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 アメリアが知る事実


 翌日。

 アメリアの邸に突撃した。


「あら?血相を変えてどうしたの?」


 約束も無しに突撃した私を出迎えたアメリアの第一声。拍子抜けする言葉にサプライズを通り越して怒りが込み上がる。


「アメリア!どういうことなのっ?何故あん」

「レミニーナ、落ち着いてよ。とにかく部屋に行きましょう」


 言葉を遮られてハッと周りを確認するとアメリアの後方には邸の主、ドメストイル侯爵がにこやかに私を見ていた。


「こ、あ、お久しぶりです侯爵様。お約束も無しに突然お邪魔して申しわけございません」


 慌ててドレスを摘んで一礼する。


「久しぶりだねレミニーナ。流石マドリアーナ子爵令嬢だ。私も鼻が高いよ。ゆっくりアメリアと対策を練っていきなさい」


 …………はい?

 その言葉に頭の中は疑問符だらけになった。

 アメリアとは学友でもあるが幼なじみ的存在だった。それは爵位を継ぐ前の父上達が親しかったからだ。

 わたしの物心がつく頃には唯一の女友達として時々遊んでいたのがアメリアなのだ。

 侯爵様は一人娘のアメリアと同様に、昔から姉妹のように可愛いがってくれた。だから突然お邪魔しても笑顔で迎えてくれる。それには感謝している。

 けれど……鼻が高い?対策を練る?どういうこと?

 昨日から頭の中が一向に整理がつかない。訳わからないことだらけ。

 それでも通い慣れた邸の中、自然と動く足はアメリアの部屋のソファの前で止まる。


「もう!遅いから待ちくたびれたわよ!」


 遅い?今は午前中だよ?結構早い時間だと思うけど?

 さっきの侯爵様の言葉といい、聞きたいことが次々と増えて何から聞いていいのか整理がつかなくなった私を余所に、アメリアは興奮気味に語ってくれた。


 アメリアの話によると、3ヶ月前には私がピネッティ公爵家主催の夜会に参加することが決まっていたようだ。

 3ヶ月前といえばルーベルト兄様が婚約した頃だ。

 その婚約が決まって一週間後の学園内で、アメリアは仕事の都合で訪れていた兄様に声をかけられたらしい。


『とある公爵家の夜会にニーナが参加することになった。サプライズで新しいドレスをプレゼントするからニーナのサイズを聞いて欲しい』


 そんなのキャシーに直接聞けば?と当然の事を言うと兄は自分が関与してる事を伏せたいのだと言う。

 サプライズだからキャシーにもバレたくないのだと告げられアメリアはとりあえず了承した。その後うちの邸に遊びに来たアメリアはこっそりとキャシーにわたしのサイズを聞いていたのだ。因みにキャシーには、アメリアが私にサプライズプレゼントすると嘘をついたらしい。


 そして細かいドレスサイズを聞きだしたアメリアは手紙で兄に伝えた。


『公爵家の夜会には君も参加して欲しい。俺は参加出来ないから代わりにレミニーナを頼む。但し、この話はレミニーナに問い詰められるまで伏せてくれ』


 そう言われて若干不審に思ったそうだ。

 とはいえ、婚約発表したばかりの兄とこれ以上手紙のやり取りは出来ないと思ったアメリアは公爵家からの連絡を待つ事にした。

 すると翌日、上機嫌で帰宅した父親ドメストイル侯爵が一通の手紙をアメリアに手渡した。


『マクロン殿が直々にお前に渡して欲しいと言っていた』

 その手紙を受け取って読んで今回の計画を知ったのだと白状した。


「もう!ずっと話を聞きたくてウズウズしてたんだから!ニーナ、貴方いつの間にマクロン様とそんな関係になっていたの?」


 どんな関係だと思っていたのだろう?


「昨日初めてまともに顔をご尊顔させて頂きました」


 いつの間にか嘘つき扱いされていたことに若干苛立ちを覚えた私は正直に返事する。


「……え?昨日?昨日初顔合わせでドレスをプレゼントされたの?」

「そうだよ」

「嘘っ?!」

「本当だってば。確かに兄様は去年の夜会で一度紹介したとは言っていたけど全然覚えてないの。ほら、夜会はよく行ってたけど私はドレスしか興味無いってアメリアだって知ってるでしょ? ピネッティ公爵夫人は覚えていたけどマクロン様なんてアメリアから噂を聞いた程度の事しか知らないもの。兄の知人は多いから紹介されてもいちいち覚えていないのよ。確かに紹介されたのかもしれないけど、私は沢山のドレスしか覚えてないもの。」


