71.ミノタウロスにリベンジ
ダンジョンを最速で進んでいる。
移動用のモンスターは本当に便利である。
「メイド達がエネミーを片付けてくれてるから、楽に進めるな」
「トラップにも引っかからないしね」
「それは言わないの」
今回の移動モンスターはトラップを回避してくれるので、俺は安全に進める。
メイド達もマッピングをしてくれているので、早めにボス部屋は見つかるだろう。
これが日陰の本気である。
まぁただ、メイド達の動きが早すぎて、リスポーンするエネミーが出る訳なんだけどさ。
そう、今目の前に居るアイツみたいに。
「モンスター使えば瞬殺だけど、やっぱりリベンジマッチは必要だよね」
刀を抜き取り構える。
今回のダンジョンは俺が初めて入ったダンジョン同様、ミノタウロスがメインエネミーだ。
防御力の高いミノタウロス。
今の俺のレベルなら一体だけなら相手出来るはずだ。
行くぜ。
「頑張れ日向!」
「あちょ、不意打ちが!」
俺は基本的に不意打ちの先制攻撃をする。
正面からわざわざ戦う必要ないしね。
しかーし、メアの声によりミノタウロスが俺の存在に気づいた。
大きな斧を片手で持ち、こちらに向かって走って来る。
突進だ。
突進系は、ギリギリまで引き付けて、横にステップして躱す。
さらに刀を構えて、向かい来る拳を受け流して躱す。
「まじで突進だけなら、突進だけで終わらせてくれよ」
突進が外れたら拳の攻撃が飛んで来るって、本当に戦闘が上手い。
これでも下の方ってなんだから驚きだ。
Tより上のダンジョンモンスターを俺は一人で倒せるのか?
何はともあれ、今は前の雪辱を晴らす時。
「霧外流、蜃気楼」
相手の認識をバグらせ、背後に移動する。
霧外流は暗殺に使われていた流派だ。
『グオオオオオオ!』
「ガムシャラはアカン!」
蜃気楼はかなり集中力が必要なのだ。
ステップ、呼吸、歩行、様々な事に気を使わないといけないから。
分からなくなったからって、ガムシャラに武器を振るわれると回避する必要がある。
そうなると、蜃気楼は当然解ける。
蜃気楼の弱点と言うか、対策だな。
もっとスピードを上げられたら問題ないのだろうが、そこまでのスピードをレベルとスキル的に不可能だ。
スキルのレベルを金払って上げるのも、課金みたいで嫌だし。
いやまぁ、俺は課金に抵抗はないけど、スキルのレベル上げって高いんだよ。
「おっと」
ミノタウロスはパワーが強いから、押し潰す感覚で斧を振るって来る。
大振りなので、冷静に見極めたら当たる事は絶対に無い。
力が強すぎると受け流す際に反動が来るかもだから、余裕を持って回避しよう。
「日向、トラップに気をつけてね」
「つーか、メアよ。今の俺は日陰だっ!」
「素で話してるじゃんか」
雑談している暇は無さそうだな。
ミノタウロスがギアを上げて来た。
スピードはリザードマンの方がまだ上だけど、パワーと防御力が別格だ。
Tランクダンジョンでもミノタウロスって強い部類のモンスターなんか?
まぁ、人型なので、弱点は差程変わらないだろうけどさ。
「今っ!」
縦に振り下ろされたタイミングでミノタウロスの横を突っ切る。
そのまま壁をよじ登りバク転、相手の首を視界に捉える。
「速く、相手に認識させない程のスピードで⋯⋯狩る」
刀は鞘に収めている。
「霧外流抜刀術、移流霧!」
斜めに首を狙っての袈裟斬り。
綺麗に入った⋯⋯はずなんだけど。
「スキルエフェクトか」
要するに、ミノタウロスがスキルを使った。
防御力を上げる系のスキルで首を守って、俺の刃を押し留めたのだ。
「まずっ」
『ぐおおおおお!』
空中で停止していた俺に容赦なく拳が飛んで来る。
見た目よりも遥かに重圧を感じる拳だ。
だけど、力だけなら俺は受け流せる。
「ふっ」
受け流した勢いを利用して地面に着地する。
スキルエフェクトは消えたか。
スキルの再使用可能時間が存在するはずだろうから、今のうちに倒すべきだ。
俺にもスキルの技が欲しいな。
その方が火力が上がるし。
報酬に霧外流のスキルでもくれんかな。
「斬るがダメなら突く」
俺は低姿勢になる。
相手の首に狙いを定める。
向かって来るミノタウロス。
そのスピードはかなり速いと言うか、重みを感じる。
しかし、急所を守ってない。
それが狙い目だ。
「霧外流、滑昇霧」
低姿勢から一気に伸びる感覚を使って、突きを繰り出す。
気配を殺し、正面から突き出しているのにそれが分からない、そんな突きを繰り出す。
先端は少しだけミノタウロスの首にめり込んだ。
よしっ、行ける!
