57.こんな人間は存在しないと言いたかったのに……
「その傷はどうした!?まさか敵の襲撃……援軍が必要な事態か!?」
「い、いや違う!大きい声を出さないでくれ、ボスに見つかっちまう……」
「ハァ?いったい何があったんだ!?お前、例の人質の見張りについていたんじゃないのか?」
「じ、実は……」
駆け寄った見張りの男とけがをした男はやはり仲間のようだ。敵襲と援軍の要請かと思ったら、否定されて困惑している。
けが人が事情を説明する。内容はボス達が話していたことを少し詳しくしたものだった。うーん、なかなか居場所について口に出さないなぁ。
「バカヤロウ、何やってんだよ!!ボスは手を出すなと『命令』しただろうが!殺されたいのか!」
「俺は殴られて飛んで来た奴に巻き込まれただけだ、何もしてねえよ!」
「止めることもしなかった、と?」
「あの人数差で止められるわけないだろう!?」
ハァ、と見張りの男がため息をつく。呆れて何も言えないようだ。
「あの護衛の男は、かつてうちと同規模の犯罪組織を一人で壊滅させたこともあるんだ。噂では敵の数が多い程能力が増加するスキルを所持しているらしいぞ。それにナイフの達人だが、素手の相手には素手で戦うスタイルだそうだ。つまり一対一で武器を使わずに挑むのが有効というわけだ」
おお、かなり詳しい護衛の情報が入手できた!妹との相性は良さそうだ。
しかし物知りな見張りだな、もっと情報を入手できるか?
「な、何だそりゃ!?それを知ってたら……あれ?幹部の人達はそのこと知ってたんだよな?」
「俺が知っているくらいだからな、それがどうかしたか?」
「いや、幹部達は全員、武器持って直属の部下たちと襲いかかっていたから……」
「…………」
見張りの男は言葉が出ないようだ、無理もない。
信じがたい話だが、どうやら幹部含めた見張り全員が護衛として雇った男、たった一人に倒されて意識が戻らないらしい……なんて組織だ。
『有力な情報を入手しました。一部の敵が退場します』
アナウンスが流れた。さっきまで体力減少だったのに、退場になったよ。これ一部というか、ほとんどの敵じゃないか?
これはいくら何でも……。
「幹部の立場なのにここまで感情的かつ短絡的なものかねぇ……」
「最近の現実世界の某指導者達と比較すれば違和感はないのでは?」
「…………」
全く否定できない。仮想世界のNPCよりも現実世界の人間の方が人としておかしく感じるなんて……これ以上考えないほうがいいな、落ち込みそうだ。
男達の会話はまだ続いている。
「わかった。俺だけでもこれからアジトに向かうから、お前は手当をしてから来いよ」
「す、すまねぇ。場所は2番のアジトだ。わかるよな?」
「ああ」
見張りの男が走り出した。こいつを尾行すれば!




