0020 初めての解放戦争・戦勝祝い
農民達と一緒に水車小屋主から取り戻した麦袋を開けて見る。
農民達は初めて見る製粉状態に驚いている。
「白くて粉が細かい! 表皮が無くなる程に製粉するとこうなるのか。いつも見ていたものと違う」
「これを使ってパンを作ろう。いつもの黒パンではなくて白パンを」
「黒パン? 白パン?」
これから作るパンの説明をする。
「以前に言った不要物が無く柔らかくておいしいパンのことだ。柔軟性があるから他の野菜や肉を入れることができるし、その状態で持ち運びできる」
いわゆるサンドイッチやハンバーガーといったものだ。具材と場所の自由さがある。
「さあ皆で準備をしよう」
せっかくの青天だ。こういう日は外で食べた方が楽しい。全員で一緒に食べる為に机を村の中央に並べよう。農民達はこの提案に賛同した。
村の男達が机や椅子を家から持ち出している。俺も机を外に持っていこうとしたが重くて持ち上がらなかった。
「……同志は力仕事は辞めといた方が良いと思います」
こういうふとした時に女の子になったのを実感する。縮尺の問題だけではない。以前の身体なら普通のより大きいくらいなら持ち上げれた。もとに戻れる算段が無い以上、慣れるしかないか。
仕方ない、パンを焼くのを手伝おう。
§
調理場の中に入る。中では女の子達がパンをこねているのに合流した。
「同志がこちらに来て一緒にパンを作ると思ってました」
昨日の夜一緒に寝た娘が先読みして場所を用意していた。この娘は賢いかもしれない。今まで教育の機会が無かっただけで磨けば戦略家にも政治家にもなれるんじゃないか。
俺を完全に女の子と考えているのは納得いかないが。
一緒にパンをこねる為に腕まくりをするが、何度やっても袖が落ちる。腕が細すぎて袖が引っ掛からない。
それを見たさっきの娘から提案が出た。
「私がいつも着ている服ならピッタリですよ」
そう言って彼女は俺を家に連れていった。
中で彼女に服を渡された。
「少年用の服を着たいんだけど」
女装は心理的に抵抗がある。ジャージが一着しかない以上は洗濯中等に裸で居るわけにはいかないので何かは着ておきたい。この身体が否応なしに目に入るのは落ち着かないのでできれば避けたい。
「それも有りますよ」
少年用の服も用意されていた。手際良いな。
「着替えないのですか?」
「着替えるから外で待ってて」
まじまじと見ていた彼女が外に出たのでジャージを脱ぐ。目の前で透き通った白い素肌や細い手足が披露されるのは、なんだか女の子の着替えを間近で見ているみたいで背徳感がある。見ないようにするために外の光が直接当たらない暗い場所に移動する。
急いで少年用の服を来たが、胸元とお尻がきつかった。いつも着ていたジャージの上からでは起伏が分からないくらい未発達な幼女体型でも、同じ年ごろの男と比べると女性らしい体型だった。
常にこの圧迫感があると逆に女の子になったことを意識してしまうので、女の子用の服に着替えある。こんどは圧迫感がなく身体にピッタリだ。"これなら意識しなくて済む"と人生初めての女装をなんとかして受け止めた。
俺は今、女の子になった事から目を背ける為に女装している。
「終わりましたか?」
彼女が家に入って来た。彼女と一緒に調理場に移動してパンをこねたり野菜を切ったりした。
§
村人全員で食事をした。支配階級から自由を獲得した戦勝祝い。
焼きたてフワフワのパンにレタスやキュウリ等の野菜や豚肉等の肉を挟んで食べる。人それぞれ中に入れる組み合わせや量が異なったり同じ人でも二個目三個目で違ってたりする。それは村人達の心がバラバラという訳ではない。それぞれの好みを認め合った仲間だからだ。
パンと自由は同じ幹から伸びるのだ。




