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第61話:魔法競技祭当日――恐怖の影

 甲種・二期生は全員、ヒカルが新魔法“モラタ”を使用した際に突然現れた少女の捜索を続けていた。


 当初、少女が現れた場所である“戦闘訓練場・一”を集中的に調査したが、そこにいたのは精神操作を受けた貴族関係者が徘徊しているだけで、少女に関する手掛かりは全く得られなかった。


 そのため、各チームは範囲を広げて捜索を続けることになった。


 ニイチセンのカイトとミヤコは、王血館へ向かった。ニイニセンのパオタロ、パイヤン、パルロは、“戦闘訓練場・二”を含む周辺エリアの捜索を担当した。


 そして、ニイサンセンのケイトとメイナは引き続き“戦闘訓練場・一”に残り、少女の捜索と並行して、精神操作されて徘徊する貴族関係者たちを安全な区域へ誘導し、保護する任務を受け持った。



「クーデターで戦場と化したこの状況で、俺たちは迷子探しか……」


 パオタロはやや呆れた様子で呟いたが、それでも警戒を怠らず周囲を確認していた。


「それだって重要な任務でしょ?」


 パイヤンがさらりと返すと、パルロがニヤリと笑ってからかった。


「パイヤン、お前ちょっと嬉しそうじゃん。本当はこういう任務のほうが嬉しいんだろ?」

「そ、そんなわけないでしょ!」


 パイヤンが赤くなって反論する中、三人の担当エリアである“戦闘訓練場・二”の捜索も終盤に差し掛かっていた。しかし、少女の姿や痕跡は一切見つからなかった。


 パオタロは小さくため息をつき、次の行動を提案した。


「このエリアはほぼクリアだ。他の場所へ移動するか――」


 その時、“戦闘訓練場・一”の方向から切羽詰まった悲鳴が響き渡った。明らかにケイトとメイナの声だ。


「急ぐぞ!」


 パオタロの合図と同時に、ニイニセンの三人は即座に“戦闘訓練場・一”へ駆け出した。



 現場に到着した三人は、その異様な光景に言葉を失った。虚ろな瞳をしたガブリエウが、意識を失った少女を肩に担いだまま、無数の鋭利な結晶を宙に浮かべ、ケイトとメイナを容赦なく襲撃している。結晶は不気味な輝きを放ちながら、生き物のように二人を執拗に狙っていた。


 ケイトは恐怖で地面にへたり込み、必死に火属性の防御壁を維持していたが、手は激しく震え、防壁は弱々しく揺らいでいた。メイナはその隣でくっついて二人を守るように氷のドームを展開していたが、絶え間ない攻撃で何度も砕かれ、そのたびに必死で再構築を繰り返している。その都度、わずかな隙間から侵入する鋭利な結晶が二人の肌を冷酷に切り裂き、途切れ途切れの悲鳴が、訓練場内に痛ましく響き続けていた。


「ちっ……めんどくせぇ状況だ」


 パオタロは苛立ちを吐き捨てるように舌打ちし、右手に魔力を集中させながら素早く指示を飛ばした。


「パルロ、少女奪取の支援要請を頼む! パイヤンは風属性で俺の火を支援しろ!」

「う、うん……!」

「わかった!」


 二人の返事を待たず、パオタロは炎のカーテンを生成し、ケイトとメイナを守るようにガブリエウとの間へと展開した。その動きに必死で反応したパイヤンが風の魔力を合わせて炎を激しく煽ると、火炎は一気に勢いを増し、厚く頑丈な防壁へと変貌を遂げる。鋭い結晶の猛攻がようやく止まり、ケイトとメイナの荒く乱れていた息遣いも、わずかに落ち着きを取り戻しつつあった。


 その隙にパルロは通信機を取り出し、本部への専用通信を開いた。


「こちらニイニセンのパルロ。“戦闘訓練場・一”にてガブリエウがニイサンセンを攻撃中。戦闘に介入しましたが、ガブリエウが少女を確保しているため、攻撃手段が限られています! 至急、少女奪取のための支援を要請します!」


