「僕が欲しかったぬいぐるみ」
❅このお話は「冬の童話祭2023」参加作品です。
「こんなの、要らないっ!」
ぽーんとゆうくんはそのぬいぐるみをお外に放り出しました。
「こらっ! ゆうくん!」
「だってだって。僕はカッコイイ怪獣の人形が欲しかったんだい!」
ゆうくんは自分のお部屋の扉を乱暴にバタン! と大きな音を立てて閉めました。
一体何がゆうくんにあったかと言うと。
それはクリスマスの日、つまり今日の朝。
ゆうくんはクリスマスプレゼントをそれはそれは楽しみにして、元気に
「おはよう!」
と珍しく誰も起こしに行かないのに一人で起きられたんです。
ゆうくんはそれをとても自慢しました。
そして、
「お父さん、プレゼント! プレゼント!」
とねだりました。
お父さんは笑って言います。
「夜まで待ちなさい。みんなでクリスマスパーティをするから」
「ちぇー」
ゆうくんはほっぺたを膨らませました。
それからのゆうくんは妹のきいちゃんのお世話をしたり、とっても良い子にしていました。
そうして夜。
ゆうくんのお父さん、お母さん、おばあちゃん、おじいちゃんが揃ってクリスマスパーティです。
美味しい料理にケーキ。
ゆうくんはとっても嬉しそう。
赤ちゃんのきいちゃんもきゃはは、と笑っています。
みんなが笑顔でした。
そして。
ゆうくんが段々うずうずしていると。
「さあて、みんなお待ちかね。プレゼントの時間だよ」
お父さんが言いました。
「やったー!」
思わずゆうくんは飛び跳ねます。
まずはおじいちゃんとおばあちゃんから、ヘリコプターのおもちゃを貰いました。
次はお父さんとお母さんから。
ゆうくんは二人に「カッコイイ怪獣の人形が欲しい」と頼んでありました。
「ゆうくん。メリークリスマス」
「開けてごらん」
わくわくしたゆうくんが包みを開けてみると。
「……なんで」
出てきたのは抱えられるくらいのティディベアでした。
「きいちゃんとおんなじのにしたの」
「きいちゃんは女の子のティディベアだよ。ゆうくん、どうしたの?」
説明をするお母さんとお父さんが黙ってしまったゆうくんを心配そうに見ました。
ふるふるとゆうくんは震えていました。
そして顔をあげると、
「僕、怪獣の人形がいいって言ったよね!」
と大きな声で言いました。
お父さんとお母さんは顔を見合わせます。
「きいちゃんとおんなじのにしたかったの」
「ゆうくんとおんなじなの」
「嫌だい! そんなの嫌だい! 僕は怪獣がよかったのに!」
そしてティディベアを持つと、
「こんなの、要らないっ!」
そう言ってしまったのが、最初のお話ですね。
怒られたゆうくんは泣いてベッドに潜り込んで、わあわあ泣きました。
なんできいちゃんとおんなじのにしたのでしょう。
お父さんとお母さんなんか嫌い! と泣きました。
泣いていて、ゆうくんはそのまま寝てしまいました。
すると、ゆうくんの夢の中でも誰かが泣いていました。
えーん、えーんと大きな声で。
それはとても悲しそうに。
「泣いているのはだあれ?」
ゆうくんは言いました。
何だか、その泣き声はとても胸が痛くなるのです。
「ゆうくんに捨てられちゃったー! 寂しいよー!」
どきりとゆうくんはしました。
そしてぼんやりと見えたのは一匹のティディベアでした。
ティディベアが顔を覆って泣いているのです。
周りは涙で水浸しでした。
「わあん、わーん」
ティディベアは泣き止みません。
周りが、涙の海になりそうでした。
「ティディベアさん、ごめんよう。ごめん!」
ゆうくんはとうとう謝りました。
涙の海で、ゆうくん自身も溺れそうになりながらでした。
あっぷあっぷ、とゆうくんはそこで夢から覚めました。
ゆうくんは部屋から飛び出すと、お庭へと一直線に走りました。
「あった!」
ティディベアはひっくり返ってありました。
ぎゅうっとゆうくんはティディベアを抱きしめます。
「もう大丈夫。ずっとずうっと大事にするから!」
それからゆうくんはそのティディベアを本当に大事にして、大人になるまで大事にしました。
〖めでたしめでたし〗
おお読みくださり、本当にありがとうございます。




