26.調子に乗り過ぎた
「クソがっ!」
芹沢に俺は蹴られた。
「荒れてんねー」
芹沢に嘲笑気味の声音で阿久津が話しかけた。
我妻も怒りを剥き出しにしながらも、自らは静観者のつもりらしい。
「なんでいきなり死なないといけないんだよ! クソがっ!」
昨日のイベントで即死を果たして、イベントを十分に楽しめなかったようだ。
その怒りを俺に対して暴力と言う形で発散している。
迷惑な話だ。
俺はこの時、愛梨との会話を思い出していた。
未来に進む為にも、一歩踏み出さないと。
でも、今はその時では無い。
何故か、反抗して、異世界データのアプリが入っているとバレてみろ、確実にPVPを挑まれる。
そしたら日陰の存在がバレてしまう。
声を変えられる装備を買わない限り、俺は誰かとPVPをする事が出来ない。
だから、今日は我慢だ。
そして放課後、家に帰る途中でそこそこのランクはあるダンジョンを目指す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
高速で走りながら愛梨が近寄って来た。
「なに?」
「なに? じゃないよ! なんで道場に向かってないの! 一緒に学ぶんじゃなかったの!」
「いや〜色々と準備しないとじゃん? だからさ、ダンジョンに行こうかと思って」
「わ、私も行くよ!」
「別に良いよ。もう、メイの存在は晒したんだし。助っ人も必要ない。パーティを組むとレベルが上がらないしね。配信者としての日陰も頑張るって決めたし、愛梨の助けはもう大丈夫だよ」
「私が大丈夫じゃないよ!」
「なんでだよ」
すると、モジモジしだしたので、放置してダンジョンに向かう。
登録者三十万人の配信者として相応しい存在になるのだ。
「Tランク、Uの一個上か。レベル的には良くないけど、なんとかなるだろ」
武器も強くなってるしね。
俺はダンジョンに入った。
「出て来るエネミーを把握したいけど、まずはメイを呼び出すか」
「ちょっと、なんで置いてくのよ!」
「来たのか」
「来るよ!」
メイを呼び出して、四級からの戦闘メイド達を呼び出した。
白龍と戦っていた時よりも当然数は多い。
「三百連の成果だな!」
「ほんとはそれ以上に引いてるけどね」
「いいのいいの」
こんだけのメイドを出して思ったのだが、流石に多すぎる。
四級は召喚解除する事に決めた。
ランクが上がる事にダンジョンの内部は広くなるけど、流石に多すぎる。
「メイの護衛に一級メイドを四人残して、一級メイドの一人は俺に同行、他は散開してエネミーを狩って。他の探索者の横取りはダメだからね」
「マスター命令実行」
俺は少し離れて、メイド一人が写るようにして、撮影権利を行使する。
「よし、今日は純粋にダンジョンを探索して宝箱を見つけたいと思います!」
お金ならモンスターカードを売った方が速い。
武器防具もTランクならショップで買った方が良い物が手に入る。
その分金もかかるが。
だけど宝箱を探すのは、撮影のネタだ。
愛梨が助っ人モードになったので、もう何も言うまい。
同行してくれるメイドは大きな手裏剣を念動力で扱うタイプだ。
広範囲を殲滅出来るのでかなり便利だが、今回は子守りとして使わせて貰う。
「そんじゃ、探すか!」
今更だが、Uでもかなり広いんだよな。
全力で狩っていたのにボス部屋を見つけられなかった。
広いとエネミーの数も多くなるし、仕方が無い。
さて、ボスの場所なんて分からないし興味もない。
今回の目的は宝箱である。
「宝箱を見つけるコツとかある?」
「⋯⋯」
分からないと言う風に首を横に振る。
⋯⋯おっと、いきなりの企画倒れか?