 即座に作戦本部からの一斉通信――カエイの声が飛び込んできた。


『状況は把握した。付近にニイチセンがいるな? 直ちに“戦闘訓練場・一”に向かい、ニイニセン及びニイサンセンと協力して少女を奪取、ガブリエウを撃破せよ』


 その間に、パオタロとパイヤンは素早くケイトとメイナのもとへ駆けつけた。


「おい、大丈夫か?」


 パオタロが険しい顔で尋ねると、ケイトとメイナは恐怖に震えながらも懸命に頷いた。


 ガブリエウは無数の鋭利な結晶を絶え間なく放っているが、それらはすべて炎のカーテンによって完全に遮られていた。しばらく攻撃を続けていたが、やがて諦めたように結晶の生成を止めると、虚ろな瞳をパオタロたちに向け、静かに立ち尽くす。


 その異常な様子を目にした瞬間、パオタロの脳裏にある可能性が閃いた。


 ――こいつ……もしかしてクーデターに加担してるんじゃなくて、精神を操作されてるだけなのか……?


 

 真相を確かめるべくパオタロは問いかける。


「おい、ガブリエウ。その女は何者なんだ?」


 しかしガブリエウは、ふらふらと身体を揺らすだけで全く反応を示さない。


「質問を変えてやる。その女を連れてどこに行くつもりだ?」


 再び問いかけるが、ガブリエウは虚ろな視線を投げ返すばかりだった。


 ――完全に精神を支配されているようだな……まったく意思が感じられない。


 そのとき、通信を終えたパルロが駆け寄ってきた。直後、パルロの持つ通信機から衝撃的な内容が飛び込んできた。


『待て……ヒヨリから本当に攻撃を受けているのか!? ニイチセン、状況が理解できない!』


「なっ、なんだと……?」


 パオタロは一瞬、自分の耳を疑った。


 ――まさか……ヒヨリさんも精神を操作されているということか……!?


 胸が激しくざわつき、焦燥感が全身を駆け巡るのを感じた。


 炎のカーテンの向こう側にいるガブリエウは、依然として虚ろな瞳をこちらに向けている。先ほどまで無数に放っていた鋭い結晶の攻撃はすっかり止み、今やふらふらと身体を揺らすばかりで、もはや戦闘能力すら感じられない。


 ――こいつのように戦闘能力が落ちた状態ならまだいいが……そうでないならニイチセンはかなり危険な状況になるかもしれない……。


 その時、通信機から新たな一斉通信が響き渡った。


『甲種部隊長シシンより全部隊へ通達。エドワード殿とヒカルは無実だ。繰り返す――エドワード殿とヒカルは無実である。各隊、エドワード殿と接触次第、その行動を支援せよ』


 息つく間もなく、通信は続いた。


『それからヒカル! 新魔法“モラタ”を使用した状態なら、戦闘の支援が可能なはずだ! すぐにニイチセンの救援に向かえ! 俺もすぐに向かう!』


 その内容を耳にしたパオタロは、驚きと戸惑いで思わず目を見開いた。


 ――ヒカル……? 今さら奴に何ができる……。


 属性解放の儀で無属性だと判明し、乙種に異動した後もろくに努力をしているようには見えなかった。確かにここ数か月、エドワードに指導を受けているようだったが、肝心の新魔法大会では魔法に失敗し、この混乱を招いた元凶でもある。


 そんな奴が、ヒヨリさん相手に戦えるはずなどない――。

 パオタロがそう考えた直後、再び通信機が声を響かせた。


『こちらヒカルっ!! 直ちにニイチセンの救援に向かいますっ!!!!』


 力強く響いたその声に、パオタロは思わず通信機に目を落とす。胸の奥で、押し込めていたはずの複雑な感情が小さくうごめき、無意識のうちに口元が緩んだ。


 ――はっ、何を今さら。期待するだけ無駄だろうが……。


 自分自身に言い聞かせるように、パオタロは苦い息を吐く。


 ――まぁいい、あいつのことはもう知らん。……本当にやれるなら、好きにやってみろ。それより、目の前の状況だ。


 ガブリエウが抱えている少女のせいで、まともな攻撃ができない。ニイチセンからの援護も期待できない。つまり、状況はさらに厳しくなったということだ。


 だが、それでもやらねばならない。


 ――まずはあの女の奪取だ……!


