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72.モンスタートラップに好かれた女(♂)

 「くそっ! 手数が足りない!」


 メアを戦闘用の水着モンスター二体で護らせている。

 そのせいで、処理するメンバーが一体しかいない。

 俺が一体のミノタウロスを倒すのに数分使うのが悪い。


 「ちくしょう。範囲攻撃のモンスターを出さないと⋯⋯」


 なんだってモンスタートラップを二回連続で踏まないといけないんだよ。

 ミノタウロスが五十体くらいこの場には存在する。


 広い空間にはモンスタートラップが多いから警戒していたのに、それでもこのザマか。

 トラップを見破るモンスターの重要性が分かるな。


 「広範囲⋯⋯でも、魔法は効果が薄いんだよ」


 ここに来て分かった事は、ミノタウロスは案外魔法への耐性が高いと言う事だった。

 数々の攻撃を避けながら反撃するのは、至難の業だ。


 メアを護りながらだから余計に辛い。


 「⋯⋯嘘、だろ」


 カチャリ、そんな音が俺の足元から鳴り響いた。

 それが示す事は単純だ。


 トラップの起動。


 「はは、冗談じゃねぇよ」


 ミノタウロスがさらに三十体追加された。

 モンスターのチェンジも出来てないのに、このままだと押し切られる。


 「メア、逃げるぞ!」


 「う、うん!」


 「しっかりモンスターに捕まってろ!」


 俺は移動用のモンスターに向かって突き進む。

 護衛役の一人が移動用のモンスターだ。


 殲滅力の高いモンスターは夏ガチャに少なかった。

 だけど、一体は傍に居るべきだった。


 「一級メイドもこれからは数人同行させるか」


 俺が飛び乗ろうとした瞬間だった、目の前に大きな拳が通過する。

 ギリギリでバックステップで回避した。


 ちくしょう。

 近づけない。

 数が多い。


 攻撃を避けるだけでも精一杯なのに、なんで、なんで俺はこうもトラップに好かれてんだよ。

 このままじゃ、護衛の方も押し切られるぞ。


 そう考えた瞬間だった。

 何かが弾ける音が聞こえたのは。


 「モンスターがっ」


 ついに、移動用のモンスター、メアを護る最後の要が突破された。

 まずい。


 このままじゃメアに攻撃される。

 エネミーはメアをしっかりと攻撃するって、リザードマンの時に見ている。

 護らないと。


 「⋯⋯そうだ、メア、ログアウトしろ!」


 「え、ろぐあうと? わ、わかんない。分かんないよ!」


 「データ世界から出た時、ダンジョンから出た時、同じ要領でやれば良い!」


 「⋯⋯どうやってやってたんだっけ?」


 「え?」


 それは俺の思考を止めるには十分の発言だった。

 ピンチで焦って、頭が真っ白になったのか?

 小中の時に何故かある日直のスピーチで、人目に立った時に現れるのと同じような感じで。


 ふざけんな。

 メアがダンジョンでやられたらどうなるかわかったもんじゃない。

 誰か、メアを護ってくれ。


 俺じゃ届かない。護れる程に強くない。

 モンスター⋯⋯召喚する時のタイムラグがあるせいで無理だ。


 ちくしょう。

 どうしたら良い!

 メア、逃げろ。まずは逃げろ。


 俺から離れろ、この広間から出ろ。

 ダンジョンから出てくれ、頼むから!


 「日向〜」


 助けを乞う目。


 「ぐぅ」


 俺の召喚したモンスターは既に壊滅している。

 数に押し負けた。


 誰でも良い。

 メアを護ってくれ。


 ミノタウロス、やめてくれ。

 メアにだけは、攻撃しないでくれ。


 「止めろおおおおおおおお!」


 刀を投擲する⋯⋯しかし、肩に当たって簡単に弾かれた。

 無慈悲にも、ミノタウロスの攻撃はメアを襲う。


 「いやあああああああ!」


 メアが叫び、ペンダントが光り出す。

 メアの背中から異様な物が伸びる。


 それは蜘蛛の脚のような物だった。

 ミノタウロスをいとも簡単に貫き、薙ぎ払うだけで数体のミノタウロスを同時に切断する。


 この破壊力は一級に匹敵する。


 「いや、それ以上の何かだ」


 一本の脚は役目を終えたかのようにメアの背中に戻って行き、メアは事切れたかのように倒れる。

 唖然としているミノタウロスの隙間を縫ってメアを回収する。


 「形成逆転と行こうか」


 同じ広間に三つもモンスタートラップを設置しやがって。

 これも神の仕業か?