 力説する私をポカンと見つめるアメリア。

 とにかく、兄もアメリアも巻き込んであのドレスが用意されたことだけは分かった。


「ねぇ、アメリア。マクロン様が私のパートナーになる理由って、私がマクロン様に興味が無いと分かってるからなのかしら?」


 昨夜散々考えた一番の理由を聞いてみた。


「マクロン様の側に私というパートナーがいれば少しは女性が近付かなくなるでしょ?だから私に白羽の矢が立ったのかと」

「ちょ、ちょっと待って。…………もしそうだとしたら、私マクロン様を見損なうわ」

「でもそれしか考え」

「ニーナ。私、前から言ってるわよね?貴方、自分の事を知らなすぎるわ」


 わたしの言葉を遮りながらも真面目な視線を向けるアメリアに萎縮する。


「私、貴方は色々と目立つと言ってたでしょう?マドリアーナ子爵の令嬢でいて、ルーベルト様という素敵なお兄様がいて、貴方自身が他の令嬢から憧れられる存在だって事」


 ……確かに何度もアメリアに言われた。

 が、父や兄の事は置いといて、他の令嬢が憧れる存在だって事は思いっきり否定したい。

 それは兄を狙っている令嬢に話しかけられるだけだ。実際にわたしに声をかける女性は皆兄様の事を聞いてくるから。わたしなんて単なる付属品扱いだ。

 学園のクラスメイトだって皆がわたしを遠巻きにする。アメリアがいなければわたしは学園で()()()なのだ。


「……でもマクロン様が兄と親しくなりたい為に私を利用するとは思えないわ」

「……だからそうじゃないってば!! ……貴方、自分がモテるって事を絶対に認めないのよね……」

「当たり前でしょ。成人しても求婚なんてされたこと一度もなんて無いもの。それに男性の顔もロクに覚えないわたしがモテるわけないじゃない」

「求婚なんて簡単に出来るわけないでしょ?」


 あ、そうか。現世じゃ簡単に告白なんて無理か。


「大体ね、モテる女性というのはビアンカ様やアメリアみたいな女性の事を言うの。わたしなんか足元にも及ばないわよ」

「ちょっとっ!ビアンカ様は分かるけど、適当に私を一緒にしないでよっ」

「だって本当のことでしょ?アメリアはクラスの皆に慕われてるわ。クラスの中でならダントツでアメリアがモテてるじゃない」

「…………慕われてるというのは嬉しいけど、モテる事に関しては否定するわ。ダントツでモテてるのは貴方よ」

「………それって嫌味なの?」

「………………はぁ……。まぁ、そこがニーナの魅力なのだろうけどね」


 たまに出る。互いを褒めちぎる言葉。

 わたしとアメリアは互いに本気でそう思ってるからこその並行線の不毛な会話。


「それで?プレゼントのドレスは貴方好みだったの?」


 その話題を振られると固まってしまう。

 あんなオートクチュール、出来るものならガラスケースに仕舞い込んでいつでも鑑賞できるようにしたい。


「どうしたの?全然気に入らなかったの?」

「…………寧ろ逆。憧れのドレス過ぎて触りたくない。ケースに保管して鑑賞したい」

「そんなに!?何処のドレスなの?」

「……ポワンドール」

「……え?」

「ポワンドールのドレスやヒール、全一式」

「………………」


 分かる!分かるよ!

 アメリアだって言葉を失うと思ったよ!

 予想通りの反応だよ!

 流石、アメリア。私の親友っ!


「…………本気なのね」

「? 本当だよ?嘘だと思うだろうけど本当に私のサイズぴったりだったよ」

「そう…………。まぁ、マクロン様なら十分に及第点か」

「十分?十分どころじゃないわよ!及第点越えよ!」

「…………本当、たまにニーナは私の話を聞かなくなるのよね。鈍感というか頑固というか……」

「……それ褒めてないよね?」

「うん。褒めてない」


 何か釈然としないながらにも、とにかく!と開き直りながらも贈られたドレスの素晴らしさを力説する。呆れたアメリアは「はいはい…」と呟きながら引き出しから封筒を取り出した。

 目の前に出されたのは三日後に迫ったピネッティ公爵家の夜会の招待状。

 アメリアが言うには、わたしのお陰でドメストイル侯爵宛てとは別にアメリア個人にも招待状が届いたらしい。


 私と違ってアメリアは侯爵家の一人娘。幼い頃から婚約をと求婚が絶えないアメリアは昼間の茶会には参加するものの、夜会はあまり参加しないのだ。

 将来的にはアメリアに婿を取るつもりの侯爵様は自分の後継者となる男性を厳選している。その為に夜会でろくでもない男に引っかからないよう夜会参加も厳選してるのだ。


 今回は別々で招待された為にアメリアもパートナーを連れて参加しなければならない。ドメストイル侯爵の妹夫婦の御子息、端的に言えばアメリアの従兄(いとこ)がパートナーになるようだ。


 そしてこれが重要と、アメリアは招待状を指差しながら教えてくれた。

 招待状には、ピネッティ公爵夫妻の結婚30周年の祝いの宴と記されていた。

 そんなピネッティ家の大切な夜会に、御子息マクロン様のパートナーを指名されたのがわたしだと言う。


 単に公爵主催の夜会だと浮かれていたわたしは事の重大さに直面して顔から血の気が引く。今回だけはいつも通りにのんびりとドレスを眺める夜会にはならないだろうと知り落胆する。

 最早わたしからは断れない重責だ。


 恐々としながらも、既にわたしのサイズに作られたポワンドールの素敵なドレスを受け取ってしまっている。

 子爵令嬢のわたし如きがピネッティ公爵様の役に立つならば……。ドレスの御礼にもならないけれど、やれるだけやってみようと前向きになる。


 その後、夜会を主催する側を知らないわたしは、茶会を主催した事のあるアメリアから、最低限のマナーや来賓者の扱い方、ダンスに誘われた時の対応等を付け焼き刃で教えてもらった。

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