3.予想外のトラブル
「それは、目には見えない不思議な力、という認識でいいのか?」
「そうですね、私も完全に理解しているわけではなく便宜上そう呼んでいるだけですし…ごめんなさい、今まで黙ってて…」
「よし、わかった」
え、と妹が目を丸くする。何を驚いているんだ?
「それだけですか?危険な力かもしれないのに…」
「俺だってそんな力があっても誰にも言わないだろうし、話してもらっても何も力になれなかったと思う。おまえがどういう奴かってことはよーく知っているんだ、気にするな。もちろん話したくなったら喜んで聞くけどな」
「兄さん…ありがとうございます」
少々照れ臭くなってしまったので、咳払いしつつ続きを聞く。
「それで、具体的に何があったんだ?」
「はい、アバターを動かそうとしたら気の力まで再現されていて驚いたんです。同時にこの仮想世界なら本気で動いても問題ないのでは、と浮かれてしまって全力で動いたら…」
「ありえないはずの動きにチートを疑われてしまった、と」
「はい…」
妹が無念そうな顔でうなずいた。見えない力まで再現されているこの仮想世界に驚くばかりだが、それを運営は認識できなかった、そんな事があるのだろうか。
このトラエラインは複数のAIによって管理・運営されているという話だが、バグやエラーの話は全く聞いた事がないし、遭遇したこともない。そんな運営が…
しかし、妹がここにいるということは。
「不正の疑いは晴れたんだよな?」
「はい。騒ぎになった後、精密調査をしますお待ち下さい。というメッセージが届きました。強制ログアウトも覚悟していましたが、しばらくすると老人の姿をしたNPCが現れたんです」
運営AIのアバターだろうか。
「御老人から、こちらの不手際で大変不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ない。という内容のAIとは思えない心のこもった謝罪があり、冤罪と長く待たせてしまったお詫びの特典と能力認定証明書を頂きました」
「能力認定証明書!?実在したんだ…」
能力認定証明書とは、高い能力を持つが故にチートを疑われてしまうプレイヤーの為に、運営が何重にも厳しく調査して不正でない事を確認しましたよ、という証明書であったはず。そういうものがあると聞いた事はあったが、実際に貰った人っているのか?
「でも、私は力を抑えてプレイした方がいいのではないか?そう思っていたら、その方は、最後にこう言っていました」
『能力を抑える必要はありません。思う存分暴れて、この世界を楽しんでください』