75.撤退します!
「ハァ、負けちまったか……誘いに気づかずに飛び込んだのは失敗だった」
地面に倒れたままのカーディが、敗因を口にする。負けたのに表情はすっきりしている。
「負けはしたが、前回のモヤモヤが晴れた気分だ。やはり再戦できて良かった」
「こちらこそ。これで悔いなく次に進めます。ありがとうございました」
妹の差し出した手をカーディが握る。そのまま立ち上がった。もう起き上がれるのか、回復速いな。
「しかし、久しぶりに全力を出せた!やはり気分がいいな」
「あの町長が相手なら、本気で戦っても問題ないのでは?むしろ加減なんてする余裕はなさそうですけど」
妹が町長とのバトルを推奨している。あの怒りモードを見ているから否定できん……。
「そうなんだが……あいつのおやじさんを全力で攻撃するのは躊躇するぜ。加減もできないから仕方なく逃げているけど、それがまたストレスになって……」
「なるほど、それらを解消する為に私に戦いを挑んだと……何故町長の下で働いているのです?」
「それは……」
「カーディ!!」
「ディア!?どうして……」
そこへ、一人の女性が走ってきた。あれは、人質になっていた町長の娘さんではないか。
名前はディアというのか、初めて聞いた。
「このままどこかに消えてしまうんじゃないか、と思って……あなたは、闘争に身を置く方が楽に見えるから……」
「……心配をかけてすまない。確かに、君の予想は正しい。俺は戦いから離れることはできない、だけど――」
不安そうにうつむくディアを、カーディが抱きしめる――俺達いるんだけど……。
「君と離れることも、できそうにない」
「カーディ……」
二人の顔が近づいて――我々は顔を背けた。空気の読める兄妹です。
「二人にしてあげましょう……兄さん、泣かないでくださいね」
「どうして泣かなきゃならないんだ!?お前こそ寂しそうだぞ!」
「どこがですか!?人を貶めるのはやめてください!」
「お前にだけは言われたくないんだけど!?」
いつか妹にもああいう相手が――いや、無理だなこいつの本性じゃあイテテテテ!
しまった、心を読まれたか!




