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4話【着いていくけど…】




「アルフォンス!お前がその女共に説明しろ」



小さくため息をついたオスカールが眉間に皺を寄せてそう言い放った。



「俺は職務があるからもう戻るぞ。フェルナンとフェリックスも一度部屋に戻れ」



この言い方から幼女2人がやっぱりさっきの横柄な態度の双子の王子なんだと分かる。


パッと見アンティークのフランス人形のように可愛いこのツインテールとポニテールの女の子達がさっきの高慢ちきなフェルナンとフェリックスなんだ……。


さっきまで全く見分けがつかなかったけど、ツインテの女の子…多分フェルナンの方はアルフォンスさんの腕から降ろしてもらうと俯きながらポニテのフェリックスと一緒に黙ったまま歩き出した。



うーん、何だか可哀想……。



あのサイズ感で項垂れてとぼとぼ歩いている姿はちょっと何だか抱きしめてよしよししたくなるわね。



「ケッ!!あんなの1ミリも反省してねぇわ!!人はそう簡単に変わらないんだからね」



タケちゃんが情け容赦なくシッシッと手で追い払うとそれに気づいたチビ双子はギロっとこちらを睨みつける。


そのサイズで睨まれたところで何にも怖くないんだけどね。



「早くしろ」



その態度に再びオスカールがキツく声を上げ、2人の背中を軽く押して大広間から3人纏めて出て行ってしまった。



「てかさぁ、あんたここどこよ?アタシ達帰り……帰りたくはないか」


「まぁ……帰りたくはないね」



アルフォンスさんに尋ねるタケちゃんの言う通り、別にあの家に帰りたいわけではないし何なら戻ったところでろくでもない父親の世話が待ってるだけ。


ただ何故こんなところにいるのか未だに分からなくて、未知のこの世界にこのままいるのはあんまり良くない気がした。



「……ごめんなさいね」



王妃様は玉座から立ち上がるとよいしょと重そうに赤ちゃんを抱えて頭を下げた。


ゆっくりと歩いてこちらまで来たそのお顔が本当に申し訳なさそうで、あのオスカールや横柄な双子と本当に血が繋がってるのかと疑うほど優しそう。


でもこの顔の小ささと美しさは確実に子供達3人に遺伝していて、驚異的的なサイズにガン見してしまった。



「どひぇー、フォミマのアンパンより……」


「小さいね……」



独り言のように話すタケちゃんの呟きに激しく同意してしまう。



「え、ヤバくない?アタシのが身長小さそうなのに顔はデカいって…ちょ、どう?どう?」



急にタケちゃんは王妃様の横に並ぶと見て見てわかちゃんとピースし始める。


や、ヤバいのはタケちゃんだって……!


一国の王妃様に対していくら何でもその態度はマズイと思う。


即打首にされかねないととヒヤヒヤしていると、王妃様はそんなことは気にしないのかにこにこと微笑むだけだった。


うーん、出来た人ね……。


美しく優しく、非の打ち所がないこの王妃様は一体何歳くらいなんだろう。


物凄く若く見えるし、淡い金髪の巻き髪もツヤツヤしていて胸元のリボンが可愛らしい。


とても4人も産んだとは思えない膨らんだスカートの上の折れそうな細い腰を見て、あれはコルセットとかでギュンギュンに締めてるのかしらと疑っていると、



「ばっばーーぶ」


「うわ、赤ちゃんってほんとにバブバブ言うんだ」



マナーも何もないタケちゃんがツンツンと王妃の抱く赤ちゃんを覗き込んでその頬を突っついた。


さっきからタケちゃんの行動に冷や汗の止まらない私はこれ以上好きにさせるのも危ないと王妃の元へと歩き出す。



「か、可愛い…女の子ですか?」


「もちろん。れっきとした女の子よ」



ピンクの洋服から女の子と分かるけれど性別って位の高い家だと大問題だから迂闊には言えない。


確認がてらの質問に誇らしげに答える王妃様の腕の中の赤ちゃんは小さくてつぶらな瞳でじっとこっちを見つめている。


絶対に言ってはいけないけど、



「やっぱ4人目は___」


「タケちゃんストップ」



慌ててタケちゃんの口を押さえつけたけれど言いたいことは私と同じだった。


この赤ちゃんだけがどう見ても細目で目の色も青じゃなくグレーがかっているし、しかも王妃様よりも栄養満点でぷくぷくしている感じから、上3人と違ってこの女の子だけ王様に似ちゃったんじゃないのかしら?


