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終幕

「シルビィ!」


 小高い丘の上で一人の女性の声が響き渡る。

 声をあげた主は、満面の笑みを浮かべて駆けていた。


 金色の長い髪をなびかせ、白いプレストアーマーに身を包みながら駆けてくる彼女に、もう一人のローブ姿の女性が微笑みながら立っていた。


「クレア、久しぶりね」


 ローブ姿の女性がそう言って出迎えると、クレアと呼ばれた女性は思いっきり彼女に抱きついた。


「うわぁん、シルビィー!」


 まるで子どものように飛びつくクレアに、ローブ姿の女性は「やれやれ」といった顔で頭をなでた。


「ほらほら、もう子どもじゃないんだから泣きながら抱きつかないの」

「だって! だって! 久しぶりなんだもの!」

「ソラリスもあきれてるわ」


 笑いながら顔を向ける彼女のかたわらには、同じローブ姿の青年が苦笑していた。


「ふふ。クレアはいつまでたってもシルビアに対しては妹気質が抜けないね」


 そう言われてクレアはむくれながら反論する。


「シルビィは私にとってお姉さんも同然なんだから、仕方ないでしょ」

「クレアだってもういい大人なんだし、自立しなきゃ」

「ふんだ。ソラリスこそ説教好きのおじさんになっちゃって」

「ちょっと待て! オレはまだおじさんじゃないぞ!」


 慌てふためくソラリスに、シルビアはクスクスと笑った。


「クレアにしたらソラリスは十分おじさんよね」

「シルビア!」


 なおも食い下がろうとするソラリスにシルビアは手で制する。


「感動の再会はここまでにしましょう」


 丘の上から見下ろす3人の眼下には地を埋め尽くすほどの大量の魔物。

 どこから現れたのか、そしてどこへ行こうというのか。

 3人にはわからなかったが、確かなことはひとつだけあった。



 このまま放置していたら、人類の脅威になり得るということだ。



 現に、魔物が出現した地域は未開の広大な大森林だったが、今や草木も生えない死せる大地と化している。

 そこに生息していた野生のドラゴンたちも、突如現れた魔物の群れに蹂躙された。

 圧倒的な強さを誇るドラゴンですら歯が立たない相手。

 人里に来たなら間違いなく瞬時に滅ぼされるであろう。


「これはなかなか圧巻だね。1万はいるかな?」

「もっといるでしょ。3万くらいじゃない?」

「いえ、5万はいますね」


 シルビアの言葉にソラリスは肩をすくめた。


「なら、一人あたり1万7千弱か。これは骨が折れるなぁ」

「いえ、そうでもないみたいですよ」


 大量に押し寄せる魔物の群れの前に、一人の大男が姿を現わした。

 黒いコートに巨大な剣。

 物静かな風貌をしたその男に、ソラリスは声をあげた。


「ゼノ!」


 彼はソラリスに一瞥もくれずに背中の大剣をおろすと、すぐに戦闘態勢に入った。


「やっぱり切り込み隊長はゼノですね」


 ふふふと笑うシルビアにソラリスは「いやいやいや」とかぶりを振る。


「その前にどうやってあそこまで行ったんだ、あのおっさん。この丘の上を通らなきゃあそこまで行けないはずなのに」

「方向音痴はゼノの専売特許だものね。進行方向に岩があったら迂回しないで破壊して突き進むタイプだから。今回もまっすぐ進んだつもりが変なところに出ちゃったんじゃない?」

「にしても、異次元すぎだろ」


 呆れるソラリスの目に、吹き飛ばされる魔物たちの姿が映る。

 戦闘が始まったようだ。


「私たちも行きましょう」


 メイスを握りしめるシルビア。

 それを見てクレアもレイピアを抜いた。


「ええ、行きましょう」


 走り出した二人は、すぐさま魔物の群れに飛び込んでいき、武器を振るった。


 シルビアのメイスが魔物を粉砕し、クレアのレイピアが魔物を細切れにする。

 その脇ではゼノの大剣が魔物を吹き飛ばしていた。



 その姿にソラリスは思った。



(この中で一番まともなのはオレかもしれないな)



 そう思いつつも、詠唱を始める。

 そして両手にたまった魔力を一気に放出し、眼下の魔物たちを四散させた。

 


 やがて。



 魔物の群れの中心地に一筋の光が舞い降りた。

 と同時に、あたり一体が爆発する。

 その爆発によって数百体の魔物が消滅していった。



 爆発の中心には一人の青年がいた。

 そしてその手には地面に深く突き刺さった光り輝く剣が握られている。


 その姿に、ソラリスたちは声をあげた。



「ユーゴ!」



 彼らにとっても謎の多い人物である。

 魔王との戦いで共闘した以外は、ほとんど接点がなかった。

 魔王討伐後も、挨拶もないままどこかへと消えてしまった。


 どこから来てどこへ行ったのか。

 謎に包まれた青年だが、ソラリスたちにとってユーゴは信頼できる仲間であり、リーダー的存在だった。

 なぜかユーゴは目線だけで意思を伝えることができるのだ。



 ソラリスたちの並外れた戦闘センスによるところも大きいが、ユーゴが顔を向けると何を言いたいのかがよくわかった。


 今回もまた、ユーゴはソラリスたちに顔を向けて意思を伝えた。

 その顔は「敵の総大将を倒してくるから、あとヨロシク」と言っていた。



「あとヨロシクじゃないわ!」


 口で言ったわけではないのに、なぜかそう言ったと捉えてしまうソラリス。

 しかしユーゴが現れたことで、勝ちが確定したと思ったのも事実。

 あとは時間の問題である。


 目の前で四方八方に吹き飛ぶ魔物たちを見ながらソラリスはやはりこう思った。



(この4人の中では自分が一番まともだな)と。





最後までお付き合いありがとうございました。


最強の5人の物語をオムニバス形式で書き、そんな彼らが集結して戦うというお話を書くのが長年の夢でした。

どの人物も思い入れのあるキャラで、自分にとっては宝物のような存在です。

いつかまた、彼らの物語を描けたらと思います。


最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

最大級の感謝を。

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