 だとしたら許せねぇぞ。

 こんなんの、公式チートのような存在が居ないと突破出来んぞ。


 何はともあれ、スマホを操作する時間は出来た。

 お気に入り設定していたモンスターカードを取り出す。


 「もう十分絶望したさ。十倍返しと行こうか。召喚!」


 見た目は人間に近いモンスターを取り出す。

 水着関連のモンスターで最上位の存在は人間に近い見た目をする。


 『一級:龍人サネミ』『一級:龍人カイネ』『一級:タコ男V-MAXハココ』だ。


 「マスターの声、聞こえたよ。行くよ二人とも! この雑魚共をケチラース!」


 龍人とあるが、水龍がモデルなのか翼は生えてない。

 尻尾と角が特徴的だ。


 サネミはスク水であり、カイネはビキニ、ハココ⋯⋯タコ男はタコで隠している。肩から触手は伸びている。


 「姉さん、暑苦しい」


 「カイネは僕ちんの妹なのに消極的なのさ」


 二人の会話⋯⋯モンスターにもストーリーは存在するようだ。

 てか、そんな事よりもミノタウロスを倒して欲しい。


 メアが寝ているから安心出来ない。


 「マスターは不安になる必要は無いよ。こんな雑魚共、僕ちん達の敵じゃない。破滅の水底!」


 「大海の手」


 「水刃触!」


 大量の水が出現し、ミノタウロスを呑み込む。

 その水を使った大きな手が一気に潰して行き、タコ男はミノタウロスを込切れに切断して行く。


 一気に壁が見えない程に多かったミノタウロスが殲滅された。

 最初から、こいつらを召喚しておけばここまでの苦労は無かったんだ。


 だけど、その場合俺の熟練度が上がらない。

 俺が未熟のまま、レベルが上がっても強くなったとは言えない。

 難しいスキルだ。


 「助かった」


 「お礼なんて必要なーい!」


 「姉さんと意見が会うとか、死にたい」


 「そこまで!」


 タコ男は親指を上げてくれる。親指だと思われる触手。

 なんか、二級のタコ男を思い出す。⋯⋯あっちの方がまだ目に優しい見た目だな。


 タコ男って複数の種類が居るんだな。

 不思議だ。完全にネタモンスターだと思っていたのに、何かしらの物語があるのかもしれない。


 「メアが起きるまでここに居たい。護って欲しい」


 「問題なーい!」


 「⋯⋯死んでいい?」


 「また意見が被ったの! さすが姉妹だね!」


 タコ男が勝手に動き出した。

 そういや、こいつのスキルには〈罠回避〉と言うスキルがある。

 見つけ出す様なスキルじゃないのだが⋯⋯トラップを破壊しているな。


 ありがたい。


 「良かった。本当に気絶しているだけか」


 メアのあれはなんだったのか、あまり考えたくは無い。

 だけど、考えないといけないところまで来ているのかもしれない。

 今回の事を無かった事には出来ない。


 「愛梨と一緒に録画を見直すか」


 撮影権利を使って撮影していた。

 前のような事があっても問題ない様に。


 これがかなり便利で、自分の動きを見たりして反省会が出来たりする。

 そう考えると、リアルで使えても良いかもしれない。


 自分の動きを客観的にここまで精密には見れないからね。


 「くらえ、カイネ、僕ちんの最強無敵のウォーターカッターを!」


 「姉さん、かわいい妹に攻撃するの?」


 「ぐっ、わた⋯⋯ぼ、僕ちんの負けよ」


 「ふっ」


 なんだろうこの茶番は。

 つーか、サネミの一人称ってキャラ作りなの?

 今回初めて召喚するモンスターなのに、キャラ作りとかしてるんだ。


 なんか不思議な感情になるな。

 モンスター⋯⋯ガチャモンスターは普通とは違うのかもしれないな。


 かと言って、踏み込む勇気なんて俺にはないけど。


 「ん、ん〜」


 「め、メア! 大丈夫か!」


 「ひななにゃ?」


 「なんだよそれ。俺は日向だぞ」


 「メア、生きてる?」


 「ああ」


 混乱しているんだな。

 少したら治るだろう。

 今まだ、安静にしておくべきか。


 「怖かった」


 「ごめん。もう、こんな想いはさせないよ。ログアウトの方法、分かる?」


 「うん。出方分かるよ」


 「じゃあ、今日はもう辞めて、明日またやろっか。今日は休憩だ」


 家に帰るための時間も考えれば妥当かもしれない。

 そう言葉にすると、サネミとカイネが難しい顔をする。


 「行ってしまうのだな」


 「⋯⋯残念」


 「あーうん、そうだね。また機会があったら召喚するね」


 「マスターには同胞が多い。そんな機会は少ないだろうな」


 なんだ、この二人の反応は。

 今までのモンスターとは明らかに違うぞ。


 「待ってるからな? また、選んでくれる事を」


 「再びの自由を、⋯⋯死にたい」


 「ねぇ、わたしと意見が被っただけで死にたがるのなんなの!」


 俺は二人の発言に何も返せず、帰った。


 ⋯⋯モンスターは召喚される事を望んでいるのか?


 ん?

 愛梨からメッセージが。


 『早く帰ってこないと、晩御飯無くなるよ』


 「⋯⋯色々考えるところだったのに、どうでも良くなったな。神の考えとか、いくら考えても分かんねーし」


 「ん? そうだね!」

お読み下さりありがとうございます!

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