神遺伝子も4番目まではさすがに及ばなかったのかと軽くあやしてみると、みるみるうちに赤ちゃんの口がへの字に曲がってつんざくような泣き声が大広間に響き渡った。



「あーあー、わかちゃん泣かせた」


「ほとんどの子はこれで笑うんだけど……」



近所の保育園に清掃の仕事で入る時、本当はいけないんだけど、私達は園の子供達をあやしてあげながら清掃したりもする。


ノロとインフルで保母さんが壊滅状態の時は優しい園長さんに教えて貰って内緒で赤ちゃんのオムツを替えてあげたりミルク作りを手伝ったりしてたのよね。



「ほらほら、女の子なのに泣いたら可愛いお顔がだいなちでちゅよー」



ベロベロバー、とタケちゃんが激しく変顔をするともっと泣き出してしまい手に負えなくなってしまう。


この泣き方はもしかして機嫌が悪いとか人見知りしてるとかじゃなくシンプルにミルクが欲しいんじゃないかな。



「お腹が空いたのかしら……困ったわ、このお城には今私達しかいないのよ」


「王妃、使用人用のキッチンに行けばミルク位ならあるかと……」


「とりあえず行きましょうか」



チラ、とアルフォンスさんが私達にも視線を移すので2人で着いていきますと即答すると王妃様はとても安心したような顔でありがとうと言ってくれた。


もちろん着いていくわよ。


だってまだ全てが謎状態なんだもの。


突然こんなところ来ちゃったかと思えば目の前でマジックが起きて……何も分からないのに2人だけ大広間に残されるなんて無謀すぎる。


キッチンに行きがてら事情を話しますねと王妃様が優しく私達に声掛けをしてくれた。




_________


_______________




私達が転がっていた廊下とはまた別の長すぎるほどの廊下を、王妃様とアルフォンスさんの後ろをついてゆっくりタケちゃんと歩く。


扉も異常なくらいたくさんあって、こんなに部屋があったらどれがどこなのか分からなくて迷子になりそう。


私とタケちゃんの狭すぎる4畳半分この自室を思い出して少し笑ってしまった。



「ねえ、これトイレ漏れそうな時ヤバいよね」


「こんなに素晴らしいお城でそんなこと言うのタケちゃんくらいだよ」



しばらくして泣き疲れて眠ってしまったのか静かになった赤ちゃんを抱えた王妃様の足がぴたりと止まる。



「……アルフォンス、赤ちゃんって重たいのね」


「俺の婆さんに見てもろとりましたから、王妃は抱っこなんて初めてでしょう」



会話をしながらそのまま王妃様を気にすることなくスタスタ行ってしまおうとするアルフォンスさんを見て私とタケちゃんは顔を見合わせる。


よくよく考えたら王妃様はとても位が高い人なので子育てなんから全部乳母や召使いがやるはずで……。


やっぱり高貴な生まれの人は何もしないのねと思うけれど、でもそれが正解。


訳あって今は乳母がいないのなら従者っぽいアルフォンスさんが抱っこするべきではと口を開こうとした瞬間、



「ちょっとおっさん、あんたが赤ちゃん抱っこしなさいよ」


「お、おっさん!?俺はアルフォンスや!って……え!?」



タケちゃんが私の言いたかったことをハッキリ言ってくれて助かった。


そうよね、やっぱり私もそうするべきだと思う。



「お、俺は……」


「あんたマリーより身分下なんでしょ?重いって言ってるんだから察しなさいよ」


「王妃を呼び捨てに___」


「気が利かねぇな」



タケちゃんが赤ちゃんを王妃から奪って無理やりアルフォンスさんに押し付けたけど、赤ちゃんはママがいいのか火がついたように再び泣き始める。



「しっかり抱きなさいよおっさん!」


「おっさんやないて!アルフォンスや!!」



慌てふためきぎこちないアルフォンスさんの抱き方にタケちゃんが叱るけれどどうにも下手くそすぎてビビる。


居心地が悪いのが泣き止まない赤ちゃんは顔を真っ赤にしていて、やっぱりママじゃなきゃダメなのかと王妃様を見れば、



「ローズマリー!何をわがまま言ってるの!?立場をわきまえなさい!!今すぐ泣き止むのです!!」


「___!?お、王妃様!?赤ちゃん、赤ちゃんですから!!」



赤ちゃんに向かって突如怒鳴りつける王妃様に慌てて仲裁に入ってしまった。


う、嘘でしょ!?


こんな赤ちゃんに泣き止めと言って泣き止めば世の母親たちは苦労しない。


も、もしかして赤ちゃんが泣くものだって分かってない……とか……でもそういうことよね!?


アルフォンスさんのお婆さんが乳母をしていたのならどの子もまともに子育てをしたとは思えないし、そもそもそんな事はしなくていい身分のお方だし。


ただあまりにも目を釣りあげ怒る王妃様の姿を見て赤ちゃんですらその怖さが分かるのかヒッと泣き止んでしまった。



「お、男の人が怖いのかもしれませんよ?女性の方が安心する赤ちゃんもいますし……」


「違うよわかちゃん、おっさんの抱き方が下手くそなのよ。乳母の孫のくせに使えないわね……貸しなさいよ」


「あ、あかんあかん!ローズマリー様あかんで!次はもうないんやで!?」



アルフォンスさんがまた意味不明なことを言ってるけど無視してタケちゃんが赤ちゃんを奪い取上げると乱雑に高い高いと持ち上げた。



「タケちゃん!危ないって」


「首はもうがっつり座ってるから大丈夫だって、よく見りゃでかいし8ヶ月くらい?あんたローズマリーっての?可愛いわね!」



ねーとタケちゃんは赤ちゃんを見て笑ってるけど恐怖に怯えてるんじゃないのかしらアレは。


それにしても赤ちゃんに向かって次は無いだなんて、やっぱり貴族はルールが厳しいというか娘でも王妃様に処罰されちゃうのかしら?



何回か泣いたら……捨てられるとか!?



勝手に想像して震えがっていると、



「そうそう、その子はちょっとくらい乱暴に扱っても大丈夫ですからね」



まるで王妃の言葉の内容が分かるみたいにタケちゃんの手の中の赤ちゃんがウギャーと泣き叫んだ。



「お、王妃…中身はアレやけどサイズは赤ちゃんやで……」


「だから何だというの」



アルフォンスさんが王妃様の厳しさを何とか窘めようとしているけど王妃様は氷のように冷たい目で赤ちゃんを眺めている。


美人が怒ると迫力が増してなかなかの凄みを感じるけど、でもまぁ王妃ってそういうものだし。


『ベルハナ』のマリーもちょっと我儘なところがあって、でもそれが王妃の魅力でもあるわけだしと自分を納得させた。


見た感じ王族ならではの色々なルールがありそうで前途多難だなと少し急ぎ足でキッチンへ向かった。







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