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83.レイド始動、スターアラクネ

 レイド開始日、俺達はレイド会場へと入っていた。

 ギリギリまで入れない訳ではなく、その日になったら専用のフィールドに入れるようになっている。


 「もうかなりの人が集まってるね」


 「そうだな。神楽を探すか」


 イフリートを召喚していたので、すぐに神楽を発見する事が出来た。


 「日陰さん、リイアさん。今日は頑張りましょう!」


 「ああ。もちろん」


 「ええ」


 「メアも居るよ!」


 レイドが始まるまでの時間を上空の時間でカウントを始めた。

 それまでに俺達のチームの役目をおさらいしようと思う。


 まず、初めに俺はモンスターを二体召喚して先行させる。

 そいつらでヘイトを集め、不意を狙い愛梨がどでかい一撃を与える。

 一番被ダメを大きく与えたユーザーにヘイトが向く習性があるので、これで愛梨にヘイトは向く。

 そのように調節する。


 したらば愛梨は一気に距離を取り、その時までに強力な魔法を準備していた神楽がさらなるダメージを与える。

 火に耐性があると神楽の攻撃があまり通らないって言うか、神楽が戦力的な数に入らなくなる可能性はある。

 今はそれを加味しないで考える。


 予定としてはそれで神楽の方にヘイトが向かうので、俺はさらにモンスターを投下する。

 最初に召喚していたモンスターはヘイト集めであり、愛梨のための準備なので交換する。

 火力の高いモンスター四体で攻撃をして、一割を削るつもりだ。


 一割削ったら休憩、半分に到達したら再び全力で最後まで戦う。

 大まかな序盤の流れはこんな感じだ。


 「そろそろ始まるな」


 カウントがゼロになる。

 ⋯⋯しかし、一向にレイドモンスターが現れる気配がしない。


 「なんだ?」


 俺がそう思っていると、背後から苦しむ声が聞こえる。

 その主は⋯⋯メアだ。


 「うぐっ、ううう」


 「め、メア⋯⋯」


 頭を抱えて、フィールドの中心部まで歩き出す。

 だと言うのに、誰もがレイドモンスターが現れない事だけに集中していて、メアに気づていない。


 ⋯⋯違う。

 もしかしたら最初から、メアは見えていなかったのかもしれない。


 神楽も、今日はメアに挨拶していない。

 律儀な神楽なので、絶対に挨拶する。

 だと言うのにしなかった。


 さらに、メアが見えてない場合、見えない事に疑問すら持たなかった。

 もしかして⋯⋯メアは見えてないし記憶から忘れられている?


 ネックレスが光る。


 「おお、光出したぞ」


 「ついに始まるのか」


 メアの苦しむ声が誰にも届かない。

 俺は近づきたかった。

 だけど、足がなにかに固定されたかのように全く動かない。

 愛梨の顔にも焦りが出る。


 愛梨もメアを見えている。

 俺達二人だけがメアを見れて、苦しむ姿を目に焼き付けている。


 声が⋯⋯出ない。


 頼む、メアを、メアを⋯⋯。


 俺の想いなんて通ずるはずもなく、ネックレスはさらなる輝きを放つ。

 そして、メアの背中から巨大な脚が生えて、体から糸が無数に出てくる。

 その糸で身体を構築していく。


 「嘘だろ。やめてくれよ。なぁ、やめてくれよ!」


 俺の叫びは虚しく空を飛ぶ。出せた声は誰かに届く事はなかった。

 どうしてなんだ。

 神、どうしてお前らは俺にこんな運命を背負わせた。


 どうして、レイドモンスターのメアを⋯⋯ナイトメアを俺に託した。

 応えろよ! どうせ心中もきちんと見てるんだろ!


 娯楽を頼むために用意した最高の駒だったか!

 俺はお前らの想定通りに動いて心底楽しかったか!


 なぁ!

 応えて⋯⋯くれよ。


 「アラクネ⋯⋯それにしてはでかい。スターアラクネ⋯⋯か。皆、配置につけ! 練習のように狩るだけだ!」


 どうしたら良いんだ。

 俺はメアに刀を向ける事が出来るのか?


