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第50話:魔法競技祭当日――イチゴの葛藤

 壁内に最初に侵入したのは、イチサンセンだった。

 フウコがシスイとエミリの分まで風を操ることで、三人は静かに、そして迅速に上空を進んでいる。


 壁内に入った瞬間、エミリはすぐに違和感を覚えた。

 市街地の様子がおかしい。人々がまるで正気を失ったかのように、無秩序に街を彷徨っている。普段は活気に満ちているはずの市場も、何かを求めて歩いているというよりは、ただ無意味に動き回っているだけに見える。


 ――これは一体……?


 エミリが戸惑いを隠せず周囲を見回していると、フウコが鋭い声で口を開いた。


「精神操作されているのかもしれない。あの巨大な魔法陣は、二重陣だったってことかしら?」


 その言葉に、シスイが軽く鼻を鳴らして応じる。


「あらフウコ、あなたにしては賢明な推理ね。二重陣なら、精神操作の魔法陣だけは別に維持している者がいるということ。ただ、魔法陣は消滅したけれど効果だけ残っているという可能性もあるのではなくて?」


 フウコが苛立ちを隠さず、すぐに切り返した。


「シスイ、その厭味ったらしい言い方、いい加減なんとかしなさいよ。エミリ、本部に連絡を」


 エミリはすぐに専用通信で作戦本部への状況報告を始めた。


「こちらイチサンセン。壁内市街地にて住民の動きに異常があることを確認。精神操作が疑われます。魔法陣が二重構造の可能性あり。現在の魔法陣の状況を報告願います」


 エミリが状況を報告する間にも、フウコは思考を巡らせる。


 ――あれだけ巨大な魔法陣、その紋様を維持するには……。


 フウコは鋭く目を細め、シングウ城の尖塔を見上げた。

 そのとき、作戦本部からの一斉通信が入る。


「巨大魔法陣は二重構造と判明。一方は消失したが、もう一方は現在も維持されている模様」


 フウコはシスイに視線を送ると、シスイも小さく頷いた。


「イチサンセン、尖塔に向かうわよ。エミリ、作戦本部に行動許可を急いで要請して」


 その後、行動許可を貰ったイチサンセンは尖塔へと侵入。

 だが、そこに敵の姿はなかった。


 フウコは苛立ちを隠せず、尖塔の窓から外に浮遊し、周囲を見回す。

 ここより高い場所は存在せず、他に巨大な魔法陣を見下ろせる場所も考えられなかった。


 沈黙が訪れたその時、シスイが冷静に口を開いた。


「あらフウコ、どうして魔法陣を上から見下ろすことばかりにこだわるのかしら? 逆に、魔法陣を下から見上げている可能性だってあるでしょう?」


 フウコは一瞬目を見開いたが、すぐにシスイの意図に気づいた。


「……シスイ、あんたの説明は本当にわかりにくいのよ!」


 フウコは苦々しく呟きつつも、すぐにエミリへ指示を出した。


「エミリ、地下深くへと潜れるトンネルを生成して。敵は地中から巨大魔法陣を管理している可能性が高いわ!」

「了解です!」


 エミリは素早く魔法を発動し、地面に向けて手をかざした。地中から響く音と共に、三人を地下深くへと導くトンネルが口を開いた。


「こちらイチサンセン。尖塔では敵影を確認できず。敵は巨大魔法陣を地下から管理している可能性が高いため、現在より地下深部へと潜入を開始します」


 エミリが通信を終えると、三人は即座にトンネルを潜り地下深部へと侵入を開始した。



 一方その頃、他の班も続々と壁内への侵入を果たし、それぞれの目的地を目指していた。市街地では精神操作を受けた民衆からの襲撃に遭遇したものの、乙種諜報部隊が巧みに敵を引きつけてくれたおかげで、大きな混乱もなく目的地へと向かうことができていた。


 そして最初に敵との遭遇を果たしたのは、地下牢へと急行したイチゴセンだった――。


「待て……地下牢のほうから人の声が聞こえるぞ」


 レオが鋭い表情で静かに制止をかけると、イオとテオも緊張を高めながら足を止めた。

 どうやら人の声は、地下牢のほうから聞こえてくるようだ。


「もしかすると……俺たちは大当りを引いちまったのかもな」


 その瞬間、風の刃がレオのすぐ横を通り過ぎていった。

 イチゴセンの三人はとっさに、小部屋へと身を隠す。


「あの連中、誰かを地下牢に捕らえて、それを守ってるってことだろ……。テオ、本部に状況報告を」


 テオは慌てて専用通信を起動し、作戦本部に繋げる。


「こ、こちらイチゴセン。地下牢付近にて、て、敵と遭遇。そ、それとは別に、地下牢内から声が聞こえてきました。これより戦闘に入ります!」


 レオはテオが通信を行う間、小部屋の陰から注意深く通路を覗いた。


 ――敵は三人か。まぁいい……上等だ。


 そのとき、作戦本部から一斉通信が入る。


『イチゴセン、聞こえるか。地下牢に捕らえられているのが王族なら、敵は相当な実力者だ。無理に仕掛けるな。可能な限り交戦を避けろ。こちらからモンドとカイエンを救援に向かわせた。それまでなんとか持ちこたえてくれ』


「イ、イチゴセン、りょ、了解です」


『イチサンセン以外の甲種各班。目的地に異常がないことを確認次第、地下牢へ急行してくれ』


 テオの専用通信が切れると、イオが慎重に口を開いた。


「レオ、ここは本部の指示に従って救援を待つべきだ」


 だがレオは鋭い目で通路の奥を睨みつけたまま、小さく首を振った。


「いや、敵にはすでに気付かれている状況だ。それに本当に王族が人質にされてるってんなら、呑気に待ってる余裕はねぇ……。もし人質に手を出す気配があったら、多少強引にでも即座に突入する。それまでは遠距離攻撃中心で仕掛け続けて、俺たちで時間を稼ぐんだ。いいな?」


