四話 始まる記憶探求
「行くって言っても……どこに行くんだ?」
椿はラダに手をひかれながら尋ねた。
「私の家よ! 多分何でもしてくれるから、欲しいものとか考えといてちょうだい」
(なんで自分の家に誘うだけなのにこんな自信満々なんだ……? 何でもしてくれるってどういう事だ?)
意気揚々とこたえるラダに、椿は違和感を覚える。
「見えてきわ! あそこよ!」
椿の勘は正しかった。椿は、ラダに示された、目の前の「家」を見て絶句することとなる。
(家っていうかあれ城じゃねぇかぁぁぁぁぁあ!)
そう。ラダが指を指した先にあったものは、ドルミラ国の中心にある、とてつもなく大きい城であった。
椿は半分答えが分かっていたが、ラダへ質問する。
「ラダさん……? あなたの身分を聞いてもよろしくて……?」
恐る恐る尋ねる椿に、ラダは当たり前かのように答える。
「私? そりゃもちろんドルミラ国王女よ」
椿は驚きと同時に、疑問が頭に浮かぶ。
何故一国の王女がダンジョンにいたのか。
何故1人でいたのか。
一般人への偏見はないのか。
そして、何故王女様がダサTを着ているのか。
椿は全ての疑問を飲み込み、さらに5分ほどラダについていく。
城の門の目の前に来た時、ラダは呑気に、
「ただいまぁー! 帰ってきたわー!」
すると、門を警備していた兵士が、
「「「「お帰りなさいませ! 姫様!」」」」
と、声を揃えて言う。
兵士が左右へ避けたことによって作られた道の真ん中をラダは堂々と進む。椿は心底ビビり散らかしていた。
そして場内へ入り、如何にも玉座の扉と言わんばかりの豪華な扉へとたどり着く2人。
「ただいまー! おとーさん!」
ラダはなんの躊躇も無くドアを開け放つ。
「おお、ラダ。おかえり。して、そちらの方は?」
とても威厳がある初老の男性がラダへこたえた。
「話すと長くなるけど、この人命の恩人なの! ダンジョンで死にかけた時、助けてくれたのよ!」
ラダの八割をすっ飛ばした説明に、男性は笑いながら、
「そうかそうか! 命を助けてくださったのか! ほんとうにありがとう。名を聞かせてくれるか?」
と、椿に向かって質問する。
「和智椿と申します。どうぞよろしくお願いします。」
丁寧にあいさつする椿。初老の男性も、自分の名前を名乗った。
「私はドルミラ国王のラピルスだ。娘を助けてくれてありがとう。お礼に、私たちが出来ることならなんでもしようではないか。」
(やっぱ国王ですよねー……。この国の最高権力者に出会っちゃったなぁ)
王女の父という時点で察しがついていた椿は、怒涛の展開に困惑を隠しきれずにいた。
次にラピルス王は、椿にとって1番衝撃的な事を発言する。
「しかし、そんな服装でダンジョンへ行ったのか。せっかくのオシャレな服が汚れてしまうではないか。気をつけるんだぞ」
「わかったわ! ごめんなさいね!」
(今この爺さんオシャレって言ったか!? このダサTが!? いやまだだ、焦るにはまだ早い……)
椿は事実を確認するためラピルス王に聞く。
「その服装、王族の間で流行ってるんですか?」
ラピルスの代わりに、ラダがこたえる。
「違うわよ。 この服装は王族で流行ってはいないわ」
安心する椿だったが、次の一言で安心は絶望に変わる。
「この国全体で、この服装が流行ろうとしてるのよ!」
「……えっ」
「まだ流行ってはいなけど、流行に敏感な人とかはもう着てると思うわよ? だんだん着る人が増えていくはずよ」
ラダの発言に、椿は落胆する。
(これからどんなに可愛らしい人と出会っても、私服みんなこんなかよ! なんだよ異世界ふざけんな!⠀…ていうか異世界でTシャツ…?⠀地球の服と構造同じなんだな…)
そう。もしもこの先とてつもない美人との出会いがあったとする。だが、ダサTが流行してしまえば、美人なのに洋服がダサいという地獄のような状態が出来上がってしまうのだ。
椿の気持ちが分からないラピルスは、椿とラダに言う。
「ツバキ殿。なにか欲しいものはあるかね? 無いならここで少し考えるがいい。ラダ、ツバキ殿をお前の部屋にお連れするのだ」
「分かったわ! ツバキ、行きましょう! こっちよ」
ラダの部屋に到着した椿は、今まで気になっていた事を聞いた。
「ラダはなんで王女なのにダンジョンに一人で居たの?」
「そういえばまだ言ってなかったわね」
ラダは話を続ける。
「ドルミラ国の王族は、男女問わず20歳になるまでにダンジョンで一人でギルドの依頼をこなさなきゃだめなしきたりがあるの。由来は、王家が率先して国のためになることをする為らしいけど、ヌルゲーダンジョンでいいし、薬草採集とか適当な依頼こなすだけだから簡単なはずだったのよ……」
「そこでドラゴンに襲われたってことか」
「そーゆーこと」
椿はラダへ質問を続ける。
「ヌルゲーダンジョンって簡単なダンジョンなんだよな? なんであんなに強いドラゴンが居たか分かるか?」
「それは分からないわね。ダンジョンでは新種のモンスターはダンジョン登録されるけど、そこにあんな上位のドラゴン書いてなかったし」
椿はまたも違和感を覚える。
(よりによって王女がダンジョンに行った時にドラゴンが確認されることなんてあるのか……? しかも、そんな簡単な依頼でいいならしきたりなんて誰だって出来る。やる意味あるのかな……?)
