74.モンスターコレクターの力
「『一級剣士メイド』『一級:バフ水着アサリ』『一級盾メイド』召喚!」
ブラックミノタウロスに接近しながらモンスターを召喚する。
「〈攻撃支援〉〈敏捷支援〉〈防御支援〉」
特化したバフを使えるメイドよりも効果は下がるが、使えるバフの範囲が広い。
盾メイドがミノタウロスを挑発して攻撃を受け止めてくれる。
その隙に俺達がミノタウロスを攻撃する。
「くっ。さっきよりも手応えがねぇな。まるで、ダイヤを相手してるみたいだ」
尋常じゃない硬さだ。
だけど、一級モンスターの斬撃なら流石に効くよな。
ミノタウロスの体が光、深く背中を斬られる。
あれは防御力を上げるスキルかな?
「上手く行けば、一級メイドでワンパン出来たのか」
だけどまぁ、それは相手も分かったのか、剣士メイドの相手をしだした。
俺は眼中にないって感じだな。
「傷、再生するのか?」
斬撃を飛ばすスキル、防御力を上げるスキル、再生スキル、まだまだ引き出しはありそうだな。
さっさと決着させた方が身のためか。
俺は強く踏み込む。
再生される前に傷口を抉る。
肉体に直接ダメージが与えられないなら、与えたダメージを加速させる方が賢い戦い方だろ。
「霧外流、移流霧!」
斜めの斬撃を傷口にぶつける。
「ビンゴ」
ここなら俺もダメージを与えられる。
一体のお前なら、簡単に二人の対処は出来ないだろう。
それだけじゃない。
攻撃を受け止めてくれるタンクだっていんだよ。こっちにはな。
『ぐおおおおおおお!』
「腹に響くな」
大剣が黒く染まる。
今度は何をする気だ?
警戒心を高めて観察していると、剣士メイドに向かって大剣を振り下ろした。
特に目立った何かがある訳ではなかったが、その一撃で剣士メイドが死んだ。
「純粋な攻撃力アップか。厄介な」
モンスターは役割外のところがとことん弱い。
剣士メイドは耐久力はあまりない。それが見切られたのは厄介だ。
逆に、防御メイドは攻撃力が乏しい。魔法を使うモンスターに物理は気にしちゃいけない。
カイネ達は範囲殲滅型のモンスターであり、単体相手には弱い。
何よりもアイツは知能が高い。
魔法士を優先して狙う。
実際、今も俺よりもバッファーを倒す事に集中している。
舐められたモノだ。
「こちとら二刀流も可能なんだよ」
刀をもう一本取り出し、バフを使えるモンスターを追加した。
増幅したバフにより俺の速度は上がり、一瞬で背後に回り込める。
「陰式二刀流、影爪」
クロス斬りで深手を与える。
流れ込むような拳が横から来る。
「それは怖いっての!」
刀を使って受け流す。
「デバフだ!」
今回召喚したバッファーはただのバッファーじゃかい。
デバフも使える。
そのデバフは相手の防御力を下げるモノだ。
今の状態なら、お前の通常の肉体からでも俺はダメージを与えられるだろ?
『ぐおおおお!』
「パンチ系のスキルも想定済みだっての!」
拳にオーラを纏い、直接俺を殴らずに地面を殴る。
その動作が意味するのは⋯⋯地面からの突起物だよな!
