86.レイド集結
『どいつもこいつも俺様を下に見やがって⋯⋯下等なお前らが俺様に勝てる通りはどこにもないんだよ!』
ドス黒い魔法がばら撒かれる。
だけど、スピードが遅い。
これなら容易に避けれる。
『特にお前が一番気に食わない』
「こっちかよ」
ルシーエルの手刀を弾く。
連撃が続き、その全てを弾いてみせる。
だが、ルシーエルの手刀がどんどんと加速していく。
「見える。見えるぞ。お前が攻撃して来る道がな」
怒りに身を任せるな。
怒りを知性で包み込み、怒りのエネルギーを強さへと変えろ。
一点の迷いなく、コイツを殺すと言う目的に向かって進め。
研ぎ澄まされていく感覚が徐々にルシーエルのスピードに追いつく。
『図に乗るな! お前と俺様では次元が違う!』
「くっ」
高速の手刀の中に蹴りを混じって入れるか。
だけど、そんなんじゃ俺は吹き飛ばねぇぞ。
『何故そこまで、下等生物の分際で⋯⋯』
「言ったろ、これがメアの、命の重みだ」
俺が頭突きで攻撃する。
近距離戦なら俺の方が強いと思ったが、相手の方が強そうだ。
そもそもレイド戦でタイマンなんて出来る筈がなかった。
『死ね!』
「単調だな」
直線的なレーザーを放つ魔法なんざ、俺には通用しない。
躱した先に一瞬で高速移動するルシーエル。
想定済み。
俺程度が想定出来る範囲内なら、俺よりもモンスターとの戦いが慣れている奴らは、もっと強い。
「霧外流、夜霧!」
愛梨の銀閃がルシーエルの背中を抉り、すぐに離れる。
俺も同時に地を蹴って距離を話すと、神楽の爆炎がルシーエルを包み込んだ。
『邪魔だ!』
「俺達も居るぜ!」
「これはレイドだぞ!」
他のユーザーも連携しながら攻撃を仕掛ける。
相手に飛ばれては近接攻撃が出来ない。
だが、俺へと攻撃しに来たバカなおかげで、みんなで全力で戦える。
「魔法班が動く! 一旦退却!」
『クソがっ』
さすがに大人数だったのか、ルシーエルは逃げるように上空へと向かう。
だが、そこに舞うのは様々な魔法の数々だ。
『こんなの、何百何千あろうが関係ない!』
「そんなのは想定しているさ。日陰!」
バリアを使って攻撃を防いだ瞬間にライトから俺への指示が飛ぶ。
自重も手加減もしない。
「メイ!」
「全軍出撃!」
メイド軍が群がり、攻め立てる。
激しい戦闘音が聞こえる中、散っていくメイド達。
その中を駆け抜けるアタッカー班。
「全軍後退!」
「強化スキルありったけ使え!」
アタッカー班が攻撃をする。
既にメイド軍により相手は地に伏せている。
『舐めるなああああああ!』
「誰が舐めるかよ!」
アタッカー班に放たれる魔法をブロッカー班が護る。
しかし、その火力は非常に高かったのか、その一撃で護ってくれた人が沈んだ。
「後は任せた⋯⋯」
「任されたぜ!」
順番に攻撃スキルを使って攻撃する。
当然相手も反撃を加えるが、多勢に無勢だ。
『クソが!』
手刀がエネルギーで具現化している。
射程が伸びたかもしれない。
「ここは私が!」
愛梨がその攻撃を受け流し、反撃の斬撃を高速で浴びせる。
その瞬間に俺も相手の背後を陣取る。
ユーザーが一人沈んだ事により、天秤は少しだけこちらに傾いた。
より俺の力が増している。
「オラッ!」
背中に斬撃を浴びせる。
メイを全力で使っているため、愛梨の虐滅刀からはあまり輝きを感じない。
つまり、虐滅刀の効果はかなり薄くなっているのだろう。
対して、俺はメアから貰ったネックレスの力により、力が上がっている。
今の愛梨と並んで戦えている程には、強くなっている。
ユーザーが死ねば、その分力を増す。
「行くぞ」
「うん」
俺達は短い会話で息を合わせて、同時に駆け出す。
相手の魔法を愛梨が切り裂き、俺が先に攻撃する。
追いついた愛梨と共に踏み込み、同時に首を狙って突きを放つ。
掌で防がれたが、それでも少しだけ後ろに吹き飛んだ。
追い込むように踏み込む。
真反対の攻撃で攻撃を繰り返す。
相手からの攻撃は近い方が受け流す。
今の俺には様々な道が複数視える。
攻撃は完全に受け流し、逆にこちらの攻撃は命中させる。
「深追いするな! 下がれ!」
ライトの叫びに合わせて強攻撃を当てて、一旦下がる。
その横を通る魔法が目に入る。
『ちぃ!』
「魔法攻撃が弱点のようだ! さっきから魔法攻撃に対してバリアを使っている!」
『お前は邪魔だ!』
ライトの背後にルシーエルが移動する。
「俺はこれでも、聖騎士のつもりだ。〈聖なる障壁〉」
薄い黄金のバリアで攻撃を防ぎ、剣を抜いた。
「俺の領域スキルは短期間しか効果を発揮しないが、今なら少しは有効かな? 〈神聖領域〉〈聖剣の雷〉」
バリアと同じ色の領域が広がったと思ったら、ルシーエルの領域と相殺して砕け散った。
同時に俺の霧が再び姿を現す。
轟音と黄金の雷が霧の中を埋めつくした。
腹に来る振動。
『かはっ』
「俺は悪魔にとっては天敵だぞ」
今まで戦って来なかったライトがその力を解放した。
「最初からやってくれよ」
リーダーだから仕方ないけどさ。
「そう言えば知らないんだよね。ライトさんはオーバーヒートしちゃうんだよ。スキルを使いすぎると。だから、最終盤でしか力を使えない」
マジかよ。
でも、その分火力には期待出来るんだろうな。
俺と愛梨は敵に肉薄した。
『くっ!』
「どうしたよ。下等生物に追い込まれてるぞ!」
俺と愛梨の斬撃を余裕を持って避けた。
ギリギリで回避して反撃に転ずるのではなく、回避に集中した証拠。
⋯⋯それだけ切羽詰まった状態。
余裕で躱した風を装いながらも、実際は余裕が無い。
「一気に攻める!」
道が増えた!