ラダに声をかけられ、椿は考えることをストップする。
「ツバキは変わり者ね」
「そう?」
「私の顔と名前知らなかったり有名な王家のしきたり知らなかったりするのに礼儀は正しいし、王族に物怖じしないんだもの」
(まぁ日本の常識しか持ってないから異世界人からはそう見えて当たり前か)
「そんなことより、欲しいものは決まったのかしら」
椿はラダに言われはっとする。何も考えていなかったからである。
「うーーん、そうだな……」
そこで椿は、自分のステータスを思い出した。
「そういえば……俺のステータス、レベルが書かれてないんだよね。しかも、魔法を一つも覚えてない。スキルも、【記憶】とかいう謎スキルだし。なにか分かることある?」
椿の質問にラダはこたえる。
「私も分からないわね。レベルが書かれてないとか初めて見たしわよ。でも私を助けてくれた時、ツバキ魔法使ってたはずよね?」
椿はラダを助けた時のことを思い出す。
(確かに使ってたな……。スキルを覚えてもいないし最初魔法一つも覚えてなかったのに)
「……褒美にして欲しいこと決まったわ」
「随分と急ね。 まあいいわ、決まったならお父さんのところに行きましょう!」
再びラピルス王の元へ行く椿とラダ。ラピルスが言う。
「おぉ、ラダ達か。ということはツバキ殿、欲しいものが決まったんじゃな?」
「はい。図々しいかもしれませんが、お願いしたいことがあります」
「なんだね、言ってみるといい。できることはさせてもらうぞ」
「僕のステータスの解明を手伝って欲しいのです」
椿はラピルスに頼んだ。
「解明、とは?」
ラピルスの疑問に椿がこたえる。
「僕のステータスは、レベルが記入されていなく、スキルも【記憶】という記録にないものです。なので、国の情報を集め、僕のステータスの謎を解き明かすことを手伝って欲しいです」
椿は素直に疑問にこたえた。
「分かった。国を上げて手伝うと約束しよう。とりあえず、数値化宝珠のもとへ来なさい。ツバキ殿のステータスを記録したいのだ。」
「ありがとうございます! 国王様!」
椿、ラダ、ラピルスの三人は、数値化宝珠の前にやってきた。数値化宝珠とは、ギルドで水晶と呼ばれていた、冒険者に登録した際にも使われたステータスを数値化して見ることが出来るアイテムだ。
椿は数値化宝珠に手を触れる。すると、表記が以前と変わっていることに気づく。
和智椿 レベル 空欄
スキル【記憶】レベル一
魔法一覧 黒光雷こくこうらい
【記憶】のレベルが上がっており、黒光雷という魔法が使えるようになっていた。
(なんだ……? 【記憶】にレベルなんてあったとは。黒光雷ってのはラダを助けた時の魔法かな? 禍々しい名前になったもんだなぁ)
すると、ラピルスも、
「確かに前例のない異様なステータスですな。解明することは国のためになるし、スキルの調査を今の1番の目標として進めることに決める」
と、頼もしい言葉を放つ。ラピルス王は続ける。
「我が国でも全身全霊を持って調べさせてもらう。だが、こういったことは恐らく我が国よりかの宗教国家のソニラル国の方が詳しいはず。ツバキ殿はソニラルに向かってみてはどうかな?」
ラピルス王のありがたい言葉に椿も同意する。
「ではそうさせて頂きます。ご協力ありがとうございます」
「私もツバキと一緒にいくわ!」
ラダの同行したいという発言に、椿は驚く。すると、ラピルスが、
「良いぞ。ツバキ殿はラダの命の恩人。誠心誠意をもって手伝ってやりなさい」
「今後ともよろしく頼むわ!」
この国の王族はこんなにも人を信じて大丈夫なのかと不安になる椿。
椿のスキルを解明するため、ラピルスはドルミラ国にて情報を集め、椿とラダはソニラル国へと向かうこととなった。