3話 謎スキルと仲間(ヒロイン?)
「なんとか泊まるための宿は確保出来たぞ!」
セイネン達による異様な光景を見せられた椿は、なけなしの金でなんとか宿を借りることができた。
「これからの目標は……謎スキル【記憶】の解明と、魔王討伐!まず最初に、生活に困らないだけの金を集めることだな!」
RPGのような未来を想像した椿はワクワクしていたが、同時に不安もあった。先の未来は明るくても、目の前は真っ暗である。
「こんな世界じゃレベル上げられないし、どうやってお金稼ごうかな……」
そう、椿にとっての1番の難題は、生活費がカツカツで、冒険者になるための基礎装備を買うことが出来ないことであった。
⠀(今日は色んなことありすぎて疲れた…とりあえず寝よう…)
希望と不安と大きな目標を抱き、椿は眠りについた。
「おっ、この依頼いいんじゃないか!?」
朝になり、椿はギルドで依頼を探していた。
【薬草採集。ドルミラ国内のヌルゲーダンジョンに
て、回復ポーション用の薬草を採集せよ。報酬5万ル⠀ミ】
「薬草採集とか簡単そうだし、他にも似たような依頼あるけど報酬ほとんど同じ値段だし! よし、これを受けよう! ……ダンジョンの名前がおかしいのは気にしたら負けだな」
ギルド職員へ依頼の申請を済ませた椿は、ヌルゲーダンジョンにたどり着いた。
「ここってほんとに地下だよね・・・?」
ラウタージュのダンジョンは全て地下にある。
ところが、椿の目の前には広大な草原が広がっていた。
空も川もあるため、椿がいる場所が地下とは到底考えられなかった。
「まぁいいや。この世界元からちょっとバグってるし。気にしない気にしない」
ダンジョンとは、ヤーフ国がドルミラ国の近くに移動してきてレベル上げを十分に行えないビギナー冒険者達の為に作られた訓練施設である。
ダンジョンという名前ではあるが、ドルミラ国の王が国営としてつくったバリバリの人工物である。
レベル上げがしやすいよう低レベルモンスターを生息させており、その魔力に惹かれ薬草などの植物が生えるため、小金稼ぎとしても人気なスポットである。
ちなみにダンジョンはドルミラ国内に3つあり、
ヌルゲーダンジョン、ソコソコダンジョン、ツミゲーダンジョンという名前である。名前で難易度は察することができるだろう。
「よっし! 薬草探すかぁ!何事も1歩から! 小さなことを積み重ねて大成してやる!」
ダンジョンを歩き回ること数分。お目当ての薬草を見つけることが出来た。
「これなんだけどさ。依頼書に書いてあった特徴通りなんだけど……」
「おうおうなんや兄ちゃん! なにガン飛ばしとんじゃワレェ!」
「扱いが難しい植物ですってさ。もっと、こう……高いところにあってとりづらいとか保存するのが難しいとかかと思ったけど、反抗期半グレの植物とは初めて会ったわ」
そう。回復ポーション用の薬草が喧嘩をふっかけてきたのである。
「大して害はないって書いてあるから……抜いちゃうか!」
「なんやワレェ! なに掴んどんじゃゴルァア!」
「えいっ!」プツッ
「うっ! 母さん、ごめんな……」
草が最後の一言を言い残す。
「こーゆー感じかぁ…扱いが難しいというか精神に来るな」
依頼はリタイアすることが出来ない。精神を蝕まれながらも、草(反抗期)を抜き続ける。
「ア゛ア゛ッ……アイシテクレテ……アリガトウ……」
「カアサン……ナガイキシテ……ネ」
「マダ……シニタクナイィ!」
「……」
大量殺人をした時のような罪の重さを感じながらもなんとか薬草を規定量に達するまで採集し続けた椿は、宿への帰路についていた。
「なんで俺は草にこんなに惑わされてるんだ……もうこの依頼嫌だ……」
