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都合のいい思考

四月初めに腰を痛めてしまい、かなり遅れてしまいました・・・・すみません。

「おはよ、華淋!今日から新学期始まるねぇ。気分はどう?……って言ってもよくはないか」


 そう言って隣の家から出てきた幼馴染の理沙


「おはよう。ん、だいぶ良くはないかも……」


「大丈夫、私がいるから。さてさて、今年も一緒のクラスになれたらいいですなぁ!」


「そうだね」


 足は重かったけど、他愛無い会話をしながら学校への道を歩いていく。


 道中、真新しいシワ一つない制服に身を包んだ新入生の姿も点々と見られて、こちらをチラチラと見てくる新入生がほとんど。


 異質で風変わりな私と、硬式テニス界で出場した大会は全て優勝をかっさらっていく、高校生にして天才テニスプレイヤーの理沙。注目されてもしょうがない気はするけど目立ちたくはない。

それを感じ取ったのか、理沙が突然走り出した。


「よぅっし!クラス替え表早く見たいから学校まで走ろ!!!!」


「え!?ちょ!!理沙みたいに運動得意じゃないのに!!」


 強引に私の手を引っ張って桜並木道を駆けて行く。

気持ちのいい四月の風。遠くの方で(うぐいす)の鳴く声が聞こえたけど、ちょっぴり下手でくすりと笑った。


「ふぅ……!!はい。とうちゃーく!」


「はあっ……!はぁ……!!し、しんど……!!!」


 さすがはスポーツマン、一息深呼吸入れただけで息が整っている。

あまり動かない私には到底無理……。

恐るべし、天才。


 大体5分ぐらい走り続けて、私たちが通う氷輪紅(ひょうりんくれない)高等学校へ着いた。


 小等部から中等部、高等部、大学部まである、所謂お嬢様お坊ちゃま学校で、親が有名人だったり、社長業や医者や弁護士が親など富裕層に人気で偏差値もかなり高め、さらに教員もエリート揃いのトップで名門エリート学校。

 その名の通り、氷輪(ひょうりん)……深夜に堂々と冷たく輝く紅い三日月が校章。


セーラータイプのブラウスで、淑やかさあふれるグレーのジャンパースカートにワインレッドとホワイトのボーダーリボンが誇り高き印。リボンの中心には純金でできた校章ピン。男子はネクタイとネクタイピンがその仕様となっている。


 ゾロゾロと他の生徒たちが周りを歩いて挨拶や会話を交わしているけれど、私たち二人には誰も話しかけてこない。


そう、これがいつも通り。


そして、下駄箱前で大勢の生徒が集まってかなり騒いでいる。


「あ!ほらほら、クラス替え表もう出てるみたいだよ!行こ行こ!!」


 そう言ってまたもや腕を掴まれながら、クラス分けされて名前が張り出された表の前まで連れて行かれた。


 まずは自分の名前を探す。ええっと……C。2年生はC組に自分の名前を見つけた。

 次に理沙の名前を探すけど、その前に理沙が叫ぶ。


「やった!!C組だよ!!また一緒だねぇ!!いやぁ、嬉しいですなぁ!」


「ん、よかった……」


 理沙はぴょんぴょん跳ねたり私の手を握ってブンブン振ってみたり嬉しそう。

私も内心かなりホッとしていた。


「でも、小等部からずっと同じクラスだから流石に離されるかと思ったけど、安心したよー……私いなかったら誰が華淋を守るのよ!」


 冗談を含ませながら苦笑いを見せる理沙はどこか焦っている様にも見えた。


「本当だよ、いつもありがとう、理沙」


「へ!?い、いや冗談だよ冗談!それに前も言ったけど、私が好きでやってるから気にしないのー!」


 思い切り私の両頬を引っ張られて、若干怒られた。


「ひゃい」


「分かったらよし!……でも不思議だねぇ」


「……」


 なぜ、同じクラスになれたのか。それは一年生の学期末にあった、二者面談でのことだった。










望月(もちづき)さん、どうぞ』


 担任の先生に呼ばれドアを開けて入る。


 冬の夕闇で紫掛かったオレンジ色に染まっている教室に、先生が座って待っている。机の上には成績表と配布物が置いてある。


『……』


 黙って椅子に座る。


『で、では、二者面談を始めます……』


 先生は緊張している、私が恐いから。

 何が起こるか分からないから。

 手が震えている。

 目を合わそうとしない。

 だけど教師だからと無理して威厳を出そうと必死に成績表を開き、進路の話を持ち出す。


 見てみると、音楽以外の評価は5段階評価のうち3。音楽だけ5の評価だった。


『成績は、中の中……ってところか。もう少し頑張ってみる気はないか?』


『ないです』


『そ、そうか……。音楽がいい評価だから、頑張ればうちの付属大学じゃなくても音楽大学や名門大学にも行けると思ってるんだが・・・・進路はどうするつもりだ?』

 良い所を褒め、悪い所を伸ばせる様に言葉を選んで伝える。そして、目標をかなり高い所ではなく、少し手を伸ばせば届く様な所にして頑張れる様に促している。

 さすがエリート教師が揃う学校だと思う。

 どの先生も本当に生徒一人一人ちゃんと見ている。


 ……こんな私でも。


『進路に関しては、まだ何も分からないです』


『そう、か。ま、まぁ、来年は三年生だし、早めに進路を決めるようにな。帰ってから親御さんに話してみるのもいいかもしれないぞ』


 家の事情も知らずになんでも親に相談、みたいな思考に少しイライラして俯きながら呟いた。


『できるわけがない……』


『ん?何か言ったか?』


『いえ、何も』


『さて、最後に二年生クラス替えの話だが……』


理沙(りさ)……本田(ほんだ)さんと一緒にしてください。』


『でも、本田とは小等部からずっと一緒じゃないか。』


『本田さんと一緒じゃないと嫌です。』


『気持ちは分かるが……望月、本田に依存しているんじゃないのか?』


 …………は?


『社会に出たら、苦手な人や嫌いな人と仕事しないといけないことも必ず出てくる。ずっと仲のいい人といれることの方が少ない。その時の事も考えて、ここで練習しとかないと望月自身がしんどくなるぞ』


 意味が分からない。

この先生は何を言ってるんだろうか。


依存している?社会に出たらこうはできない?


 そうなっているのは、そうさせているのはどうしてなのか分かっている癖に。


 理沙と一緒にいるのは理沙しか理解してくれないからなのに、全て私のコミュニケーション不足だと言いたいんだろう。


 まぁ実際、私が化け物を見てるからこうなってる訳だから、あながち私のせいってのは間違ってはないけど、先生の口から出た『依存している』という発言に強い嫌悪感を抱いた。


 それは周りにいた化け物達に伝わり、異質なオーラを私は発していた。


『本田さんと一緒にしてください……!!』


『わ、分かった分かった!本田と一緒にするから!一旦、お、落ち着こうか……!』


 そのやばい雰囲気を感じ取ったのか、なだめるように焦るように頷いた。


そしてそのまま二者面談は終了となり、教室を出

 た。


 冬は日が沈むのが早い。空も、すっかり辺りは夜の闇に染っていた。


 依存。その言葉がずっと心の中で引っかかったまま、とぼとぼと荒れ果てた家へ帰った。










 あの時確かに先生は『分かった』と言ったけれど、所詮決めるのは先生なので、一緒になれるという確証がなかった。だから、ほんとうに心から良かったと安堵していた。


 そして、また息苦しく疎外感のある学校生活が重々しく幕を開けたのだった。

閲覧ありがとうございました。

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