恋阨事情
遅くなりました、すみません( ´ •̥ ̫ •̥ ` )
恋阨事情、お読み下さい。
少しして先生が入ってきて、各自席についた。
担任は西宮琴羽先生。担当教科は現代文で、一人一人と向き合って生徒の尊重を大切にし、容姿端麗……所謂、神女性教師。
そんな人でも私のことは恐いらしい。こっちをチラチラ見てはいるが目が泳いでいる。
なんでもいい。どうでもいい。もう慣れたことだし。
先生は何か意気込み的な事を話ていたけど、どうでもいい話はほぼ聞かずに始業式ということで体育館へ向かう。
長い校長先生の話も転入、編入生の話もこれから始まる新しい二年生の学校生活も新入生もなんの色もない。必要以上の事は聞かないし、答えないし、動かない。
私の言動、行動全てが……私の感情が、素が、全ての人に迷惑と恐さを与えてしまうから。
可哀想と思われる事はしばしばあるけど、その人が何かしてくれる訳でもない。
所詮他人だから。
人間は、自分が一番大好きだから。
ねぇ、そうでしょ?
何かを通り越して笑いが込み上げてくる。
あぁ、死にたい。
死にたいけど、理沙が私を生きさせてくれている。だから死ねない。それだけで生きている。
そんなことを考えているとあっという間に1日は過ぎる。
特に今日は始業式だけだったので後は教室に戻って各委員などを決めるだけ。あっという間に放課後で時計は14時過ぎを指していた。
教室を出て帰る生徒、本校の裏にある部活棟へ行く生徒、遊ぶ予定を立てている生徒や手を繋いでイチャついている生徒など廊下はごった返している。
「さて、練習あるから行くね!今日は5時までだから、それぐらいに校門前で待っててね!」
「分かった、行ってらしゃい。頑張ってね、未来のオリンピック選手さん」
「も、もー!うまいこと言わないでよね!!ありがと!バイバイ!」
嬉しくて少しジタバタした後にラケットを肩に担いで理沙は部活棟へ行ってしまった。
いつも理沙の部活が終わるまでは図書室で過ごしている。静かな空間、本の匂い。この学校で一番落ち着く場所。
階段を上がって三階へ。3年生が私を見る中、気にせずに図書室へ直行する。
ドアを開けて、図書委員さんに軽く会釈する。
奥にある、ロマンス小説のある棚まで迷う事なく行って本を選んで日当たりのいい、いつもの席に座る。
ロマンス小説を読んでいる時だけは自分も恋愛をしてみたいな、とは思う。
でも実際には私の体質のせいで絶対にできない現実を叩きつけられて落ち込むことも多少あるけど、それでも読んでしまうのは恋する気持ちや、恋人のいるキラキラした日々、結婚して幸せな家庭を築くことに本当は憧れているんだと。
この本の中だけなら少しぐらい夢を観ても許されるよね……?
