73.ブラックミノタウロス
「ってのがダンジョンであったんだよ」
モンスターカードのモンスターが感情的な部分を見せたのは、正直どうでも良いので愛梨には話さなかった。
今回話したのは、メアが背中から蜘蛛の脚を出したところだ。
アバターでスキルなら、普通に有り得るだと冷静に考えたら分かる。
自分を獣のようにするスキルは実際問題存在はする。
「問題は、そのスキルが強すぎて辻褄が合わない事だよな」
「そうだね。そんなスキルがあるなら過剰にモンスターに怯える必要は無い。つまり、メアちゃんはその事に気づいていない」
俺は顔を前に倒して肯定する。
ステータスを見せて貰ったが、それらしいスキルは無かった。
寧ろ、不自然な程にスキルが何も無かった。才能系のスキルも無かったのだ。
ギルマスの鑑定結果と良い、色々と不自然だ。
まだ情報が少ない。
「メアについて探るのも良いんだけど、情報をどうやって手に入れるか⋯⋯考えものだ」
視聴者から得られる情報でメアに反応するモノは無かった。可愛いとかそんな感じのしか。
ネットニュースで色々と言われている程度。
俺と同じような状態に陥っている存在が居るなら、少しばかり反応して良いと思う。
だけど、そんな様子はネットには出て来ない。
「その後の様子でメアに変わった点は無いな。企画ライブで、見せたエンチャント⋯⋯あれも詳細は不明」
「そうだね。分からない事がいっぱい。私は質問券を使ったら、弾かれたしさ」
「わざわざ自分のを、使おうとしたのか?」
「うん。特に神に聞きたい事ってないし⋯⋯聞きたい事もプライベート過ぎて弾かれたし、今回は理由無く弾かれた」
おい、何に使おうとしたのかすごい気になるじゃないか。
誰かのプライベートでも聞きたかったのかな?
分からん。好きな人とか? 無いか。
愛梨に好きな芸能人って居たっけか?
ま、良いや。
メアがそろそろ風呂から上がる頃だろうし、この話は終わらせる。
翌日は早朝から前回と同じダンジョンに向かって出発した。
最速で昨日と同じ所まで向かって、先に進む。
もちろん、メイを使ってメイドも大量に召喚し、護衛も用意している。
昨日のサネミ、カイネと移動用モンスターだ。
移動用のモンスターにメイを乗せようとしたが、難しかった。
乗せても、スピードを出し過ぎると落ちる。そして死ぬ。
あるいはその風圧で死ぬ。
「また召喚されて嬉しい」
「⋯⋯うん」
死なたい⋯⋯じゃないのか?
もしかして、打ち解けたのか? モンスターは召喚されて無い間にも何かあるのか?
それとも、純粋に同じ意見じゃない?
どうでも良いな。
「メア、昨日みたいな危険な事には絶対しないからな」
「りょ!」
それから数時間の移動の末、ようやくたどり着いた。
ボス部屋だ。
だが、少しだけ厄介事になった。
それは、先に挑戦しようとしている探索者が居た事だ。
ボスの討伐はダンジョンの完全攻略を意味する。
それを成すのは誰でも良く、ルールに縛られている訳では無い。
早い者勝ちだ。
ここは俺が身を引くべきだな。
「ん? な、あれ日陰じゃね?」
「うわ、まじだ。めっちゃメイド居るやん」
今の俺は複数人のメイド達も護衛につけている。
まじで昨日のような事には成りたくない。
「お⋯⋯私の事を知ってるんだね」
「もちろんですよ! あ、チャンネル登録90万人おめでとうございます!」
「あ、ありがとう」
もうそんなに行ってたのか?
気づいて無かった。
教えてくれてありがとう。
「もしかしてここの攻略ですか?」
「え、ええ。そのつもりだったけど、貴方達の方が早く来ているので、下がります。頑張ってください」
パーティで集まって会話をしだす。
何かここで、モンスターカードをくれるなら譲ってやる⋯⋯って流れになるのは嫌だな〜。
すごくめんどくさい。
逃げたいけど、なんか俺の事で話し合っているみたいだから逃げれない。
早く終わらないかな?