このまま押し込む!
『ッ!』
「ちぃ」
ミノタウロスの超反応で斧の薙が飛んで来る。
バックステップですぐさま回避。
「浅い。想像以上に浅い」
一瞬で先端をちょびっとミノタウロスにめり込ませただけなのかよ。
ダメージにもなってないよ、あれじゃ。
無駄にミノタウロスを怒らせただけかな?
怒りの力でパワーアップ⋯⋯なんて展開は無いよな?
『ぐおおおおおお!』
「あはは、あるよねー」
なんかそれっぽい見た目出しさ。
怒りの力だけパワーアップはずるくね?
俺がいくらブチ切れたも、力とかレベルとかは変わらないんだよ?
〈怒り〉的なスキルでも存在するのかね。
と、冷静に考えろ。
相手の動きを見極めて冷静に回避しろ。
スピードは上がってない。全然回避出来る。
だけど、ミノタウロスの攻撃で崩れなかったダンジョンに亀裂が入った。
上がったのは力か。
脳筋だな。
「脳筋だけど、案外理にかなってるんだよな」
ミノタウロスはリザードマン程の技術は存在しない。
つまり、それだけの知性と言うか知能が無いんだと思う。
色々と違う二種類のモンスターだけど、決定的な共通点がある。
それは──生命に関する本能だ。
生きたいと言う、生き物全般に言える根本的で当たり前の本能。
生存本能。
それはいくら怒りに呑まれようとも、消え去らない。
誰だって死を恐れる。
死を恐れない奴は⋯⋯強い。
死を恐れないと言う奴は自分が負ける事を微塵も考えちゃいない。
そういう奴は強い⋯⋯だけど、一度でも恐怖を感じたら格段に弱くなる。
思考が脱線した。
ミノタウロスの攻略方法。
今は怒りに呑まれて、ミノタウロスはそこまで知能の高いエネミーじゃない。
この二つを加味して糸口を見つけ出す。
「一撃で良い」
さっきの感覚で、ちゃんと決まったら倒せる。
防御力強化のスキルを使わなかった場合に限るけど。
いや、違うか。
俺らの使う流儀なら、そんなスキルを使わせるような『思考』や『本能』を発生させない。
気づいた時には死んでいる。
それが霧外流だ。
「来い」
ミノタウロスが突進して来る。
図体よりも大きく見える。
怯えるな。足よ、震えるな。
敵が人外だろうが、人型なら倒し方は分かっているはずだ。
既に勝利へのビジョンは見えている。
後はそれを完璧に再現するだけだ。
失敗はしない。
自信を持て。
今の俺のレベルは、システム的にもTランクに到達している。
「霧外流、水霧」
向かって来るミノタウロスにこちらからも肉薄する。
刃を上に向けて、速く、希薄のように、斬り上げろ。
ミノタウロス、お前の生存本能じゃこの刃は見抜けない。
『ぐおおおおお⋯⋯』
「リベンジ、完了だ」
拳を振り上げた状態でミノタウロスの首がずれ、落ちる。
メアの元に戻ると、「よくやった」と上から褒められた。
「どうだ、俺ちゃんかっこよかったろ」
「ん〜なんか人殺しみたいで怖かった!」
「そんな!」
それは昔の話で、家族共々そんな事はしてないよ。
⋯⋯してないよね?
「ちょっと父さん達に聞くか」
さすがに手を汚す事はしてないと思う。
思いたいんだけど⋯⋯してたとしても気づけない気がするんだよな。
いやいや、今は健全な剣道を教える場所だから。
家族を疑うのはやめよう。
メアを初めて見た時も、一緒に警察に行こうとしてくれたんだし。
⋯⋯なんか複雑だわ。
お読み下さりありがとうございます!
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