暖かくも静かな空気が流れる昼下がり。
あまりにも心地よくて本を読んでいる視界がだんだんと狭くなって、そのまま優しく意識が途切れていき、時間はそのまま過ぎて16時55分の大きな予鈴の音で目を覚ました。
部活が終わる5分前。本を元に戻して図書室を出る。
駆け足気味に階段を降りて靴を履き替えて校門前で息を整える。
なんだかんだ嫌な事もあったけど、大体いつも楽しかったと思えてる。
他の生徒がチラチラと校門から出て帰っていく姿が見えだした。
理沙、まだかなー……。
「お前、望月華淋だな。」
制服を着崩し、こっちを睨みつけて私の前に現れてそう言ったのは、名前も顔も知らない同じクラスになったばかりの男子生徒だった。
……なんだかやばそうなオーラがする。
「そうだけど。普通、自分から名乗るものじゃないの?」
「チッ……クラスメイトの名前も分かんねぇのかよ、黒曜命だ。お前さ、虚言癖で本田に構って欲しいのか何だか知らねぇけどよ。何してくるか分からねぇ、得体のしれない奴に仕方なく本田は構ってやってて、それが迷惑だってことを知れよ!!!」
「理沙がどう思ってるかは理沙にしか分からないとこだし、私が何しようとも理沙がどう思ってようとも……どちらにしてもあなたには別に関係ないでしょ。」
そもそもどうして理沙なのか。この黒曜命とかいう人、理沙にとって全く関係ないし、私たちの関係について割り込んで何がしたいんだろうか。
「その態度だよ!余裕ですみたいな顔して淡々と自分の方が上、みたいな言い方、マジでムカつくんだよ!!本田だけはいつも味方してくれる?自分は強いってか?恐れられてて、先生さえも黙らせるってか?調子に乗るんじゃねぇよ!!」
勝手に怒って勝手にヒートアップしている。
私の態度がムカつくってあなたこそ何様なんだか。
「そんなこと一切思ってないし、調子にも乗ってないから。」
関わりたくない、この人と。本能で危険察知してこの場から離れようとすれ違った時だった。
「痛っ!!」
鈍い痛みが右手の甲に走る。見ると、斜めに5センチぐらいの切り傷が線状に入っていて、そこから鮮血が滴り落ちていた。
血の気が引いて振り返って見てみると、ニヤついた顔をした黒曜命の手には刃渡り7センチほどの飛び出しナイフを持っていて、刃には血が伝って手についていた。
辺りの生徒は騒ぎ立て、一瞬で騒然と化した。先生を呼ぶ生徒、止めようとする生徒。だけどそんなことは一切視界にも耳にも入ってこない。
「恐いよなぁ?痛いよなぁ?どうだ?恐怖を味わってみて。嫌だろ?しんどいだろぉ?」
痛い。凄く痛い。血が失われていくのが感じ取れるぐらいに切れていた。
よろめきながらも手を押さえて睨み返す。
「……っ!!」
「まだそんな顔する余裕があるのか……」
「だいたいっ……理沙の話がどうして出てくるのよ……!!あなた、理沙と何か関係でもあるの!?」
「っ……!!そ、れは……」
さっきの勢いをよそに、たじろぎ、俯くなり、顔がみるみる赤くなってボソボソと小声になっていった。
この感じは……理沙のことが好きなのだろう。
「お、お前には関係ねぇだろ!!」
「あるわ!だって私は理沙の親友だもの。でもあなたは無関係。ただのクラスメイト。」
私の放った言葉に悔しかったのか、歯を軋ませている。
「と、とにかく本田にとってお前はお荷物でしかねぇんだよ!!!オリンピックに出て金メダルを取るのが夢なのにそれを全て邪魔してるだろ!?」
その言葉に少し胸を痛める。「そんな事はない」と言っていたけれど否めなかった。
「君たち!!!何をしているの!!!離れなさい!!」
先生が止めに入ってきて私は少し正気に戻った。がしかし、黒曜命はさらにヒートアップしていた。
「うるせぇ!!邪魔するやつは殺す!!!」
無理にでも止めようとする先生めがけてブンブンとナイフを振り回す。
先生達も近づけず、命の危険が及ぶと判断して警察に電話をかけたようだ。
黒曜命はいよいよ覚悟を決めて私に向けてナイフを向けてジリジリ迫ってくる。
私は後退りすることしかできず、呼吸は荒くなり、『死』という恐怖に支配されていた。
「死ねぇぇえええええ!!!!!!」
ナイフを逆刄に持ち替え、私のお腹目掛けて突っ込んできた。
「っ!!!!!!」
息を止め、目を閉じた……が、痛くない。
恐る恐る目を開けるとそこには……
「正義……は、遅れて……来るもんだ、って……ね」
腹部がナイフで貫通し、血に濡れながらも笑いかける、理沙の姿がそこにあった。
最近秋の花粉にやられて辛いですズビズビです。