調べれる事もやぶさかでは無いが、ここは素人探索で探す事にしよう。
『マスター』
「ん? どうしたの?」
『差し出がましいとは思いますが、探索能力の優れたメイドを呼び出すのが楽かと思います』
「そうだけど。せっかくだから初心者っぽくやりたいしね。自力で探すさ」
「初心者、ねぇ」
愛梨の疑わしい目を気にせず進む。
初心者は初心者だ。
実際に俺は初心者だ。
左側の壁をずっと伝って行けばいずれ見つかるだろう。
それに、壁側を歩いていたらトラップに引っかかる心配もない。
「おっと、エネミーの登場か」
抜刀術の構えを取る。
敵はミノタウロス。
武器は片手斧か。
メイドが動こうとしたが制して、俺が前に出る。
俺自身が戦わないとなんの意味もない。
「いくか」
俺はミノタウロスに向かってスタートを切る。
レベル差かなんなのか、相手は俺の動きを完全に見えている。
「霧外流、蜃気楼」
気配を殺し、相手の認識をバグらせる。
相手の横に移動して刃を向け、振り下ろす。
「⋯⋯ッ!」
「ミノタウロスの皮はかなり硬いよ!」
「先に言って欲しかった」
俺の位置を素早く把握したいミノタウロスの反撃。
刀で防ぐが、あまり衝撃が消せずに吹き飛び、壁に衝突する。
「うぅ、さすがに自分が動くには速かったか?」
と言うか、メイに代理召喚させたメイド達が動いているはずなのに、レベルが上がった感がまるでない。
少し気になるな。
でも、今は集中しないと。
再び構えを取ると、カチリと足元から音が聞こえた。
この音は既に知っている。
落とし穴だ。
「残念だが、一度引っかかった罠はランクが上がっても引っかからない!」
刹那、俺の背後の壁が高速で修繕されて近寄って来た。
その速度は一般道路の法定速度を軽く超えている。
「かばっ」
予想外の不意打ちに俺はミノタウロスの足元に転がる。
これぞ初心者ムーブ。
って、言っている場合じゃない。まずい。
ミノタウロスの眼光が俺を向く。
体が動かない。
さっきの衝撃が全身を巡って、麻痺のデバフを与えて来たようだ。
あれ? 予想以上のピンチ?
推奨レベルとかなり低い俺だからか?
『グオオオオオ!』
「助け⋯⋯」
メイドが大きな手裏剣を動かしてミノタウロスを切断する。
あーダメだこれ。
俺早すぎた。ここに来るの。
もう一個下のUランクダンジョンでレベル上げだな。
つーか、メイド達はどうしてんのよ?
ログを確認する。
「うそん」
「どうしたの?」
「代理召喚したメイドがエネミーを倒したらポイントは手に入る。でも、ドロップアイテムと経験値が手に入らない」
「まぁ、仕方なく無い?」
なんでポイントは手に入るのに経験値とかが手に入らないんだよ!
これでは俺のレベルが上がらない。
「このメイドだけ代理召喚を解除して、俺が再び召喚⋯⋯それだと今度はメイのところに戻らないといけないのか」
うーん。
レベル上げはUランクダンジョンが一番かもしれない。
あそこもまだ一回戦が長引くけど、倒せない程じゃない。
「しゃーない。普通に宝箱を探すだけにしておくか」
モンスタートラップにだけは特に気をつけよう。
大量のエネミーが出現するモンスタートラップ、いつもならポイントの宝庫だけど、今回は命大事にだ。
そこからも何回かトラップに当たりながら、宝箱を発見した。
地味に初めての発見である。
どんな中身でも嬉しい気がする。
「ミミックか気になるから、開けてみてくれ」
『わかりました』
「手裏剣便利ね」
宝箱を開けたが、中からモンスターが出る気配はなかった。
なので、俺達は近づく。
「あ、そこの一つ色が違うところ、トラップ作動する⋯⋯」
「え?」
次に開くのは俺の足元である。
手裏剣が俺の下に来て、足場となり生還した。
「なんでこんなにもトラップに引っかかるの?」
「配信者魂、良いね」
「わざとじゃないだけに少し悲しいんだけど」
とりあえず中身の確認だ。
どれどれ。
こ、これは。
まじかよ!
こんな事ってあるのか?
嘘だと言ってくれよ。
「なんで、中身が空っぽなんだよ」
「うわー、最高のオチだね」
「ふざけんじゃねええええ!」
レベルも上がらない、俺ではモンスターも倒せない、推奨レベルは気にしよう!
家に帰ったら、ノーマルガチャを引いた。
ポイントだけは沢山手に入ったしね。
イベントガチャと違って、こっちは千ポイントで十連なので良心的だ。
イベントガチャは階級が上なの沢山出るけど。
「とりあえずこれでお金は稼げそうかな。にしても、代理召喚だとポイントしか手に入らないのか。結局手数は四か」
「それでも全部が一級って考えると、凄いからね?」
35億で売れたから、そこから考えると⋯⋯140億か。
確かにすごいな。
「いずれ国家予算行きそう」
「それを売ったらモンカドの価値暴落だね」
「自分の首を締めるようなマネはしないさ。なんで神は俺にこんなスキルを与えたんだろな?」
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