3話【魔法と幼女】
「先程から聞くに耐えない…!」
「兄上様をオスカワル、オスカワルと連呼するなんて!!召喚された者で無ければすぐ打首だぞ!」
「……2人とも、落ち着きなさい」
「母上!これが落ち着いていられますか!?」
「そうです母上!許し難い大罪ですよ!?」
フェルゼントの面影のある2人は怒鳴り声を上げていてその言葉から王妃様の息子だと直ぐ分かる。
母親の制止する声を無視する2人の服装はやっぱり貴族そのものでどうやら双子の王子みたい……って、王妃様の息子なんだから王子様か。
2人ともオスカール様と同じ青い瞳を持ち刺繍糸のような綺麗な銀髪をマッシュにしていた。
うーん、そっくりすぎて見分けがつかないな……。
唯一違うのはリボンタイの真ん中に嵌められたブローチでガラス玉みたいな宝石が赤か青かってことくらい。
「はぁ?何言ってんのよ、オスカワルじゃなくてオスカルね」
タケちゃんがポリポリとボブの頭を掻きながら2人を見て呆れ顔で片眉を上げた。
「タケちゃん違うよ、オスカール、延ばすのよ」
「えー?似たようなもんじゃんオスカルもオスカールも」
「き、貴様……!!」
屈辱と言わんばかりに震える双子の片割れがこちらにズカズカと歩いてくる。
め、めっちゃ怒ってる!?
まさかその腰に付いてる豪華な剣でも抜く気かしらとタケちゃんと銀髪を交互にじっと見つめると、
•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♬
突然コンビニの入店音がどこからか流れてきた。
「え……ま?ここフォミマある感じ?」
「いやさすがにこの雰囲気でコンビニはないと思う」
その曲はタケちゃんの言う通り美園座付近にあるフォミマと全く同じで、2人でついキョロキョロと辺りを見渡した。
どうしてこんなに豪華な宮殿内で私達が仕事終わりによく行っていたコンビニの入店音が聞こえるの?
さすがにこの世界観とマッチしなさすぎて聞き間違いかと耳を疑うけど、
「あ、あかん!!〝魔女の旋律〟や!フェル様、リック様それ以上はあかんで!!!」
私達の隣にいたアンドレークは目をひん剥いて顔を真っ青にしていた。
大慌てで銀髪の2人の前に立ち塞がりあかんあかんと宥めているけど、その慌てぶりにこの音が何かの合図なのかしらと首を傾げる。
「魔女ぉ?何言ってんの?これはフォミマの音楽じゃん」
「……おい、お前。まず名を名乗れ」
ねー、と私に同意を求めるタケちゃんに向かってそれまでダンマリを決め込んでいたオスカールがようやく口を開いた。
「イヤよ。大体まずあんたから本名を名乗りなさいよオスカール」
「無礼者め……オスカワルと何度も言うな」
タケちゃんがピシャリと言い放った言葉にイラっときたのかオスカールの口調が随分キツい。
「だーかーらー!オスカルでもオスカールでも何でもいいけどまず自分から名乗れってば!」
短気なタケちゃんがキレた瞬間、赤い宝石を持つ双子の片割れが怒りも顕にアンドレークを押し退けこちらへ向かってくる。
「貴様、女の分際で兄上に対して生意気だぞ!女には名前を名乗る価値もないというのに___」
「あかんあかんあかんあかん!!!フェル様あかんて!!!」
〝NYAON♫〟
……え?
またどこからか馴染みの猫の鳴き声の決済音が聞こえてきた。
その瞬間、ボン!という大きな爆発音がして目の前が煙に包まれる。
___ ば、爆発!?
タケちゃんは大丈夫かしらと探ろうにも煙を吸ってしまいむせ返る。
「ゲホッ……」
一体何が起きたのと何とか目を開くとアンドレークが膝まづいてがっくり項垂れる姿が見えた。
「ま、〝魔女の鳴き声〟や……やってもうた……」
魔女の鳴き声?
それは何なのよと眉根を寄せると目の前には赤いドレスを着た小さな女の子が1人ひっくり返っていた。
「……え!?だ、誰!?」
さっきまでこんな小さな子はいなかったはずなのにと驚いてつい声を上げてしまった。
その女の子は銀髪を赤いリボンで結んでツインテールにしていて起き上がった途端に自分の掌や服装をまじまじと見つめている。
「な、なにがいけなかったでちゅか!?わたちはあたりまえのことを__」
「フェル様!あかんて!!もうこれ以上一言も話してはあかんーーーー!!」
どう見ても3.4歳くらいのサイズの赤いドレスの女の子は半狂乱になってしまっていて、アンドレークまでその女の子に向かって負けじと狂ったように叫んでいる。
___きゅ、急展開すぎて、全くついていけない。
さっきの赤い宝石をつけた双子の片割れはどこへ行ってしまったの?