「日陰さん」
数分で終わり、俺にリーダーさんが話しかけて来る。
「このボスはお譲りしますよ」
「え、良いんですか? 条件とかは⋯⋯」
「もちろんあります。それは⋯⋯」
ご、ごくり。
「俺達と写真お願いします!」
「⋯⋯そ、そんな事で良いんですか?」
「プールでの写真見ました! めちゃくちゃ羨ましいなってずっと思ってたんですよ! SNSには載せません! 俺らの宝にしたいんです! だから、どうか!」
み、みんなに頭を下げられる。
ん〜それなら別に良いか。
写真撮影に一時間の時間を奪われた。尚、一枚だけしか撮ってない。
角度とか明るさとか、めっちゃくちゃこだわってくれた。
おかげで時間を凄い奪われたよ。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそです!」
俺はドアを押して中に入る。
ボス部屋に入ると、召喚していたモンスターは姿を消して、戻って来る。
メアが中に入ると、扉は閉まる。
ボワっと壁に等間隔で設置してあった松明に光が灯る。
中心に魔法陣が出現し、中からミノタウロスが大剣と共に出現する。
『うおおおおおおおおおお!』
「ぐっ、重い」
ミノタウロスの叫び声が俺達にのしかかる。
「ブラック、ミノタウロスか」
ボスエネミーの上にそう表示されていた。ありがたいね。
名前が分かったからって何かが変わる訳じゃないけどさ。
「『三級:アルゲンタヴィス』召喚! メア、上で待機しとけ」
「うん! 頑張って!」
「もちろん、負けるつもりは無いね」
あの咆哮だったらメイを倒せるだろう。
メイを使った数のゴリ押しは難しいな。ボス部屋のサイズ的に海王も無理。
シークレットモンスターは使えないか。
刀を抜いて接近する。
ミノタウロスの特徴は尋常じゃない耐久力と馬鹿力だ。
受け流そうとしたら押し切られる、なんて事もあるかもしれない。
いつもと変わらない。
結局は攻撃を躱して反撃でダメージを与えて行く。
俺が戦うとなると魔法は使いにくい。
サネミ達は今回召喚しないでおこう。
「『一級支援メイド』二体、『一級回復メイド』召喚!」
俺に攻撃と敏捷のバフが掛けられる。
ミノタウロスの間合いに入るが、まだ俺の間合いじゃないから踏み込む。
単純な力でのぶん回しを僅かな動作で避けて、反撃の刃を通す。
「お、おいおい。こちとら一バフ積んでんだぞ?」
全く刃が入らないじゃないか。
そりゃあ無いぜ。
『ぐおおおおおおおおお!』
「嫌な感じしかしないね、うん」
俺は逃げる。
ミノタウロスの大剣が鋼色から紅く染まり、俺に向かって横薙ぎに払う。
斬撃が飛来する。
良いな、かっこいいな、欲しいな、とかは少ししか思う余裕が無い程に速かった。
壁までは間に合わない。
「だったら」
跳ぶ。
それだけで斬撃は回避⋯⋯っ!
「うわあああ!」
斬撃の上を跳んだら、残っていた衝撃波に体が包み込まれ、天井近くまで吹き飛んだ。
落下に合わせて受身を取ったが、綺麗な着地とは言えない。
『ぐおおおおおお!』
「ボスの戦闘能力が規格外過ぎるっての!」
振り下ろされる大剣を受け流す⋯⋯腕に衝撃がっ!
急いでバックステップ。
「〈ハイパーヒーリング〉」
「助かる」
衝撃で麻痺った腕が完全に回復し、意識がクリアになる。
回復メイドが入れば、何時間だって戦える。
『⋯⋯』
「ん?」
動きが止まった?
地面を抉って、それを野球選手のようなフォームで、投げる。
え、投げた?
「まさか⋯⋯」
そのスピードは異次元、俺に放たれたなら避けられた。
だけど、狙いは俺じゃない。
「嘘やろ、知能も高いのかよ」
回復メイドは一撃でやられた。
しかも、近くに居たバフをくれるメイド二人もだ。
バフがあっても互角とは言えない戦いだったけど、再び窮地に立たされた。
「バフがないと戦えない⋯⋯一級モンスターで寄生プレイでもするかね?」
そんぐらいしないと厳しいかもしれない。
お読み下さりありがとうございます!




