7.初勝利
「………!?」
「なるほど、これが魔法ですか…」
「受け止めている!?本当に魔法にまで干渉できるのか!?」
妹が両手で火球を受け止めて、何やら感覚を確認している。闘気の力は魔法にも対抗できる事がこれで証明された。本当にチートだなこれ。運営が誤解するわけだ。
魔法を放った敵は驚愕している。そりゃスキルも魔法も使わずに素手で止められるなんて思うまい。
「では、お返しします!」
「「え?」」
敵の声と重なってしまった。返すってまさか…。
「エイッ!!」
可愛い掛け声で火球を押し出した。まるで魔法の反射ではないか!
「ま、不味い!?これは…ぐあああああ!!」
「え!?」
「何故!?」
ダメージ受けている!?攻撃は効かないのでは!?
「あ、もしかして自分の放った魔法だからか!?」
相手の攻撃ではなく自身の攻撃だから無効化できなかったのか!なんということだ…。耐え切れば勝ちだったけど、この場合どうなるんだろう?
「あ、戦闘終了、とメッセージが出ました!何か貰えたみたいです!」
「おお、そうか!初勝利おめでとう!!」
「ありがとうございます!でも…」
喜びから一転、何かに気づいたのか妹の表情が曇る。
「消滅してしまいましたが、これは……」
「あ、問題ないよ。こういうのは本体は別にいて分身体が消えたようなものだと考えればいい。この仮想世界から消滅したわけじゃないから心配するな」
「そうですか…良かった…」
予想が外れてほっとしている。勝利は嬉しいけど二度と生き返りませんじゃ後味が悪いもんな。
「しかし最後はあっさり終わってしまいましたね。会話があると思っていたんですが…」
「倒しちゃったからなぁ。相手の攻撃は無効化できても自分のは無理だったみたいだ…倒すつもりで返したわけではないんだろう?」
「もちろんです!こちらもびっくりしましたよ!」
妹本人が一番驚いていたようだ。それまでの攻撃がひとつも効いていなかったのだから無理もない。
「それで、どういう報酬が貰えたんだ?」
「そうでした!確認しますね……経験値とスキルを入手したみたいですが、この性能は…」
何やら困惑している。わかりやすく高性能なスキルではないのか?
「見て下さい。これ使う機会ありますか?」
「どれどれ…こ、これは…」
【プレイ時間を増やして出直して来い!】
この世界に存在していた時間が一定以下の者の攻撃を無効化する。
「何だこれ……一応聞くけど、初心者狩りなんてしたくないだろう?」
「当たり前じゃないですか!あんなに苦労してこんな限定的なスキルだなんて…」
「まあゲームあるあるだな」
負けてもストーリーは進むのに必死に戦って勝ったらゲームオーバーになったりその後の会話内容が違うだけだったり、死ぬ筈のキャラを助けても結局その後出てくる事がなかったり、最高の成績でエンディングに到達しても特に何も起きなかったりその他たくさん。当時は落ち込んだりやる気がなくなったりしたけど今ではいい思い出だ…。
「でもその不思議な力、闘気?はうまく扱えていたし、色々わかったこともあったんじゃないか?」
「そうですね、初戦でここまでコントロールできるようになるとは思いませんでしたし戦っていると使い方や効果が本能的に理解できている確信がありました。速さや防御、攻撃力はともかく魔法にも干渉できたのには驚いています。そしてできる事は今後も増えていく予感がします」
「本当にどうなっているんだろうな…そういえば何で闘気って呼び始めたんだ?」
「私の闘争心に反応しているようなので闘気かな、と。すごくしっくりきます。ふぅ…」
妹は実に清々しい表情だ。長年よくわからなかった謎の力が解明されてきてスッキリしたのだろう。僕も嬉しい。しかし、少し疲れているようにも見える。
「大丈夫か?色々予想外の事ばかりで疲れたんじゃないか?一旦ログアウトするか?」
「いえ、ログアウトする程ではありません。まだ一度だけしか戦っていませんし。少し休息をとれば問題ありません」
「そうか、じゃあ町に戻って飲食系の店で休憩しよう」
「いいですね。仮想世界の食べ物にも興味がありますし」
期待を裏切らないとは思うが食べてみてのお楽しみにしておこう。