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五大英雄伝説~世界を救った五人の英雄の物語~  作者: たこす
第Ⅰ部 賢者ソラリス編
9/70

第七話

「なんと、神聖騎士団がやられたとな!?」


 ノアの王宮、その玉座の間で大臣の報告を聞いた国王ダースラは思わず腰を浮かした。

 でっぷりとした贅肉がその反動でぶよぶよと動く。


「誰じゃ? 誰にやられたのじゃ?」

「それが……騎士たちの話しによると、どうやらやったのはソラリス様のようで……」


 額の汗をハンカチで拭う大臣の言葉に、ダースラは信じられないという顔で叫んだ。


「ソラリスとな!?」


 神聖ノアの守り手で魔王を倒した大賢者だ。ノアの代表として選出されながらも、魔王討伐後には行方をくらました伝説の英雄。

 国が長年探しても見つからなかった相手である。


「人違いではないのか?」


 ダースラがもっともな疑念をぶつける。


「わたくしめもそう思いましたが、騎士団をやった相手は魔法陣もなしで結界を使ったとかで……」

「ふうむ、結界をな」


 ダースラは腕を組みながら玉座に座った。

 この世界で結界魔法が使える人間は数少ない。中でも魔法陣の補助なしで結界を張れるのはソラリスだけだ。

 魔王討伐の際も、結界魔法で周囲の被害を最小限に抑えたと言われている。


「なぜソラリスが我が騎士団を襲うのだ?」

「なんでも、神聖騎士団に殺されそうになっていた子どもを守ったとかで……」

「子どもを?」

「はい、神聖騎士団を侮辱した罪で断罪しようとしたところ、現れたと……」

「どこの子じゃ、それは」

「それが……」


 大臣が言いにくそうに手をこまねいていると、ダースラの表情が険しくなった。


「はっきりと申せ。どこのガキじゃ!」

「魔物の侵攻で親を殺された孤児たちが住むノートル孤児院の孤児でございます」

「孤児じゃとッ!?」


 険しかった顔が怒りに変わる。


「まさか、そのような下賤げせんの者を助けるために、我が神聖騎士団がやられたと申すのか!」

「そのまさかでございます、陛下」


 大臣の汗はハンカチでは拭いきれないほど噴き出していた。


「バカを申すな! 何を考えておるのだ、ソラリスは!」

「ソラリス様のお考えは、わたくしどもには到底理解できぬもののようで……」


 ダースラは思いを馳せた。

 このまま何もせず放置しておけば、国王はソラリス相手に何もできない腰抜けだという縷言るげんが飛び交うかもしれない。それだけは我慢ならない。自分は、神に選ばれし王なのだ。


「すぐにきゃつを捕らえるのじゃ!」


「それが……」と大臣はまた気まずそうに声を落とした。


「なんじゃ?」


 ダースラが不機嫌そうに尋ねる。


「ソラリス様は諸国を放浪する魔術師団体に所属しているようで、すでにこの国から離れたという情報が入っております」

「ならば、すぐに追って捕らえよ! ワシの前に連れてくるのじゃ!」

「ですが、どこに行ったかわからぬもので……」


 大臣はしどろもどろに答える。


「わからぬはずがなかろう!」

「魔術師団体はテレポートで移動する集団でございます。見つけるのは至難の業かと」

「ええい、役に立たん奴よ!」


 ダースラは、傍らに置いてあるフルーツ皿から一個の果実をつかむと、目の前の大臣に投げつけた。大臣は「ひいっ」と悲鳴を上げて後ずさる。


「気をお静めください、陛下」


 その時、柱の影から黒いローブに身を包んだ一人の男が姿を現した。髪の毛が一本もないつるつるの頭に、痩せこけた頬、どす黒い肌をした蛇のような顔をした男だった。


「おお、ジンか」


 ダースラは、その男の姿を見ていくぶんか気を取り直した。

 神聖ノアの宮廷魔術士。その実力は歴代最高と言われている。

 過去十年間、究極魔法の研究で地下迷宮の奥深くに住んでいたため、魔王討伐作戦には加わらなかったが、魔力だけでいったらソラリスをも凌ぐと噂されている。

 ダースラが魔王討伐後ソラリスの行方にこだわらなかったのも、彼が地下迷宮から帰還したからである。


「ジンよ、おぬしならソラリスの行方を追えよう。すぐに見つけるのじゃ」


 主君の言葉に、ジンは冷静に答えた。


「もちろん、きゃつの居場所など見つけるのは容易たやすいこと。ですが、捕まえるとなると一筋縄ではいきますまい。仮にも魔王を倒した勇者。いくら私でも難しいかと」

「では、どうすればよいのじゃ?」

「ソラリスが助けたという子ども。それを捕らえるのです」

「孤児院にいるというガキか」

「そうです、反逆罪としてその孤児院の子どもをすべて捕らえ、見せしめとして大勢の国民の前で処刑するのです。そうすれば、ソラリスのほうから姿を現すでしょう」

「現れなかった場合は?」

「その場合は、盛大にガキどもを処刑してしまえばいい。誰も陛下に逆らえなくなるほど、豪華で盛大に」


 ククク、と不気味に笑うジンの顔に大臣は背筋が寒くなる思いだった。



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