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第49話:魔法競技祭当日――王血部隊、出動

「ヒカル殿が、ソロモン殿下を討ったぞ!」


 その声の先には、険しい表情で真っ直ぐこちらへ駆け寄ってくるエドワードの姿があった。しかし、エドワードがヒカルに到達する寸前、地面全体が白く輝き始める。視界が激しく歪み、エドワードの姿はその光に飲み込まれ、消えてしまった。


 次の瞬間、ヒカルが立っていたのは広々とした草原だった。遠くにはシングウ城の尖塔が見える。――エドワードが消えたのではなく、自分が城外に転送されたのだと理解した。


 呆然と辺りを見回すと、周囲にも王血部隊の制服を着た生徒たちが点在していた。転送されたのはヒカルだけではないらしい。そんな状況を飲み込む間もなく、突然ヒカルの両腕が後ろ手に捕らえられ、強引に地面へと押さえ込まれる。


「抵抗するなよ」


 声の主は姿を見せていないが、聞き覚えのある声だ。


「こんな時にいきなり何するんだ、パオタロ!」


 ヒカルが叫ぶと、姿を隠したままのパオタロが冷淡に言い放つ。


「こんな時だからだ、この馬鹿が……! 今まさに、この国ではクーデターが発生し、お前はその一員として俺に捕らえられたところだ」


「俺はそんなことやってない!」


「お前のことだ、どうせ何も知らずに利用されたんだろう。だが俺には関係ないことだ。言い訳なら後でしろ。まあ、皇太子殿下を消した以上、それが通用するかは知らんがな」


 その時、空から一羽の魔鳩が羽ばたきながら降りてきた。パオタロがそれに触れると、魔鳩の身体から淡い光が漏れ、目の前の空間に文字が浮かび上がった――シシンからの緊急指示だった。


『王血部隊各員は、南大門の南方500mの地点で集合せよ』


 ヒカルはパオタロに両腕を拘束されたまま、指定された地点へと連れて行かれた。

 集合地点には、魔法で急造された仮設の建築物があった。その周囲にはすでに多くの生徒が集結しており、緊張した面持ちでシシンの言葉を待っている。その中心に立つシシンは全員を見渡し、力強い声で宣言した。


「緊急事態により、ここに臨時作戦本部を設置する。乙種も含め、全部隊の指揮権は規定通り甲種部隊長である俺が執る」


 その言葉を受け、乙種部隊長のカエイが深く頷き、承諾した。

 乙種部隊は諜報部隊と救護部隊に分かれており、カエイはそれらを統括する立場にある。


 シシンは間髪入れず指示を飛ばした。


「エドワード殿の言葉を考えるに、クーデターが発生した可能性が極めて高い。だが現時点では情報が圧倒的に不足している。乙種の諜報部隊は直ちに壁内へ潜入し、情報収集を行ってくれ。また、イチサンセンを先遣隊として任命する。イチサンセンは上空から状況を確認した後、国王陛下の安全確保を最優先に行動を開始してほしい。今回の作戦では迅速な情報共有が鍵になる。魔鳩ではなく、通信スキルを持つ土属性の者を含む編成で行動し、得られた情報は専用通信を通じて作戦本部まで逐一送ってくれ。以上だ」


 シシンの指示に、各隊が即座に応じる。


「諜報部隊、了解!」

「イチサンセン、ただちに出撃します!」


 乙種諜報部隊とイチサンセンは、指示を受けるや否や、一斉にシングウ城へと向かっていった。

 その後ろ姿を見送ると、シシンは険しい表情のままヒカルへと向き直り、冷静だが鋭い視線を向けた。


「……さぁ、ヒカル、知っていることを全て話してもらおうか」


 ヒカルはシシンの威圧感に圧倒され、恐怖に息を飲みつつも必死に答えた。


「クーデターのことも、皇太子殿下が消えた理由もまったくわかりません! 俺はただ、殿下から新魔法“モラタ”を教えて欲しいと頼まれて、その通りにしただけで……。一体何が起こったのか、俺自身まったく理解できないんです!」


「あの位置関係で、お前以外に誰がやれるんだ!」

「適当なこと言ってんじゃねーぞ!」

「隠さずにすべて説明しろ!」


 ヒカルの言葉に周囲から苛立ちの怒号が飛び交ったが、シシンはそれらを静かに片手で制すると、再び鋭い質問を投げかけた。


「では、新魔法“モラタ”とはどのような魔法だ。突然現れた少女と猫については知っているのか」


 ヒカルは心臓が破裂しそうなほど鼓動し、額にじっとりと汗が滲むのを感じながらも、率直に答えた。


「新魔法“モラタ”は、一つの魔法器を複数の魔法で自在に操れるようにするものです。あの少女や猫については俺にもまったくわかりません。召喚する意図もありませんでした」


 ヒカルが説明を終えたその時、シングウ城へと向かっていた乙種諜報部隊からの専用通信が、作戦本部に飛び込んできた。


「こちら諜報部隊・五! 外壁まで到達したものの、壁内に入れません! 不明な魔力によって弾かれます!」


 その直後、他の乙種諜報部隊からも似たような通信が次々と入る。

 さらに間髪入れず、イチサンセンのエミリからも切迫した通信が入った。


「こちらイチサンセン。上空からの観測結果を報告します。壁外には王血部隊以外の人影は確認できません。ですが、市街地も含むシングウ城下全域にわたり、地中からの発光を確認。その紋様から見て、巨大な魔法陣が展開されている可能性が極めて高いです!」