前回とは違った理由で依頼を嫌になった椿は、あるものを見つける。
「ん? あれは……なんかでっかい奴がいる?」
椿は、何かとても大きな影を見つけた。大きな影に近づいた椿は、決してヌルゲーダンジョンにいてはいけないモンスターを目にする。
「あれは……ドラゴン!?」
そう。椿が目にしたモンスターとは、魔物の中でいちばん強いとされているドラゴンである。
本能が逃げろと告げたが、椿はその場から逃げることが出来なくなってしまう光景を見る。
「えっ! 女の人が襲われてる!?」
椿とほぼ同い年くらいの女性が、剣を片手にドラゴンと対峙しているのだ。だが、戦力差は明らかであり、どう考えても女性がドラゴンに勝つことは出来ないだろう。
(やばいな。女の人を見捨てる訳には行かない! でもドラゴンと戦えるだけの能力も武器もない! どうすれば……)
内心迷っている椿であったが、しかし言葉とは裏腹に女性を助けるためにドラゴンの方へと走り出していた。
女性の元まであと30mほどのところで、女性の剣が弾き飛ばされ、女性が地面に腰をついてしまう。
(やばい! 女の人が殺される! 異世界に来て2日目なのに人が死ぬ光景を見るのは嫌だ! こうなったら突っ込むしかない!)
ドラゴンが腕を掲げ、女性にトドメを刺そうとした刹那、椿は叫ぶ。
「届けぇぇぇぇえ!!!」
手を伸ばす椿。だが、女性の元まであと10mほどあり、到底間に合う距離ではなかった。
そこで、椿の脳内にアナウンスが流れる。
「【記憶】スキルがレベル1に上がりました」
次の瞬間、椿の伸ばした手から黒く禍々しい電流のようなものが発現し、ドラゴンに突き刺さる!
「ゴガァァァァァア……」
一撃でドラゴンを倒した椿は、自分の謎の技やスキルのことは忘れ、女性の元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
「何とか大丈夫よ。ありがとうね」
女性は答える。
「わたしはラダ! 助けてくれたこと感謝するわ! あなたの名前を聞かせてちょうだい?」
「椿です。和智椿。無事だったなら良かったよ」
「ツバキ! よろしくね! 助けてもらったばっかりで悪いんだけど、ツバキって凄く強いのね! 私とパーティーを組んでちょうだい!」
意外な展開になったが、椿はある事を考えていた。
(これって……フラグ立ったよな! ピンチを颯爽と助けて仲間になってくれって、これもうラダ俺の事好きじゃん! しかも近くで見ると凄い可愛い! 異世界美少女きちゃーー!)
ラダは、髪はロングで綺麗な茶髪であり、動きやすいような膝ほどの丈のスカートと半袖の、日本でいうところのTシャツのような形の服を身にまとっていた。
(いや、すっごい可愛いんだけど……ダサTだよな、これ?)
視線に気づいたのか、ラダが言う。
「この服が気になるの? この服は最先端ファッションだから、まだ一般人には分からなくてもしょうがないわね。 これが今時のオシャレってやつよ」
ラダが来ているものは、白いTシャツの真ん中になんとも言えないブサイクな猫のような生き物が描かれていた。
(これがオシャレ? とんでもない! ファッションセンスが絶望的じゃないか! ああ、せっかくのヒロイン枠が……)
椿が考えていると、ラダは言う。
「お礼をさせてちょうだい! 来て欲しい場所があるのよ。 その先でパーティー登録もしちゃいましょう!」
「一文に色んなこと詰め込むなぁ。まぁ、これから宜しく、ラダ!」
椿はラダについて行き、ヌルゲーダンジョンから出た。
こうして椿には新たな仲間が出来るのであった。
このときの椿はラダについてで精一杯であり、【記憶】スキルについてのことは忘れてしまっていた。