76.ナイトメア、ナンバー13
たった一体の悪魔にメイド達が殲滅されている。
流石に三級以上のメイドは少しばかり戦っていたが、物理攻撃は意味が無いようだった。
あっちからの物理攻撃は通じるのに、こっちからの物理攻撃は通じないとか言う理不尽。
魔法攻撃しか全く有効的な攻撃方法がない。
魔法を持たぬ俺は、悪魔との戦いでは全く役に立たない。
「何かないのか⋯⋯このままだと、押し切られる」
それだけ悪魔の強さは別格だ。
俺はスマホを操作する。
これは賭けだ。
もしかしたらなんの意味もない事かもしれない。
悪魔に攻撃が可能な武器を探る時間はない。
そもそもあったとして、買えるのかも怪しい。
精霊に攻撃出来るこの刀だってかなりの値段だから。
だからこそ、俺はコイツに賭ける。
「報酬を受け取るぜ」
俺はこれに白夜を設定している。
アイテム化したらどんな効果が出るかは分からないけど、現実世界の物をデータ世界のアイテムにするんだ。
何かしらの恩恵があってくれ。
「頼むぜ。メアを、守りたいんだ」
俺は報酬受け取りを選択した。
『クソ、小賢しい。次から次へと』
悪魔が倒しているのは下級のメイドであり、上級のメイドは後方から攻撃していた。
メイの作戦である。
肉壁を淡々と指揮して居る。
数はこのダンジョンのボス部屋では収まらない程におり、肉壁は倒されても次々に生産されていた。
範囲攻撃をしても防御系のスキルで防がれている。
一行に悪魔は進む事が出来ないのに、ダメージだけちまちまと与えられる。
『下等生物にしては良くやった方だと褒めてやろう。だがな、一歩も動かない奴が一体だけ居れば、不自然だと思うだろ!』
攻撃の合間にも原因を見つけ出した悪魔はメイに向かって魔の手を伸ばす。
しかし、それを拒むのもまたメイド。
『クソ邪魔だ! 邪魔邪魔!』
感情的になりやすいのか、悪魔は怒りを漏らしながら片手間にメイドを屠る。
回避や防御の回数も増えている事から、そこまでHPはないのだと想定できる。
気配の察知は上手いようだが、個々で分ける事は出来ないらしい。
タイミングを見計らい、俺は動いた。
「陰式一刀流、戦乱影舞!」
『むっ! さっきの下等生物か! いくらやっても無駄な事!』
相手の手刀の攻撃⋯⋯俺はそれを弾いた。
『なにっ!』
「行くぜ、白夜!」
ここまで手に馴染むとはな。さすがに想定外。
しかし、お前の性能は凄いぜ。
虐滅刀に劣らずだ。
特徴が違うから真に比べる事は出来ないが、悪魔を攻撃出来るならなんだって構わない。
『面倒な』
「高く飛んだって意味無いぜ」
白夜と言うのは、太陽が沈まない現象を意味する言葉だ。
その名が与えられたこの妖刀は、意味に因んだスキルを持っている。
「〈白夜〉!」
使用者を落とす事をしない。
俺は空中に出現した足場を蹴っ飛ばして悪魔に肉薄する。
「自分の意思があるんだよな妖刀ってのは! 俺を使用者に選んだ事、後悔はさせない」
『ごちゃごちゃうるさい!』
相手の攻撃を弾いて反撃する。
落ちると同時にスキルを発動して空気を蹴る。
その繰り返しで攻撃して行く。
『動きが⋯⋯攻撃に見えない』
「そりゃあそうさ。この技は、影のように執拗に追いかけ、舞うように攻撃する。基本は舞なのさ」
『だが関係ない。所詮は下等生物! 我の足元にも及ばない!』
おいおい悪魔さんよ。
お前はさっきまでの戦いを忘れたのか?
お前の足元には、大量のメイドが居るだろうがよ。
「メイ!」
「命令実行、魔法砲撃陣形、攻撃開始!」
「マジックロッド!」
魔力の本流が悪魔を包み込み、天井に衝突する。
虹色の輝きを話す魔力の柱は⋯⋯一言で言ってとても綺麗だった。
『む、虫けらが、下等生物がああああ!』
一本の光の矢が、新幹線の如きスピードでメイに向かって進んだ。
当然、それを阻むメイドが前に出るのだが。
『爆ぜろ』
爆発する矢。
その爆風によりメイは消失、メイのスキルで呼び出されていたメイド軍も同時に消滅する。
『なるほど。召喚と支援、指揮が役割だったか』
「くそっ」
『よくもコケにしてくれたな。もう、手加減はせんぞ』
「嫌だなぁ。アレが全力だったんでしょ? 強がりは良いって」
『強がりかどうかは、その身で受けてみれば分かる事だ!』
悪魔の背後に巨大な魔法陣が出現する。
くっそ。もう少し広ければ海王で防げたのに。
どうする?
