反抗
寒くなってきましたが、まだ家では半袖マンですw
反抗、お読み下さい。
それからすぐに救急車は学校に到着して理沙は病院へと搬送されたが、救急隊の人は非常に険しい顔をしながら重い口調で『最善を尽くすよう、搬送先の医者に言っておきます』とだけ言い残して学校から去っていった。
騒然としていた校門前はようやく静寂に戻り、シンとした空気の中、ポツンと一人立ち尽くしていた。
ふと地面に落ちている自分の鞄に気づいて拾おうとした時、持ち手につけていたミニミラーがキラッと太陽で反射して眩しく光り、目を細めながら恐る恐る覗き込んでみると……目は充血して真っ赤。頬にはくっきり涙の跡がついていて、風が顔に当たって寒く感じ、どれだけ泣いたのかを物語っていた。
遠くでまだ聞こえる救急車の音が、この一瞬で起きた悲惨な出来事と理沙がくれた言葉が頭の中を駆け巡ってしばらく呆けていた。
「望月。気分は優れないとは思うが、話を聞こうか……」
後ろから生活指導の先生が私の肩を叩きながら校内に連れて行こうとする。
「理沙は……助かるんでしょうか」
その声は震えていた。枯れてカスカスだったけど、先生を信頼するという最後の救いに縋った。今までは自分に味方してくれたりなどなかったけど、親友を失いそうな今、心傷しきった私に寄り添って励ましてほしいと。
「正直、この事件は望月のせいでもあると思っている。ちゃんと親御さんを呼んで学校で話し合わないといけない。いいか?この事件の一番の被害者は本田のご家族なんだ。本田のことを心配するのもいいが、どうしてこうなってしまったのか…しっかり考えて反省しておきなさい」
……私が期待したのが馬鹿だったのだろうか。
相変わらず、私を厄介者にしたような答えが返ってきた。
私の中では先生のこんな冷たい言葉よりも、理沙がくれた言葉が、温かく、そして力強く光る。
『華淋の置かれて居る状態はしんどいかもしれないけれど、この世界には色んな人がいて、色んなことが日々起こるの』
『そう世界は広いんだよ!悪い人よりも良い人の方がきっと多いと思うし、きっとなんでもできる』
『辛すぎるなら逃げてもいいんだよ?』
『言ったでしょ?華淋はもっと自由でいいって。学校も、家も、どこにいても辛いなら、華淋の事を誰も知らない所まで行っちゃえっ!』
『私の分まで、幸せになってね!』
その意味はもう解っていた。
先生が、家族が、周りが、助けてくれるのを待つんじゃない。誰も助けてくれないのなら自分で行動して変えていかなきゃいけない。
その一歩が怖かったけど、逆にそんな風に突き放されて動き出せる反抗ができた。
先生を強く睨み返し、肩に乗っている手を強く振り払った。
「も、望月!?」
「勇気をもらえました。ありがとうございます」
「は?勇気?何言って――」
「今までクズでいてくれてありがとうございました。さようなら、先生方」
満面の笑みでそう捨て台詞を吐いて、鞄も持たずに全力疾走で学校を飛び出した。
「クズ!?望月、待ちなさい!!!」
走るのは得意じゃないけれど、不思議と体が軽く、どこまでも行けるような感じがした。
後ろから先生や生徒が追ってくるがしばらくすると諦めて学校へ戻っていった。
飛び出したのはいいものの、行くあてもない。
頼れるのは――
『カリン、こっちこっち』
『こっちダァヨォ』
『案内係ー♪』
気づけば辺りにはたくさんの化け物がいて、連れて行きたい場所があるようで勝手に道案内をしている。
体が軽いのも、ずっと走ってても疲れないのも、化け物たちが不思議な力を使っているからだった。
だけど私が頼んだ訳でもないし、化け物たちのせいで生きる事が辛くなったという事は変えられない事実。
そう簡単に許せるはずがない。
ここは利用させてもらう事にして、道は教えてもらうけれど、許したわけではないという強いプライドが前に出て、優しくなんかなれず、やはり冷たい言い方になる。
「……案内して」
そんな言い方でも化け物たちは頼ってもらえたことが嬉しく、どんちゃん騒ぎをしながら案内をし始めた。
いつも見慣れた道、店、家、人を通り過ぎる。
でも、いつもと違ったのは辛く重い白黒な世界ではなく……心軽く、どこまでも続いているこの広い世界が色鮮やかに映った事だった。
やがて日は沈み始め、スマホを見るともう18時を優に越えていた。
上を見るとどんよりとした雲が空を覆っていて、嫌な予感がする……と思ったら、瞼に水滴が落ちてきて、雨が降り始めてしまった。
「うわ、最悪…」
ボソッと呟いて近くのコンビニのような木造建の小さな小売店で雨宿りをする。
辺りは気づけばもう自分の知っている道ではなく、田んぼや畦道がちょこちょこある田舎だった。
そしてその背景に大きく聳え立つのは……迷った者は帰れない、神隠しに遭うなど、数々の都市伝説があると噂され、幼い頃に近づかないようによく言い聞かされていた月虹山が見えていた。
化け物たちは私をそこへ連れて行こうとしている……?