「そんなんが意味あると思ってんのか!」
打ち砕いて着地する。
自分が生成した物だろうに、それを破壊しながら直進で突進してきやがった。
「守れ!」
「あい!」
防御メイドが間に入り突進を防ぐ。その間に背後に回る。
「とっ」
スライドステップで横に動き、大剣を避ける。
流石に学習するか。
『ぐおおおお!』
「やべ、避けろ!」
「え? うぐっ」
防御メイドの機動力は守る時に対しては素早い、だけど回避になると遅い。
防御メイドが光の粒子となって散っていく。
結構攻撃受けてたからな、流石に限界だったのだろう。
だけど、おかげで水着のバッファーは生き残っている。
良い活躍はしてくれている。
「デバフがある内に畳み掛ける。『一級銃士メイド』召喚!」
「総射撃を開始する」
二丁の機関銃が高速で紫色の閃光を連射する。
ミノタウロスさんも防戦一方であり、大剣を盾に防ぐのが精一杯らしい。
「あの大剣硬い」
「まぁだけど、隙は大きく生まれた!」
俺はミノタウロスの横に移動して刀を構える。
ミノタウロスは大剣を地面に埋め込み盾のまま放置、拳にオーラを纏い俺を殴る。
ぐにゃりと歪んだ俺に殴った感覚は無かっただろう。
「俺がお前の横に回った時点で認識出来て無かったんだよ」
『⋯⋯ッ!』
霧外流、蜃気楼だ。
背後に回って狙うのは相手の目だ。
「そらよ! 陰式二刀流、影爪!」
『ぐぉぉおおおおおお』
「チャンス」
片目を潰した。
銃士メイドがミノタウロスの死角に移動して機関銃を連射する。
大量のダメージエフェクトを散らす。
すぐに大剣を手に持ち防御しようとするが、それを許す程俺も間抜けではない。
手を伸ばしたその腕を攻撃する。
切り裂けないのは最初からわかっている。
俺の狙いは大剣を握らせない事だ。
お前の力は怖いからな。
「そんじゃ、よろしく頼むぜ!」
「任せて主人」
俺は大剣の上の部分を蹴飛ばして抜き取り、刀を鞘に収めて遠くに引っ張っていく。
追いかけて来そうなミノタウロスだが、メイドがそれを許さない。
『ぐおおおおおおおお!』
「わぉ」
地面を剥がして盾にしやがった。
ん? 突進の体勢?
なんでわざわざメイドの方に突進の体勢をしているんだ?
まさか⋯⋯銃弾の雨の中を突き進むつもりか?
躱されるとか考えないのかよ。そのくらいの知能はあるだろ?
もしかして、片目を潰した時に移動したメイドのスピードを見てたのか?
躱される事が無いと思ったから向かうのか?
だが、防御は⋯⋯おいおいまさかアイツ。
「さっきまでの戦いの中でモンスターの『役割』を理解したのか?」
戦闘用や支援用のモンスターは耐久力がそこまでない事を見抜き、メイドの移動速度が遅い事を確認した。
厄介な存在は先に処理するミノタウロスの習性。
「Tランクダンジョンのボスにしちゃあ強くないかね?」
まぁ平均を知らんからなんとも言えんけど。
ただ、俺の予測が正しかったかのようにミノタウロスは銃士メイドを突進で倒した。
しかも、その勢いを利用してデバフを担当してくれているモンスターまで倒そうとしやがる。
「さすがにそれは許容出来んって!」
一級のバフやデバフモンスターは数が少ないんだ。
下手に減らしたくないんだよこっちはな!
「倒されると分かっているなら、次の準備は出来んだよ! 『一級:防御マグロ』召喚!」
懐に用意していたモンスターカードを取り出して召喚する。
そこそこ大きめなマグロがその身を使ってミノタウロスからデバフ役モンスターを守る。
「〈切り身〉だ!」
マグロは自らの肉体を捌いて、マグロの魚群を生成する。
水の無い場所でも遊泳するマグロ達は高速でミノタウロスを包み込み動く。
そのスピードはミノタウロスの肉体を削る。
このマグロの強さはもう一つある。
それは本体が頭部である事だ。
肉体がバラバラとなり小さなマグロ(一メールくらい)は一種の分身体。
本体であるマグロの頭部を破壊しない限り消えはしない。
防御用のモンスターでありながら攻撃も可能とするモンスターだ。
最初の一撃が強ければ強い程、この魚群は強くなるカウンター型ではある。
『ぐおおおおおお!』
「剣士メイドが深手を負わせ、俺が抉った。片目も抉った。銃士メイドに大ダメージを浴びせられた。大剣も無い、強化系スキルも長くは持たない。当然、その魚群にもバフはある。沈め」
二分後、光の粒子となりブラックミノタウロスは消えた。
残ったのは宝箱と、スマホの『クエスト達成』の通知である。
スマホからクエスト報酬は受け取れるらしい。
「さーて、宝箱の中身は何かな」
と、その前にメアを降ろさないと。
「う、うあああああああああああ!」
「え」
聞こえたのは、メアの絶叫。
見えたのは、頭を抱えて落下するメアだった。
お読み下さりありがとうございます!
3章部に入ってから人気が下がっている今作品の作者です。
仕方ないんですけどね。やっている事が既にタイトル関係ないので⋯⋯
それでも最後まで読んでいただけると嬉しいです!