 そもそもなんでメアと戦わないといけないんだ。

 レイドモンスターだから? ふざけんな。

 メアはモンスターなんかじゃない。


 笑ったり、泣いたりする普通の人間で子供なんだよ。

 絶対にモンスターなんかじゃ、ないんだ。


 「日陰さん?」


 神楽が疑問を浮かべる。

 だけど、俺はそれに反応する余裕が一切なかった。


 一緒に飯を食べ、一緒に寝て、一緒に遊んだ、そんな相手がモンスターだったんだ。

 神が何かしらの介入をしているとは思っていたけど、それがコレかよ。

 元々レイドを企画しておいて、さらに楽しむためにそのモンスターの記憶などを封印して俺に拾わせた。


 「ふざけるなよ。ふざけんじゃねぇ」


 いくら嘆いたって現実が変わる訳でも、この場が好転する訳でもない。

 俺達だけがこのレイドに参加している訳では無い。

 作戦通りに動かないといけない。


 刀を抜け、踏み込め、攻撃しろ、戦え。


 勝つために、報酬を得るために参加したんだろ。

 なのになんで、動かないんだよ。


 「アタッカーA班! どうした! 急げ!」


 『ラーラ』


 俺と愛梨はメアから発せられた歌を聞いた。

 思い出すのは寝る前、天井に向かって虚空に歌とセットで描いた星座。


 それを認識した俺達はすぐさま動いて、糸の攻撃を躱した。

 星座と同じ形で糸を放って来る。

 考えている暇はない。


 でも考えるしかない。

 レイドモンスターを倒すんじゃなく、メアを救い出す方法を。


 「行くか」


 立ち止まっていても仕方がない。

 ただ嘆いてもメアが救われる訳じゃない。


 俺はメア⋯⋯アラクネの額に注目する。

 そこにはひし形の模様が浮かんでいる。


 あからさま過ぎる。


 メアのネックレスは大悪魔を封印したらしい代物。

 その中身は白夜を手に入れた時に出て来ている。

 つまり、今は中身が空っぽだ。


 ひし形の額を無駄に出しているなら、攻略方法はそれだろう。

 そう考えるなら、俺がやるべき事は一つだ。


 アラクネを封印する。


 そのためにまずはメアのネックレスを奪い取る。


 「はああああ!」


 俺は駆け出した。


 糸での攻撃は歌とセット⋯⋯つまり、その歌を暗記している俺達なら糸の攻撃を躱す事が出来る。

 星座の形で糸を飛ばすからな。


 まずはいつも通り進行させて、隙を狙ってネックレスを奪い取る。

 いつも通り⋯⋯俺はモンスターを召喚した。


 「おっと」


 腕をぶん回してこちらを襲って来るので、屈んで攻撃を避ける。

 そのまま突き進み、モンスターを召喚する。


 メアは巨大なせいか、あまり大きな動きを見せない。

 今のうちに攻める。


 「⋯⋯ッ!」


 足元に魔法陣がっ!


 横に大きくステップして避けて、突き進む。

 メアは再び糸を取り出して来る。


 愛梨が星座の名前を叫ぶと、後方の人達が陣形を調整して、糸を避ける。

 メアの脚が微かに動く。


 刹那、一瞬てモンスターの背後に移動した。

 先にモンスターを倒すようだ。


 「俺達に任せろ!」


 ブロッカーがモンスターを守る為に動く。

 だが、それはメアの予想通りだったかの如く、上から毒液が落ちてくる。

 それはモンスターを狙っており、上からの攻撃だった為に盾では防げていなかった。


 だけど、隙は出来た。

 隙が出来たなら次の攻撃パターンが入る。

 そう、愛梨の攻撃だ。


 「ごめんっ」


 メアに対して謝り、アラクネの下半身、蜘蛛の部分に白銀の剣筋を降ろす。

 だがしかし、それすらも分かっていたのか、事前に鋼色の糸を障害として用意していた。


 「斬れ⋯⋯ない」


 硬い訳じゃない。

 柔らかいんだ。

 ゴムのようにしなるせいで、上手く切れなかった。


 「必要なのは力じゃなくて、速さか」


 俺はアラクネのでかい脚をよじ登る。

 モンスターを召喚してもすぐに対応される。


 ⋯⋯厄介だ。


 知性が無さそうに見えて、メアの知識がしっかりと入ってやがる。

 だからこそ、モンスターや愛梨に一瞬で対応している。


 「ネックレス⋯⋯届け!」


 俺は跳躍してネックレスに向かって手を伸ばす。

 あと少しで⋯⋯逃げられた!


 「速いな」


 あのスピードをどうにかしないと⋯⋯俺だけじゃ絶対に無理だ。

 みんなの力を借りないと⋯⋯届かない。

お読み下さりありがとうございます!

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