『時間には、間に合う』
『あっとすっこしー♪』
『条件、整う、カリンを連れて行けるダァ』
ここに来て恐怖心と不安が一気に押し寄せてきた。
恐る恐る中に入ると、昔懐かしいおもちゃや食べ物、雑誌や新聞は最新の物だけど、俗に言う、古き良き物がたくさん売ってある変わったお店だった。
店の右上の角にカウンターがあって、そこに一人新聞を呼んでいるお爺さんが居るだけで他のお客さんは居なかった。
寂しさと不安を紛らわせるように店主さんと思われるお爺さんに話しかけてみる。
「あの」
「ん?あぁ、いらっしゃい。こんな辺鄙な店に学生さんが来るのはいつぶりだろうねぇ。何しにここへ?」
「あ、えっと……」
「おっとすまないね、答えにくい事だったみたいで。無理に答えなくていいよ、若い時は色んな悩み事や逃げ出したくなる事だってたくさんあるもんだから」
「すみません……」
「こんなボロっちぃ店だけど、ゆっくりして行きなさい。雨が止むまではこの老いぼれ爺さんが話し相手になってあげるとも。……見るからに、その制服は氷輪のお嬢さんだねぇ?」
「はい……辛い事があって、誰も私の事分かってもらえなくて……逃げてきました」
制服にはまだ理沙の血液が乾いた物が付いていたのにも関わらず、それを見ても驚かず、恐れもしないで
「そうかいそうかい。それは大変だったねぇ」
そう言いながら頭を撫でてくれた。その触れてくれたシワシワの手は温かく、優しくて負の感情を全て払拭してくれた。
「この辺はね、変な噂や都市伝説に振り回されて、もうほとんど人は来ないから安心しなさい」
「……ありがとうございます」
「でも、恐い噂や都市伝説ばかり言われてるけど、実はそうじゃないんだよ」
「え、それってどういうことですか?」
「それは自分で確かめてきなさい。行くんでしょ?月虹山に」
ちらっと化け物たちの方へ目線を向けると、まだかまだかと爛々と楽しそうに雨が止むのを待っている。その目線の先は間違いなく月虹山を映していた。
「あ、はい。……おそらく」
「なら、運がいい。今宵は満月だからね」
「満月だと何かあるんですか?」
「それは秘密だねぇ」
にっこりと優しい笑顔を見せてくれた。
きっと何かを体験してそれが何かを知っているんだろう。
「おや、止んできたようだね」
外を見るともうポツポツ降っている程度まで止んできていた。
「雨宿りさせてくれてありがとうございました」
「またいつでも来なさい、気をつけるんだよ」
お爺さんは大きく手を振ってくれて送り出してくれた。
そしてもう日も沈んで今は19時を過ぎ……暗い中、化け物たちと月虹山の山道に入り始めた。
不安よりも変わりたい思いの方が強く、一歩一歩進むたびに自分を律する気持ちになっていった。
さて、ようやく本編に入りそうです。
ペースが遅くて本当にすみませんw
閲覧ありがとうございました!