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85.大悪魔ルシーエル

 「メア⋯⋯メア!」


 心臓からじわりと滲む血。

 なんで? どうして?

 モンスターの一部だったメアから血が出るんだよ!


 ここはデータ世界なんだぞ?

 どうして⋯⋯。


 『ようやく開放された〜清々しい気分だ』


 「⋯⋯メア」


 後ろから人間じゃない何かの声が聞こえたけど、どうでも良い。

 急いでスマホを操作してポーションを使う。


 「なんで、効かないんだよ!」


 「ひ、⋯⋯た」


 「な、なんだ? どうした?」


 「メアちゃん⋯⋯」


 「あ⋯⋯り」


 掠れる声で俺達を呼んだと思う。


 「たの、⋯⋯た、あり⋯⋯と、だい⋯⋯き」


 メアはギリギリまで声を絞り出し、俺にネックレスを押し当てた。

 それを掴み取る。


 すると、最期の笑顔をメアは見せてくれた。

 光の粒子となって⋯⋯メアは、消えた。


 『ギャハハ、巫女は死んだ! 俺様を封印する奴は存在しない!』


 「なんだ、お前は」


 俺は怒気と殺気を込めて呟いた。

 見た目は肌黒い人間に角が生えた存在で、コウモリのような羽で飛んでいる。


 『俺様は大悪魔、ルシーエル様だ。覚えておけ』


 「前に、ネックレスから出て来た奴はなんだっ!」


 『俺様の使い魔だ』


 ああそうなのか。

 あの時、戦ったアイツが大悪魔だと俺は勘違いしていた。

 そもそもここはレイドイベントの開場だ。


 あんなにあっさりクリア出来る場所じゃなかったんだ。

 ⋯⋯あんまりだろ。ふざけんなよ。

 なんで、なんでこうなるんだよ。


 「まぁ良いや。いや、良くないけどさ。ただ、お前は殺す」


 俺の中に蠢く感情が分からない。

 なんだこれ。

 視界が真っ黒に染まっていく。


 ただ、アイツだけが見える。

 殺したい。許せない。

 そんな感情が溢れてくる。


 『人間ごときに何が出来る?』


 ルシーエルが動き、俺に手刀を突き刺す。

 しかし、それを刀で受け止める。


 『なに?』


 「色々な星座がさっきの戦いの中であった。だけど、てんびん座だけはなかった」


 きっとこれがその答えだ。

 半透明の巨大な天秤が俺の背後に出現する。

 それが俺の力を上げている。


 「所詮、こっちもお前も神に造られた傀儡だ。だけどな、傀儡にも感情はあんだよ!」


 俺を中心に真っ白な濃い霧が広がる。

 すぐさま俺はルシーエルに肉薄した。

 コイツだけは⋯⋯相打ちでもぶっ殺す。


 『ここかっ!』


 「霧の中では認識する事が出来ないぞ」


 研ぎ澄まされた感覚だ。

 中は怒りで染まっているのに、周囲を正確に認識出来ている。

 相手のどこを狙えば良いのか、瞬間的に分かる。


 頭のイメージが完璧に身体で再現出来る。


 『ちょこまかと!』


 相手の攻撃が全て分かる。

 相手の攻撃全てが『道』として見えて、俺が攻撃するべき場所が黒色の『道』として見える。

 全てを認識出来る。


 「私も居るからね!」


 愛梨が参加して来る。

 だけど⋯⋯今は邪魔だ。

 今の流れをたった一人の邪魔が居るだけで崩される。

 どっか行け。


 「霧外流、夜霧」


 縦の一閃を浴びせる。


 「ッ!」


 躱された?

 だけど問題ない。

 何回失敗しようとも、殺すまで何回も攻撃をするだけだ。


 今の俺に愛梨ではついて来れない。

 今の俺はメアの命を背負ってるんだ。


 こんな奴には負けない。


 『もう見えたぞ。ブラックサンダー!』


 「シィ!」


 黒い雷が俺を襲いに伸びてくる。

 なんで?

 今の俺の気配をアイツが感じ取れるのか?


 「まぁ良い。目的は変わらない」


 背後から進む。

 今の俺からは足音もしない。

 完全に気配を消している。


 「死ね」


 『見えてるんだなぁこれがっ』


 「⋯⋯」


 目の前に悪魔の指が見える。

 手刀による突き刺し。

 このままだと俺の頭が貫かれて死ぬだろう。


 しかし、構えからの攻撃の勢いが強すぎて軌道修正が出来ない。

 ⋯⋯死ぬ?


 メアの仇も打てずに⋯⋯こんなあっさりと死ぬのか?