代理召喚したメイドは、召喚中にメイがやられると三分間だけ召喚出来ない制約が存在する。
夏ガチャ、ノーマルガチャでも防御を得意とするモンスターは居る。
居るのだが⋯⋯数が少ない。
そもそも四体しか召喚出来ない。
大丈夫か?
一級のモンスターだからって最強な訳では無い。
一級のカテゴリの中に居ても強さにはバラけが存在する。
強い部類のモンスターは最初の方に出し切っているし、ミノタウロス戦でも消耗している。
今出せる最高で奴の攻撃が止められるのか⋯⋯不安だ。
「でも、考えていても仕方ないか。召喚!」
魔法に備える。
刹那、轟音と共に巨大なレーザーが放たれた。
メアを抱えながら、防御モンスターに背中を預ける。
「衝撃が、強すぎる」
削られる音が背後から響き、徐々に光になって行く。
「頼む、持ってくれ」
俺の言葉は願望でしかなく、モンスターは散った。
だと言うのに魔法は継続中であり、命を刈り取る攻撃は未だにあった。
⋯⋯終わりか。
そう覚悟した時である。
「シールド」
メアが立ち上がりそう呟いた。
微かで小さな呟き。
聴き逃しそうになる、本当に小さな言葉だった。
「嘘、だろ?」
巨大な攻撃を完璧に受け止めている結界をメアが一瞬で作りだしたのか?
そんな事が可能なのか?
『ぐぬ。なかなかにしぶといな』
魔法が終わった。
「生命の危機に直面した⋯⋯と、判断しました」
「メア?」
メイのような機械的な発言。
どうなったんだ?
本当に今、俺はどんな状況に立たされているんだ?
メアは今、どうなっているんだ?
『ふん。巫女よ、さっさと死ぬが良い』
「原因の除去に取り掛かる」
「んなっ!」
ほんと、驚かされてばかりだ。
メアの背中から巨大な蜘蛛の脚が四本伸びて、悪魔と同じ高さまで登った。
悪魔が魔法攻撃を繰り出すが、メアは全く意に返さず、防いでみせた。
『何っ! 巫女程度がそのような力を持っているはずが無い! 死ねええええ!』
「今宵断罪の裁きを下す。我が名はナイトメア、ナンバー13。マスターコマンド、ID5、針地獄」
悪魔が魔法を使うよりも早く、地面から剣のような物が伸びる。
それが悪魔に突き刺さる。何重にも。
『こ、こんな、力⋯⋯そうか、おま⋯⋯こじゃなく、⋯⋯アだっ⋯⋯⋯⋯か』
悪魔が何かを言い残して、消えた。
「処理完了⋯⋯」
メアが事切れたかのように倒れたので、急いでキャッチする。
寝息気が聞こえる。
報酬とかがある訳ではなかった。
とりあえず今日は、もう帰ろう。
「色々とありすぎて、疲れちゃったよ」
帰還。
「ただいま」
「おかえり日向くん。晩御飯出来るてよ⋯⋯メアちゃん寝てるの?」
「ああ。当分そっとしておいてくれ。色々あってな」
俺が疲れているのが分かるのか、愛梨はそれ以上何も言わなかった。
晩御飯は美味しかった。
「ね、日向くん?」
「ん? ダンジョンの事なら後にしてくれ。明日改めて話すから」
疲れた。思い出したくない。
「違うよ。こーれ」
「⋯⋯夏祭り?」
「そう。約束したじゃん。一緒に行こうって」
そうだっけ?
「友達は良いの?」
「うん! ま、二人きりじゃなくて、メアちゃんも一緒だけど⋯⋯そこは仕方ないって思ってる。機会があれば、二人だけでまた行こ」
なんで?
まぁそうだな。
「久しぶりに行くのも一興か。いつなの?」
チラシを見ながら聞く。
「明後日! 決まりだからね。誰かと約束取り付けるとか無しだからね!」
「はいはい。風呂行ってくる」
「やった!」
お読み下さりありがとうございます!
また明日来てください!