 パオタロは唇を噛み、通信機から炎のカーテンの向こう、ガブリエウへと視線を戻す。しかし、その一瞬の隙を突かれたのか、炎のカーテンの向こう側には、ガブリエウの姿が忽然と消えていた。


 ――しまった、どこへ消えた……!?


 焦りが背筋を伝い、急いで周囲を見回すが、その姿はどこにも見当たらない。まさかと思い、咄嗟に上空を見上げる――だがその直後、足元から激しい振動が襲った。


「なっ、なんだっ!?」


 パオタロの叫びと同時に、足元の地面が轟音とともに裂け、大量の土煙が視界を遮った。その裂け目から、冷たい風の刃が殺意を孕んで襲いかかる。


「全員下がれっ!」


 パオタロは咄嗟に火のドームを展開し、パルロたち全員を覆い隠す。土煙の裂け目からパオタロが目にしたのは、少女を無造作に肩に担ぎ、虚空を見つめたままのガブリエウだった。


 ――土属性で俺の炎のカーテンの下にトンネルを掘り、奇襲してきたのか……!


 ガブリエウの周囲に浮かぶ無数の鋭い結晶が、間髪入れず激しい勢いで襲い掛かってくる。火のドームは凄まじい勢いで削られ、防御の限界が迫っていることは明らかだった。


 ――風と土の混合魔法か……! くそっ、厄介だ……!


 歯を食いしばったパオタロは仲間たちに鋭い指示を飛ばす。


「パイヤン、もう一度、風で支援してくれ! パルロは隙を見てガブリエウの態勢を崩せ! そのタイミングで、ケイトとメイナは火と水で小規模な水蒸気爆発を連続で起こして奴の目と耳を奪うんだ! その混乱に乗じて俺があの女を奪取する!」


「う、うんっ!」

「任せろ!」


 パイヤンとパルロが即座に応じ、ケイトとメイナも緊張した面持ちで頷く中、パオタロは火のドームを素早く張り直していた。それにパイヤンが風の魔力を合わせることで、防御はより強固なものへと変貌する。


 しかし、それでもガブリエウの放つ結晶の猛攻を防ぐのは難しく、ドームが崩れるのは時間の問題だった。


 ――くそっ、これでも長くは持たないか……!


 焦りが生まれたその瞬間だった。

 ガブリエウの足元が唐突に泥のように崩れ、その予期せぬ事態にガブリエウは大きくよろめき、動きを止めた。


 パルロの土属性の魔法だ。絶好のチャンスが訪れた。


「ケイト、メイナ! 今だっ!」


 パオタロは大声を張り上げ、少女を奪取するべくガブリエウへ向かって飛び出した。


 だが、指示していた水蒸気爆発は起こらなかった。


 パオタロは咄嗟に振り返った。パオタロの目に映ったのは、指先から弱弱しく霧散した魔力を茫然と見つめ、膝をガタガタと震わせるケイトとメイナの姿だった。その表情はこわばり、二人を完全に縛り付ける恐怖の影がはっきりと見て取れた。


 その瞬間、鋭い結晶が冷たい光をまとい、一斉に襲いかかった。即座に巻き起こした炎の旋風が結晶の大半を弾き飛ばしたが、防壁を突破した数本の結晶が容赦なくパオタロの身体を貫いた。


「っば……かやろ……」


 パオタロは自らの腹部へ視線を落とす。そこには、鋭い結晶がすでに深々と突き刺さっていた。


「ぐはぁっ……!」


 激痛が稲妻のように全身を駆け巡り、視界が真っ白に染まった。意識が遠のきかけるが、必死に歯を食いしばって耐えた。


 ――ここで俺が倒れたら……一気に戦況が崩れる……!


 だが、パオタロの意思とは裏腹に、身体から一気に力が抜け落ち、地面に膝をついてしまう。必死に傷口を押さえるが、指の隙間から鮮血が止めどなく溢れ出す。手のひらは瞬く間に真っ赤に染まり、その鮮烈な赤が視界を滲ませた。

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