 エミリの緊迫した声が響き、作戦本部に集結していた生徒たちはざわめきを抑えきれず、互いに顔を見合わせた。

 報告を受けたシシンは、一斉通信で「各員待機」を指示すると、冷静に状況を整理し始める。


「地中に描かれた魔法陣が発動し、俺たち王血部隊だけが壁外へと転送されたということか……。王血部隊員で、ここに集結していない者はあるか?」


 すぐにメイナが険しい表情で報告した。


「ニイサンセンのガブリエウ君がまだ合流していません!」


 シシンは眉間に深い皺を刻み、重々しく呟いた。


「テックマン家ということか……。ゼーマン家での一件で国内の動乱は収束したと思っていたが、やはり今回も貴族絡みなのか……」


 その言葉を聞いたレオが苛立ちを隠そうともせず、声を荒らげた。


「シシン、そんなことは後回しだろ! 地中の魔法陣をなんとかしないと、俺たちは壁内に入ることすらできないんだぞ!」


 レオの声に、モンドが冷静に応じる。


「落ち着け、レオ。シシンもそれは理解している。ただ、地中に魔法陣を仕掛けるなど前例がない。当然、原理を理解しなければ破壊は困難だ。だからこそ、あらゆる可能性を探り、突破口を見出そうとしているんだ」


 モンドの冷静な言葉に、レオは苛立ちを抑えきれず舌打ちをした。


「そんなことは俺だってわかってんだよ! だが結局、今はその地中の魔法陣が全ての元凶だろうが! 早くしねえと国王が殺されちまうぞ! 誰か破壊する方法を思いつく奴はいねえのか!」


 その時、テオがぼそりと呟いた。


「さ、さっき言ってたじゃん……」


 その言葉に、作戦本部にいる全員の視線が一斉にテオに集中した。


「あ……、や、やべ……また間違えた。ご、ごめん……」


 テオは顔を真っ赤にして慌てて目を逸らし、全てを無かったことにしようとする。だが、イオが優しく微笑みながら静かに問いかけた。


「テオ、大丈夫だ。みんな、お前の考えを聞きたいだけなんだ。それともまさか、お前だけ何か分かってるのに俺たちに内緒なんて、そんな悲しいことしないよな?」


 テオは困ったように苦笑しながら、仕方なさそうに口を開いた。


「シ、シシン君がさっき言ってたでしょ、き、貴族絡みの動乱って……そ、そのことだよ!」


「なるほど、貴族絡みか。それで、その魔法陣、一体誰がどうやって作ったんだろうな?」


 イオの落ち着いた問いかけに、テオは少し苛立った様子を見せながらも必死に答えた。


「だ、だから、み、みんなの目の前でやってたでしょ! あ、あれが魔法陣を描くための仕込みだったんだよ!」


 一瞬、作戦本部に静かな沈黙が訪れた後、シシンが静かな声で口を開いた。


「……なるほどな。理解した。新魔法大会で第三貴族フリードマン家の長子ルドルフ殿が披露した『ダークランス・トラップ』のことだな?」


 テオはほっとしたように何度も頷いた。シシンは小さく頷き返し、考えを整理するようにゆっくりと告げた。


「あの巨大な黒い水槍はそのまま地面に吸収されていた。表向きには失敗したように見えたが、実際は、巨大な魔法陣を地中に描くためのインクの役割を果たしたということか……。ならば、それを洗い流せばいいだけのことだ」


 シシンはすぐに部隊への指示を出した。


「乙種救護班、水属性が得意な者は王都シングウの北側から南側にかけて地中に水脈を生成し、水の流れを作り出せ。土属性が得意な者は南側でその水を確実に吸い上げろ」


「水班、了解!」

「土班、準備開始します!」


 各班が素早く行動を開始する中、シシンは一斉通信で乙種諜報部隊とイチサンセンに指示を飛ばす。


「一斉通信。まもなく魔法陣の効果は弱まるはずだ。壁内への侵入が可能となり次第、諜報部隊とイチサンセンは直ちに作戦を再開しろ」


 指示を一通り終えると、シシンは再びヒカルの方を向き、静かな声で語りかけた。


「ヒカル。お前の証言が真実ならば、今回のクーデターに何の関与もなく、ただ利用された被害者ということになる。だが残念ながら、お前の証言を裏付ける証拠も証言者も現時点では存在しない。疑惑が晴れるまでは拘束を解くことはできない、理解してくれ」


 ヒカルは無念の表情を浮かべながらも、小さく頷いた。


 シシンは続いて甲種各班に対する作戦を伝達した。


「最後に、作戦本部に残っている甲種に作戦を伝える。最優先目標は、アモン国王をはじめとする王家の方々の安全確保だ。イチイセンはシングウ城内の国王の自室へ向かえ。イチニセンは新たな動きがあるまでここで待機。イチヨンセンは玉座の間、イチゴセンは地下牢を頼む。甲種・二期生は全員、突然現れたあの少女の捜索にあたってくれ。何か重要な情報が得られる可能性がある。三期生については属性解放が済んでいないため、ここで待機だ」


 その直後、イチサンセンと乙種諜報部隊から壁内への侵入成功の通信が入った。

 シシンは表情を引き締め、全体に向けて告げる。


「壁内への侵入には成功したが、巨大魔法陣の目的が時間稼ぎだったとすれば、敵はすでに陣形を整え、我々を待ち構えているだろう。各班、慎重に、かつ迅速に作戦を遂行せよ」


 シシンの言葉が響き渡ると、場の空気が一段と引き締まり、王血部隊員たちの表情が真剣味を増した。


「了解、十分に警戒します!」

「了解、直ちに展開を開始します!」


 各班は即座に行動を開始した。

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