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第33話:甲種・一期生たちの密議

 “メモリア・ロード”を受けた直後、シシンはミロの記憶を頼りに、モンド、カイエンとともに襲撃現場へと急いだが、そこは既にもぬけの殻となっていた。


 その頃には、夜はすっかり明け、現場は無情なほど明るい朝の光に晒されていた。


 その後、事の経緯をガスポールに報告し、現場検証も行われたが、襲撃側に繋がるような手掛かりは何一つ残されていなかった。状況から考えて、襲撃者側もミロが“魔女の嫉妬”で消滅したことに気づき、速やかに撤収したものと思われた。


 ただ、ミロが水の矢に貫かれて倒れた地面には僅かな血痕が残っており、それはミロの血液であると確認された。これにより、“メモリア・ロード”を通じて得たミロの記憶が現実のものであったことが裏付けられた。


 そして今、ミロ襲撃のあった日の午前、甲種・一期生クラスの十四名は、王血館一階の共用室“白月の間”に集まっていた。


 実は、ヒヨリが拘束された日以来、甲種・一期生だけによる秘密の戦略会議が定期的に行われていた。会議の存在は極秘中の極秘であり、二期生や三期生、さらにはガスポールにさえ明かされていない。これまで彼らはヒヨリの単独行動に目を瞑り続けてきたが、拘束され、死刑に問われている現状は、もはや許容できる範囲を完全に超えていた。


 常識的に考えれば、王家やガスポールがシングウ王国のために尽力してきたヒヨリを実際に死刑にするとは考えられない。しかし、現実が予想を超えた今、最悪の事態を覚悟する必要があった。何もしないままヒヨリを失うことだけは、絶対に受け入れられなかった。


 結論として、甲種・一期生たちは、当面は表立った行動を控えつつも、ヒヨリの死刑執行阻止を最優先事項とし、万が一にもその兆候を察知した場合には、手段を選ばずに阻止する覚悟を固めていた。これは甲種・一期生全員の総意だった。ただし、その責任については、二期生や三期生を決して巻き込まず、あくまで自分たちのみで背負うと誓い合っていた。



――白月の間――


「……ミロからの情報は以上だ」


 議長として皆の前に立つシシンが、禁忌魔法“メモリア・ロード”を通じてミロから得た情報を仲間たちに伝え終わったところだった。


 シシンは、それまで強く握りしめていた右拳の力をゆっくりと緩めると、軽く眼鏡の位置を直した。

 一瞬、“間”を取ったあと、再び口を開く。


「では、戦略会議を開始する!」


 その言葉を待ち構えていたかのように、即座にモンドが口を開いた。


「今回は新しく得た情報が多すぎる。行動方針を再考する前に、まず全体の情報を改めて精査すべきだろう。当然、我々が既に得ていた情報も洗い直す必要がある。“メモリア・ロード”を通じてミロから得た情報と組み合わせることで、新たな意味が見えてくる可能性があるからな」


 モンドの低く落ち着いた声が、部屋全体に響き渡る。

 そしていつものように、カイエンが勢いよく続き、言葉を次々と放った。


「モンドの言う通りだ。それに加えて、ハルナ、ヒヨリ、ダイタ、ミロと、王血部隊員が短期間で次々と戦力外に追い込まれている現実がある。すなわち『これまでは受け身の姿勢を続けてきたが、今こそ攻勢に転じるべきかどうかが最大の論点となる』だろう。すなわち『王血部隊として、これ以上の犠牲は断じて許容できない』ということだ」


 シシンは二人を見て頷く。


「モンド、カイエン、貴様らの言うとおりだ」


 そして、一拍置いてから言葉を続けた。


「まず情報の精査についてだが、『未来が見える』というヒヨリの能力に関しては、ミロの記憶を辿る限り、その信憑性は極めて高いと判断する。この点について、異論のある者はあるか?」


 フウコがすぐに口を開く。


「にわかには信じ難いけれど、これまでのヒヨリの行動と照らし合わせると、むしろ納得できることの方が多いわ。ミロの記憶を辿ったあなたも『信頼性が高い』と感じたのなら、もうそれが結論でしょう? 同時にそれは、予言されていた『光属性』が実在し、その『持ち主』がヒヨリだったことを意味するはずよ」


 “白月の間”には、フウコの言葉に静かな賛同を示すような空気が広がった。


 ヒヨリはこれまで英雄勲章を授かるほど数多くの事件を解決してきた。だがそれは、裏を返せば、ヒヨリが事件現場にいつも居合わせていたということでもある。パオタロも以前、そのことを指摘して「都合が良すぎる」と言っていたが、甲種・一期生の中にも同じように感じていた者が少なくなかったのだろう。


