねぐねと曲げている。競竜の競技場は平坦なのに対し、竜障害は起伏があり、おまけに途中に柵が置かれている。


「映像見た限りだけど、竜の体力をどう持たせるかが、かなり鍵になりそうですよね」


「そうだなあ。俺もそんな風に感じたな。公式戦の結果を見ると、結構落竜棄権ってのが多い印象なんだよ。そうなると、うちらが竜の観察を怠ってしまうと、雑賀君が危険に晒される事になるかもね」


 高梨と仁科が同時に雑賀を見る。雑賀の顔がみるみる強張っていく。するとぽんと保科が雑賀の肩に手を置いた。


「心配すんな。お前さんはお前さんの仕事に専念すりゃあ良いんだ。俺たちは俺たちの仕事をきっちりやる。お互い仕事をきっちりやれば、無理なんてしなくとも、きっと結果は出るはずだ」


「ですね。さすがは保科さんだ。保科さんが言ってくれると安心感を感じますよ」


「安心してばかりもいられないんだぞ。六六百間(約十二km)以上をお前さん一人で竜を走らせないといけないんだから、その分の体力と精神力を付けないと」


 『六六百間』という単語に、高梨と仁科が同時に「長っ!」と声をあげた。雑賀も眉間を寄せて顔を引きつらせる。


「話によると竜具はくつわ以外付け替えらしいですね。二周した竜から騎手を降ろして、鞍と鐙を外して、それを次の竜に付け替えるんだそうで。それを装丁場に待機している厩務員がやるんだそうです」


「俺も聞いたよ。その付け替えの早さも竜障害の勝負の内なんだってね。もちろん留め金一個でも付け忘れれば、競争中に大変な事になっちまう。これまでと違ってうちらも一つにならないとだよね」


 厩務員の団結も重要だと高梨が鼻息を荒くする。仁科も力強く頷いた。

 すると保科が珈琲をすすって「なるほど」と呟いた。


「そうか。だから先生、あんなやり方をしたのか。団結できそうな厩務員とそうでない厩務員を振り分ける為に」


 その保科の見解に、高梨と仁科が「あっ」と声をあげた。雑賀も大きく口を開けて驚いている。


「確かに面と向かっては言えねえよな。ちょっとお前らの忠誠心を試させてもらうだなんて。なるほどなあ。あの人はあの人で、ここまで色々と考えていたんだなあ」


 すると喫茶店の玄関が開き扉に付いていた鈴がカランと鳴った。

 諏訪と高遠がキョロキョロと店内を見渡している。


「お待たせ。やっと事務手続きが終わったよ。じゃあ、これから宿舎に行って荷物置いて、夕方から呑みに行こうか!」

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