0007 パンと銃と水車小屋・1
「村の水車小屋事情を知らないのでしょうか? もしや、遠い都からいらした高貴なお方ですか? 変わった服を着て、一品もののような立派な杖を持っておられますし」
なぜ明らかに秋まで持つはずの麦が水車小屋で製粉すると足りなくなるのか。この世界の水車小屋はよっぽど低性能なのか仮説を立てていたら農民から質問された。
確かにこの世界の住民にとって文明が進んだ異世界から来たが、それを詳しく言うと大きく話が逸れるので肯定と答えた。
ただ、身分や銃を杖と勘違いしたままだと今後もどんどん勘違いされるかもしれないのでそこは否定する。
「俺はただの平民だ。そしてこれは杖じゃなくて銃というものだ。一品ものじゃなくて大量生産された、平民の武器だ」
銃はただの民衆でも訓練された戦士階級を倒せる武器。民衆の自由の象徴であり、一度量産体制を確立すれば民衆全員に十分に行き渡らせて戦うことも可能。
ただ、この世界にはまだないようだ。農民は"理解できない"という表情で固まってしまっている。
「それより、水車小屋について教えてくれ」
「分かりました。丁度うちの家が新たにパンを焼く時期なので、見について来て下さい」
そう言って農民が麦袋を一つ持ち上げた。
その横で農民の娘が何時の間にか来ていた。「こんにちは」と控えめに言うおとなしめな、今の自分と大して年が変わらなそうな彼女は、易々と麦袋を持ち上げた。
(あれは大分重いはずなのに)
さっきの農民よりも"理解できない"という表情、むしろ"納得したくない"という思いになった。