前を向くとオスカール様は眉間に手をあて深いため息をついてるし、マリー王妃は動じずに抱えた赤ちゃんをあやしてる。
「ははーん…この子もしかしてさっきの銀髪横暴男じゃない?」
「え!?タケちゃん何で分かるの!?」
「えー…何となく?これがさっきフェルって呼ばれてた奴なんでしょ」
ツインテの女の子はタケちゃんのバカにしたような言い方にムカついたのか腕をぐるぐると回して殴りにかかってきた。
でもタケちゃんはその子の後ろに素早く回ると背後からツインテールを片方ずつギュッと掴んでほれほれと馬の手綱を引くよう強く引っ張る。
「い、いたいでちゅ──!うわあああん!」
「おーほほほほ走れ走れ」
タケちゃんが容赦なく思い切り引っ張ったせいかツインテの女の子は大泣きしてしまった。
これじゃあもうどっちが悪者なのかわからないけど小さい子相手なのでギリギリタケちゃんが悪い。
「き、貴様……!!」
「やめろフィリックス!!」
今度は青い宝石を持つ双子の片割れがオスカールの制止も聞かずに目を吊り上げてこちらに向かってきて思い切りタケちゃんを突き飛ばした。
「タケちゃん!!」
バランスを崩して倒れたタケちゃんを受け止めようとした私まで一緒に転んでしまう。
「いってて……」
「タケちゃん大丈夫……?」
青い宝石の銀髪の片割れはそんな私達を見てフンと冷たい目をしたままサッと女の子を抱き上げる。
そのままアンドレークに抱くよう命じるけれど、女の子はタケちゃんに余程強く引っ張られたのか抱っこされてもまだわんわんと泣いていた。
膝をさすりながらタケちゃんが片割れをキッと睨みつけると、
「レディに何すんのよ!!男のくせに手を上げるなんて最低!!ゴミチリカスジャコ!!」
「タ、タケちゃん、ジャコは悪口じゃないかも」
「ジャコくらい器の小さい男って意味よ!!」
「こ、この……!!女の分際で……!!いつお前にフェルを愛称で呼ぶことを許したんだ!?」
「はぁー!?あんたは器もあそこも全てが小さそうね!!包茎クソ野郎!!」
タケちゃんは舌をべろべろと出すとバカバカと何度も連呼し、極めつけには青の王子の白シャツに向かって思い切り唾まで吐いた。
「こ、この売女め___」
わなわなと震える青の双子の片割れが手を上げタケちゃんを殴ろうと振りかざすと、
〝NYAON♫〟
またまた猫の鳴き声の決済音が聞こえると同時に再び広間は真っ白な煙に包まれる。
物凄い煙の量にむせ返ってしまった私は今度はそれを退けるかのように手を振るけどなかなか霧散しない。
「タ、タケちゃんっ、ケホケホッ」
這いつくばりながら姉は大丈夫かと手を伸ばして掴んだ先は長いスカートのようで、煙が少しずつ消えていくとそこには青いリボンを結んでポニーテールにした銀髪の幼女がひっくり返っていた。
2度目のマジックに、私は呆然としてしまう。
腰を抜かした私をタケちゃんが引っ張って立ち上がらせると青いドレスを着たポニーテールの女の子をゲシッと足蹴にした。
「い、いたいでしゅねっ!?なにしゅるのよっ」
「あ、ああああかん!リック様!今回は旋律もすっ飛ばして直ぐやなんて…もうどっちもあかん……王妃
申し訳ない……!!」
私達の隣で絶望的な表情で土下座したアンドレークを見た王妃様は玉座で優雅な美しい微笑みを浮かべている。
「フフッ……いいのですよアルフォンス。説明するよりこの方が早かったかもしれません」
2人の会話から関西弁男の名前はアンドレークではなくアルフォンスなのかと理解するけど、アルフォンスはもう終いやと大袈裟に平謝りしている。
突然訳の分からない世界に来たかと思えば、目の前で双子の皇子が2人とも幼女に変身するなんて……。
一体何が起こっているのか検討もつかないけれどただ1つだけ思うことは、
「何しに来たんだ私らはここに」
「だよねぇ……」
何故この世界にいるのかということで、それはタケちゃんも同じ思いのようだった。