 「危ないな!」


 愛梨がタックルで助けてくれた。

 しかし、愛梨の左腕が肩から吹き飛んだ。

 霧に紛れる様に隠れる。


 「なにやってんの! ばっかじゃないの! 一人で特攻して勝てる訳ないじゃん!」


 「大丈夫だから。問題ないから。任せて⋯⋯全部、終わらせるから」


 「嫌だよ。今の君は行かせられない」


 「邪魔だ」


 「そうかもしれないけど、今の君じゃ勝てない」


 そんな訳ない。

 今の俺は最高のコンデションだ。

 今まで以上に剣筋が良かった。

 きっと剣術のレベルが上がっている。


 「だって、周りが見えてないよ。私が襲われた時、助けてくれた時と同じ事になってる。ガムシャラに向かってる⋯⋯暴走状態だよ」


 「だから⋯⋯」


 「もっと私を頼れよ! 約束したでしょ! 支え合おうって! 一人よがりで進んでんじゃない!」


 「ぐふっ」


 俺の腹に頭突きが飛んで来る。


 「目を覚ませ! 怒りで暴走すんなよ! もっと、私を、周りを頼ろうよ」


 「⋯⋯リイア、たん」


 再び頭突きが俺の胸に炸裂した。


 「ごめん、邪魔とか言って」


 頭の中がシャキッとした。

 そうだな。

 さっきのままだと、愛梨に助けられていなかったら俺は死んでいた。

 メアの仇は取りたい。


 だけど、メアがやられて悔しいのは愛梨も同じだ。

 俺一人の怒りじゃない。


 「悪い。バカになってた」


 ここはレイドだ。

 本番はここからなのだろう。

 そう考えると、あのルシーエルとか呼びにくい自称大悪魔さんは強いんだろうな。


 『声が聞こえてるぞ』


 反対方向にバックステップして避ける。

 この霧で動けるのは多分、俺と愛梨くらいだろう。

 しかも相手は飛んでる。


 下手に動いて相手に先に気づかれたら、盾役でもタダでは済まない。

 だから、こっからは俺と愛梨の独擅場にする。


 「ライトさん」


 「ッ! びっくりした。まさか領域系スキルを隠し持っていたとは⋯⋯気配感知が上手く使えない」


 「メイを召喚します。敵は上の方に居ますので、後は考えて」


 色々と丸投げしてメイを召喚し、大量のメイドを呼び出した。

 命令に従うメイドは、付き従う様にすれば俺についてくる。

 位置が分からなくても来るので、この霧の中でもメイドはルシーエルと戦える。


 『来たかっ!』


 「そらっ!」


 相手も段々と慣れて来たのか、俺が攻撃を仕掛けたタイミングでしっかりと反撃を合わせて来た。


 『人間にしては中々やるな』


 「これがメアの命の重みだクソったれ!」


 反撃で押し切る⋯⋯。

 そんな事はしない。


 ギリギリまで相手に力を引き出させて受け流す。

 例え悪魔だろうが、これで少しだけ重心はずれる。


 「霧外流、移流霧!」


 片手だろうが、愛梨の火力はこの中で一番高いと言えよう。

 ルシーエルの背中を斜めに斬り裂く。

 ダメ押しの蹴りも追加して。


 「しゃら!」


 蹴られたタイミングで俺も斬撃を入れて霧に隠れる。

 それを繰り返す。


 『鬱陶しい!』


 さらにメイドの攻撃も追加される。

 メイド達は数もある。


 「悪いがまだ終わらないぜ」


 隠れてヒットアンドアウェイの時に神楽にとあるカードを渡している。


 「神楽!」


 「解放!」


 神楽に渡したカードは海王だ。

 大量の魔力を手に入れる神楽。


 「バッファーは神楽にバフを! デバフは鈍足だ! 確実に命中させるぞ!」


 『雑魚共があああああ!』


 エネルギーを解放する悪魔。

 何かをする前に行動する。

 愛梨が攻撃し、反対側から俺が攻撃する。


 相手には攻撃するさせない。

 不意打ちでメアを殺したんだ。

 それぐらい当たり前だろ?


 「爆帝咆炎!」


 巨大な炎の光線がルシーエルを包み込んだ。


 『こんな⋯⋯モノおおおおお!』


 その魔法が終わると、ルシーエルは満身創痍になっていた。

 終わりだ。


 「これで、トドメだ!」


 『雑魚共が⋯⋯良くやったと褒めてやりたいところだ』


 「なんっ!」


 俺がトドメを狙って振るった刀が空を斬った。

 一瞬で俺の背後に移動しているルシーエルは⋯⋯無傷だった。


 『俺様は脱皮するんだよ』


 「がはっ」


 背中を蹴られて、壁まで吹き飛んだ。


 『魔帝領域、展開!』


 俺の霧が晴れて、紫色の空間が広がった。


 『雑魚共が。思い上がるなよ!』

お読み下さりありがとうございます!


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新作です。良ければこちらもお読みください。

新たな配信モノです

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