15.ハグハグ
「は、離して下さい!?ちょ、そこに顔は………ッ!」
「絶対に離しません!ムグググ!」
妹はファーレインに抱き付いてその豊満な胸に顔を埋めていた………。
いや何の小説の一文だよ!?何だこれは、どういう状況なんだ!?
いつの間にか魔法の雨も矢も消えている。やはり攻撃を当てる、もしくはダメージを与える事が継続を止める条件だったのだろう。
お互いにダメージを受けているようだが、妹の方が明らかにボロボロだ。それでも必死にしがみ付いてファーレインを逃がさないようにしている。しかしこれは……。
女性同士だからともかく、男性のアバターがもし彼女にやったら間違いなく警告、もしくは即強制ログアウトでもおかしくない密着状態だぞ!?
このまま続けても大丈夫なのか!?強制終了で敗北とか誰も望んでいないぞ!
「おい、かなりギリギリな光景に見えるんだが、そっちには警告メッセージ出てないのか!?」
「い、いえこちらは…ってどういう目で見ているんですか!?私が必死に戦っているのに!!」
「違うって!?倫理規則に抵触すると強制終了されるかもしれないんだ、そうだろう!?」
「せ、戦闘中であればある程度抵触しません!同性同士ですし……長時間になると危ないかもしれませんが……え、撮影はいいのかですって!?止めて下さい!!」
「そんな事聞いてないだろう!?」
ファーレインが抵抗しながらも答えてくれた。律儀なエルフだな、余計な事まで言っていたがそんな余裕あるのか?
足が地面に付かないよう浮かせつつ、両腕も一緒に抑え込んで絶対に離さないと鬼気迫る表情だ!そんなに力入れたら折れて…………あれ?
「もしかして………ベアハッグ!?何で!?」
「これしか方法がないからに決まっているじゃないですか!?好きでこんな事しませんよ、兄さんじゃあるまいし!」
「ま、まさか絞め技とは!?それにこの力は………!」
とんでもない事を言われた気がするが無視しよう……俺は紳士なので視線を外した。耳も塞いでおこう……。
しかし考えてみたら一理ある。近づく事はできてもすぐに逃げられてしまう相手に対して動きを封じつつ継続してダメージを与えるこの技は最適。問題は力の差だが………。
「は、外せない………少しずつだけどダメージが………何とかしないと……!」
「これが外れたらおそらく私の負け……故に全てを出し切ります!フンッ!フンッ!フンッ!」
「ちょ、その掛け声とリズムは反則ですよ!?わ、笑って力が……イタタタタッ!?」
「もう形振り構ってないな……それだけ勝ちたいのか……」
こうなったら我慢比べか。力尽きるか、耐え抜くか………ファーレインの方がまだ余力がありそうだけど………。
ゴゴゴゴゴゴゴ―――
ん?この音は………上か!?
「空からあんなに隕石が!?魔法か!?」
無数の隕石がここに落ちてきている!状況から彼女の攻撃で間違いないが……まさかあの状態で発動できるのか!?
「【終わりの流星雨】…最後の切り札です。樹海を消滅させて私自身にも大ダメージが入りますが……相手に与えるダメージは絶大、回避不能、加えて即死効果を含めた状態異常多数付加……正直、これを使う程追い詰められるとは思いませんでした、マイ様……」
「く、間に合わない!……後はもう……」
「ここまで、なのか………」
体力はかなり減らしているが、とても倒す事はできそうにない。闘気を全て防御に回したら間違いなく技を外されるし…………だがあの表情はまだ諦めていない。何かあるのか!?……
ドンッ!ボンッ!バァンッ!バゴオオオオオオンッ!!
凄まじい音と閃光が辺りを覆う…………長い…………ようやく晴れてきた……妹は……え!?
「良かった……まだ時間は過ぎていなかったようですね……」
「どうして……!?」
「生きている!?それもダメージが入っていない!?何故!?」
どういう事だ!?妹にダメージはなく、むしろファーレインの方が大きく弱っている!?
どうやらこうなる可能性を予測していたようだが………時間は過ぎていなかった?………まさか……。
―――この世界に存在していた時間が一定以下の者の攻撃を無効化する
―――出現したのは今日が初めてですが
―――弾いた!?……ダメージもない?守りの補正は攻撃以上?
まさか…………スキルの効果で初めからダメージは入っていなかった!?
体当たりからの障害物激突と落下ダメージはファーレインの攻撃ではないから入ったとして……わざと動かずに防御しているように見せて、攻撃が無効化されている事に気づかせなかったのか!?なんて奴だ!
気づいたのはトレーニングの時か!ファーレインの攻撃を受けた時にスキルが発動していたんだろう。
それからずっと悟られないように振る舞っていたんだ!完全に騙された!!
「これでトドメですっ!エイッ!エイッ!エイッ!」
「お、お願いだから顔を擦り付けないで……イヤアアアァァ!」
「俺は何も見ていないし聞いていないぞ、紳士だからな!」
最後はさば折りとは……それでいいのか妹よ……。




