エピローグ
国王、崩御す──。
このニュースは、大々的に世界中に伝えられた。
神に護られし国の王の突然の死。
すべての元凶は宮廷魔術士のジンだとして処理された。
神聖王国ノアは民主化への道を選択し、初代大統領の選抜で慌ただしく動いていた。神聖騎士団も解散され、国は大きな変革の時期へと突入していた。
国は大きく変わっていった。より良いほうへと。
「おじさん、もう行っちゃうの?」
ソラリスはノートル孤児院の入り口で子供たちに見送られていた。その先頭にサチャとカシムがいる。ジンとの戦いより2週間、彼はサチャたちのいるノートル孤児院にしばらく滞在していた。
魔物の襲撃やその後の貧困で孤児となった子供たちがどんなに辛い思いをしているかと心配していたのだが、思ったよりも元気そうで安心した。それもこれも、院を経営するエリザベス院長の深い愛情と、サチャの人を思いやる優しい心、そしてカシムの素直な元気さがあればこそだろう。
「世話になったな」
ソラリスが、サチャの頭に手を添える。
「世話だなんて」
サチャは恥ずかしそうにうつむいた。
「おじさん、今度また魔法教えてね」
「カシム、お前は素質がありそうだ。頑張れば、オレの足元くらいには及ぶかもな」
「へへ、きっと来年あたりは腰ぐらいまでいっちゃってるかもよ」
「ふん、ぬかせ」
エリザベス院長が、残念そうに礼を言う。
「あの、このたびは本当にありがとうございました。できれば、ソラリス様にも残っていただけたら嬉しいのですが……」
「すいません、オレは一つ所にジッとしていられない性格なんで」
「このようなところでよければ、いつでもお帰りください。ここは、すでにあなたのホームです」
「ありがとう、エリザベス先生」
ソラリスの笑顔に、エリザベス院長は顔を赤らめた。
「あは、先生、照れてやんの」
「こら、カシム!!」
サチャがカシムの頭をこづく。
「とりあえず、西に行ってみようと思います。あそこは、交流の多い町ですし、いろんな旅芸人がいるという噂もあります。しばらくは、自分の魔法で何が出来るのか、試してみるつもりです」
「そうですか。では、少ないですがこれを……」
エリザベス院長は懐から路銀を差し出した。ソラリスはそっと手を差し伸べてそれを丁重に断った。
「それは、ここの子供たちのために使ってください」
「ですが……」
「大丈夫です。そのほうがオレも嬉しい」
彼女は、彼の慈悲深き心に心から感謝した。
「旅のご無事を、お祈りしております」
「ありがとう」
そう言って立ち去るソラリス。
それを見送る子供たち。
遠ざかって行く慈愛に満ちたその青い髪の男は、思い出したかのように立ち止まると振り返った。
「ああ、そうだ。最後にひとつ言い忘れてた」
「なに、おじさん?」
訝しげな眼をむけるサチャとカシムに、彼は真剣な表情で伝えた。
「オレはまだ、おにいさんだからな!」
「ええ、いまさら!?」
「まだそんなこと言ってるの!?」
「どっちだっていいじゃん、そんなの」
子供たちの楽しげな声がノートル孤児院に鳴り響く。
そんな子供たちの声に混じって
「よくない!」
というソラリスの声が続いた。
第Ⅰ部 賢者ソラリス編 完