 フウコは一旦言葉を切り、皆の反応を確かめるように見回してから続けた。


「ただ、問題はここからよね。私たちはこれまで、『ヒヨリの行動は王家やガスポール先生の極秘指示によるもの』だと考えてきた。それを前提にしていたからこそ、ヒヨリの単独行動にも目をつむってきたわけだけれど……」


 フウコはそこで黄緑色の長く美しい髪をかき上げながら、眉をひそめる。


「でも、ヒヨリ自身が『未来を見て』行動していたのなら、今の状況を王家やガスポール先生はどう捉えているのかしら? 特に、ガブリエウをいきなり『要注意人物』と認定しておきながら、甲種・二期生クラスに加えた件は全く理解に苦しむわ」


 フウコの問いに、誰もすぐには答えられなかった。“白月の間”はまるで静かな水面のように、戸惑いの沈黙に包まれた。

 やがて、その静寂に一筋の波紋を描くように、シスイが穏やかな笑みを浮かべて口を開く。


「あらフウコ……、『理解に苦しむ』という表現、あなたにしてはとても良いじゃない? 今回の会議では、それをキーワードにするのが賢明というものでしょうね」


 フウコはシスイの真意を探るように、軽く目を細めた。


「あなた、相変わらず回りくどいわね。さっさと結論から言いなさい」


 シスイは軽く肩をすくめた。


「あら、申し訳なくてよ。つまり、『理解に苦しむ』と感じる情報については、すべてヒヨリの能力が関係していると考えるべきということよ。ヒヨリの能力自体が『理解に苦しむ』ものなのだから、それによって引き起こされる現象もまた同様のはずではなくて?」


 シスイの言葉で、静かだった“白月の間”の空気がわずかに動いた。

 それに真っ先に反応したのは、ヒヨリが所属していた“イチイセン”の双子姉妹、ユラとサラだった。


「そっかー」

「そっかー」


 二人の声を合図に、双子特有のテンポ良い掛け合いが始まる。


「えっと、ガブリエウ君が悪いことをする未来をヒヨリちゃんが見て、それをガスポール先生や王家に報告したから~」


 ユラが満面の笑みを浮かべ、人差し指を立てると、サラもすかさず同じポーズで応える。


「ガスポール先生や王家が、ガブリエウ君を『要注意人物』に認定したってことだよねっ!」


 ユラは小首を傾げて顎に指を当てた。


「じゃあ、なんでガブリエウ君を甲種・二期生クラスに加えたのかなー?」


 サラも同じように小首を傾げ、困った表情を見せる。


「理解に苦しむ~」


 ユラは頬を膨らませて抗議する。


「あっ、そのキーワード、私が言いたかったのにー!」


 サラが苦笑して答えた。


「えへへー。ごめんね、ユラちゃん」


 ユラはすぐに両手を広げ、温かい笑顔を向ける。


「あ、全然いいよ、いいよ!」


 二人の掛け合いがひと段落したところで、シシンが静かな声で会話をまとめるように言った。


「……おそらく、ガブリエウは単独犯ではなかったということだ。彼をあえて甲種・二期生クラスに加え、実質的に王血部隊の監視下に置くことで、敵側の動きを制限し、戦力を分断する狙いがあったに違いない。これはガスポール先生の戦略だろう」


 シシンの言葉は的を射ており、納得感が広がった。

 それを受けてレオが口を開いた。


「なるほどな。シスイのおかげで、簡単に謎が解けちまったな! ってことは、ヒヨリが死刑を受け入れてまで修道院を襲撃した理由は……。ちっ! それ以上のとんでもないことが起きたってわけか!!」


 シシンは静かに頷く。


「ヒヨリは何らかの理由でハルナのことは諦めるという決断を下した。その彼女が下した判断だ。つまり、少なくともハルナを失うよりも遥かに重大で、もっと深刻な事態が起こっていた。その破滅的な未来を阻止するために修道院を襲撃したと考えるのが妥当だろう」


 レオは苛立ちを隠せずに舌打ちした。


「絶対口を割らねぇのはわかってるから仕方ねぇけどよ……。ヒヨリが全部話してくれりゃ話が早ぇのによ、ちくしょう! それで結局、ガスポール先生は信じていいのか? 敵は一体誰なんだよ!」


 “白月の間”の空気が重く沈む中、シシンは一拍置いてから冷静な声で答える。


「それに関しては、昨日の御前会議で俺が目にした光景と関係がある」


 そして、集まった仲間たちに視線を巡らせると、シシンはゆっくりと昨日の御前会議で見聞きしたことを語り始めた。

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