さらに追い込んでいく。
「はあ!」
ライトの攻撃も合わさりダメージは加速していく。
『図に、乗るな!』
再び相手の領域が霧を吹き飛ばした。
だけど相手は満身創痍。
このまま行けば押し切れる。
「くっ。こんなに早くか」
ライトが動かなくなった。
これがオーバーヒートってやつか?
『⋯⋯加速』
「なっ!」
瞬時に移動して、近くの魔法士を貫いた。
『あぁ。美味い』
「ドレインかよ」
このままじゃまずい。
長引けば不利になるぞ。
もう一度追い込まないと。
「ごめん⋯⋯強化系スキル全部使い終わった」
愛梨は強化系スキルを全力で使って俺に合わせていたようだ。
まずいな。
「俺達で追い込む! その間になんとかしてくれ!」
作戦もクソもない。
最後はゴリ押しってか?
何とかしろって⋯⋯どうしろって言うんだよ。
決め手に欠けるぞ。
下手にメイドを行かして殺られたら回復されるだけだ。
いや、それは他のユーザーも同じ。
HPがギリギリまで追い込まれたから、相手はドレインを使って来たと思う。
あと一歩なんだ。
「⋯⋯行かないと」
無策で行って追い込むしかない。
目の前でユーザーが散る。
その分、相手が回復している。
与えるダメージ、ドレインの回復どっちが上だ?
「分からない。でも、行かないと間に合わない!」
俺は駆け出した。
「受け取って!」
愛梨から虐滅刀を受け取る。
「ライトさん。僕と⋯⋯」
「⋯⋯分かった!」
「「エンチャント、エンジェルフレア!」」
白夜と虐滅刀に黄金の炎が灯る。
「全軍、自害、命譲渡、大将強制命令実行。マスター、ご武運を」
メイ含む全てのメイドが自害して、宙に浮かぶ天秤の傾きが大きくなる。
『クソ、邪魔するな!』
「逃がしはせんぞ!」
俺は跳躍して上からルシーエルを見下ろす。
「ありがとう。皆、タイミングを見て離れて」
俺は構える。
「陰式二刀流、悪夢断罪の陰」
『なぜ俺様が、こんな下等生物に!』
⋯⋯レイドは終わった。
そしてメアとの生活も。
俺に残されたのは、思い出と『天秤のネックレス』だけだった。
与えられたモノは多かったけど。
メアと過ごした記憶、証拠、その全ては俺と愛梨以外からは消え去った。
元々なかったかのように。
「⋯⋯日向くん。明日から、学校だよ」
「ああ。ちゃんと課題は終わってる。準備も終えた」
「⋯⋯一緒に、ずっと覚えてよ。メアちゃんの事。ずっとずっと、ずーと一緒に」
「ああ。ありがとう、愛梨」
「⋯⋯⋯⋯今きっとメアちゃんは笑ってるね」
「そうかな。⋯⋯そうだと、良いな」
星を眺めながら、俺達は背を寄せ合った。
日陰(霧外日向)
レベル:53
称号:《ガチャ中毒者》〈モンスターコレクター〉
スキル:【データ転性】《モンスターカードガチャ》《霧領域》《ラプラス》〈剣技.8〉〈剣術の才〉〈殺人の才〉〈気配遮断.8〉〈作業厨.1〉〈集中力強化.5〉〈攻撃力強化.3〉〈敏捷力強化.2〉〈精神力強化.6〉〈斬撃数増加.1〉〈剣の舞.2〉〈刀の心得.5〉〈防御姿勢.3〉〈回避.3〉〈鑑定妨害.2〉
魔法:なし
お読みくださいありがとうございます!
一話から最後までお読みくださった方、ありがとうございます!




