0001 異世界での目覚め★
冷たい空気が肌を包む感覚で目が覚める。ぼんやりしていた意識が少しずつ覚醒していく。
仰向けに寝転んでいるようだ。
目を開けて自身と回りを見渡す。
まず見えるのは自身が着ているジャージ、足元に落ちている愛用のAK47。ジャージとAK47が大きく見える気がするが、恐らく意識がハッキリしていないからそう感じるだけと判断する。
次に見えるのは知らない場所。
地面は柔らかい土に雑草が生え、辺りは木々が生い茂っている。背後には小さな湖があり、空は青く晴れ渡っている。人も人工物も見えない場所。
-自分が何故ここに居るのか分からない-
「……あれ俺は何をしていたっけ?」
夢すら見ない深い眠りから目が覚めた様に、記憶が薄い。思いだそうと目を閉じ考えこむ。
体も完全には目覚めていないようで、ジャージの袖が重く感じた。
少しずつ思い出す。
・性別
男
・経歴
ごく普通の一般人。学校卒業後にブラック企業に就職。
その後、退社して社会主義を掲げる市民団体に入る。そこで社会主義を学んだり軍事訓練を受け、活動の一環で前職のブラック企業から革命資金を調達しようと
「……!?」
同志を庇ってトラックに轢かれた事を思い出す。体がひしゃげる情景がフラッシュバックする。信じられない信じたくない現実だが、目を逸らしてばかりいられない。
「まずは現状確認だ。他の事は後で考えよう」
体の状態を確認する。
・全体的な感覚
いつもより力が入らずジャージが重く大きく感じる。まるで急激に痩せたようだ。それでも 身体機能に大きな異常は無い様なので各部位を細かく確認する。
・両腕
腕を伸ばしても手が袖から出ない。しかし手や指の感覚は在るし袖の中で自在に動いているので、欠損したわけではなさそう。服が伸びたか大きくなった様だ。
・手
袖を捲る。自分の物とは思えない白く細い手がある。それでも自由に動くので恐らく自分のだろう。
・脚
ちゃんとあるし試しに立とうとすると問題無く立てた。だが、腕と同じ様に丈が長く、裾に埋もれた靴はブカブカである。
「一体どういう事だ」
欠損どころか傷一つ無い、しかし異常な体の状況。暫く考え込むが、答えが出ない。
少し喉が渇いたので一旦は水を飲もうとする。湖に近づき水面を除くと、そこには美少女の顔が映っていた。
「!?」
とっさに辺りを見回す。しかしだれも居ない。再び湖を覗きこむ。
湖に映る美少女は、自身と同じジャージを着ていて同じ動きで見つめ返す。目端が吊りあがった赤い瞳、小さな鼻に幼さの残る顔つき、肩まである長く艶のある黒髪。
しばらくして湖の美少女の黒髪の先端が肩を滑り落ちる。同時に首に慣れない感触を知覚する。
それは美少女と同じ長く艶のある黒髪だった。
「もしかしてこれは……」
恐る恐るジャージ上着のチャックを緩めて中を確認する。
透き通るような白い肌。小さいながらも僅かに膨らんだ乳房、逆に何の存在感もない股間。ズボンの中では控え目の尻から二本の細い脚が伸びている。
「女になっている!?」
今までの人生とは一線を画す出来事に茫然とすることしか出来なかった。