 レオの強い言葉にイオとテオは互いに視線を交わし、小さく頷いた。

 レオは唾を飲み込んだ。


「イオ、準備はいいな?」

「ああ、いつでもいける!」


 レオは素早く小部屋の陰から手を伸ばし、通路一帯にミスト状の霧を展開した。


「イオ、今だ!」


 その合図と同時に、イオは通路に向けて右手をかざす。霧は瞬時に高温の蒸気へと変貌し、通路全体を灼熱の空間へと変えた。


「やったか!?」


 だが、その瞬間だった。灼熱の中を猛スピードで突っ切る影があり、直後、レオは鋭い剣撃に襲われた。


「――っ!」


 直撃を覚悟したその刹那、テオが咄嗟に防壁を生成し、攻撃を防いだ。防壁はそのまま小部屋の入口を塞いだ。


 ――こいつ……かなりやべぇ……!!


 通路には悠然と立つ敵の男。イチゴセンの三人は小部屋に追い詰められ、一瞬で逃げ場を失っていた。


「君たちは三つ子だと聞いていたが、連携は随分お粗末だな。さっきの攻撃も二人だけの連携だっただろう? せっかくの一卵性ボーナスも二人分しか活かせていないようだ」


 男の挑発に、レオは苦々しく吐き捨てた。


「うるせぇ、こっちの作戦に口出しすんじゃねえ!」


 ――……ちくしょう、言い返したいが実際こいつの言う通りだ。


 双子だけの一卵性ボーナスでは魔力値が20~40%しか上がらない。レオとイオの魔力値は元々70。双子のボーナスだけでは魔力値98が限界だった。モンドやカイエン、フウコ、シスイのように魔力値100を誇る者たちがいる以上、それを超えなければ特別な武器にはなり得ない。


 しかし、現実問題としてイチゴセンの三人目、テオは普段からマイペースすぎて連携が取れない。レオたちは、この課題を午後に控えていた“チーム対抗戦”までに克服し、“レイテセン”への名称変更を勝ち取るつもりだったが、結局間に合わなかった。


 そのとき、作戦本部から一斉通信が飛び込んできた。


『イチイセン、イチヨンセンは遭遇した敵を速やかに撃破せよ! それとカイエン、聞こえるか!? そちらに乙種救護部隊を向かわせた! これより総指揮権はカエイに移譲し、俺が救援に向かう! それまでモンドを頼む!』


 続いて、苦痛に耐えるようなモンドの声が通信に乗った。


『イチニセン……モンドだ。すまない、専用通信を使う余力がなく……一斉通信を使わせてもらった……』


 すかさずカイエンが遮るように叫ぶ。


『もう喋るな、モンド! こちらイチニのカイエンだ! 相手は第一貴族テックマン家のアーヴィング。ここは属性的に俺のほうが有利だ、一人でなんとかしてみせる! シシン、貴様は王家の方々の安全確保を優先しろ! すなわちイチゴセンの救援に向かってくれ!! ……すまない、モンドの容態が深刻だ。イチニセンは通信から離脱する!』


 一斉通信の内容を聞き、イチゴセンの三人は驚愕の表情で顔を見合わせた。

 通路側に立っていた男はそれを聞いて、余裕の声色で口を開く。


「王血部隊の柱石と謳われたモンドもこの程度とはな……。だがシシンが来るのはさすがに面倒だ。手早く国王を始末させてもらうとしよう」


 言葉を終えると、その男は水音を立てながら地下牢の方へと去っていった。


 レオは鋭い眼差しでイオとテオに目配せを送る。

 二人は無言のまま小さく頷いた。


「イチゴセン、今から地下牢へと向かう敵を叩くぞ。いいか、三人で息を合わせて進むんだ!」


 テオが防壁を消失させると同時に、レオが霧の立ち込める通路へと躍り出た。敵の姿は見えないが、地下牢へと続く通路の奥からは水を踏むような不気味な足音だけが響いてくる。


 レオはその足音を追った。

 イオとテオも後に続いたが、やはり発動したのは二人分のボーナスだけで、徐々にテオが遅れ始めていた。


 その瞬間だった。


 レオは背後から鋭い刃に貫かれる感覚に襲われた。激痛が走り、そのまま通路に崩れ落ちる。振り向くと、イオとテオもすでに倒れていた。


 ――後ろからだと……!? 馬鹿な、強すぎる……。


 必死に視線を上げると、そこには無感情な瞳で見下ろす、第一貴族テックマン家当主・エドワードが立っていた。

 エドワードは僅かに目を細め、静かな口調で告げる。


「勘違いするな。私が強いのではない。お前たちが弱すぎるのだ。一体これまで何をしてきた? 君たちの実力なら、“イチゴ”という名が相応しかろう」


 そして彼は背を向けると、そのままゆっくりと歩き始めた。


「ウカク、サカク、止めを任せる。少年たちの命を奪う趣味は私にはない」

「はっ」

「はっ」


 返事をした二人の男が、静かにレオの前に立ちはだかり、無慈悲な表情で剣を振りかぶった。


 ――ちくしょう、結局何もできないまま死ぬのかよ……!


 その刹那、レオの全身に生暖かい液体が飛び散った。

 顔を上げると、ウカクとサカクが鮮血を吹き出しながら、真っ二つに裂けて崩れ落ちていた。


 ――何が起こった……!?


 その奥では、背を向けたはずのエドワードが振り返り、鋭い視線でこちらを見下ろしていた。

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