変わって終った日々
月影夢美音です。
なんとか3月中に出せました!楽しみに待ってた方、いつもありがとうございます!
変わって終った日々、お読み下さい。
妖精。それは時にいたずらをしてみたり、魔力を分けてくれたり、遊んでくれたり、物好きに身の回りの世話をしてみたり……よく分からない存在。
そんな彼らに物心ついた頃から振り回されている。
ただ、彼らを妖精と知るのは随分後のことで、それまでは化け物と呼んでいた。
普通の人になりたい……何度そんなことを思っただろう。
学校でも、家でも、どこにいっても私は頭のおかしい子で。
でも、一人じゃなかった。
こんな私でも幼馴染だけはいつも私の味方で、理沙がいなかったら早くに自殺したいと願って死んでいたと思う。
理沙がいるから生きている。本気でそう思う。
私といてもいいことなんて無いはずなのに、どうしていつも味方になってくれるのか聞いても、
「そんなの幼馴染なんだから当たり前でしょ?気にしなくていいの!」
と、笑って誤魔化される。
︎︎ いまいち分からないけど、私のせいで色んなことに巻き込まれるのだけはなんとしても避けなければ。
それが今、私にできる精一杯のことだった。
そうしてまた、カーテンから漏れる太陽の光が差し込み、それに合わせてけたたましいアラーム音が何もない殺風景な部屋に響いて……ただ呼吸をするだけの、生きているか死んでいるかよく分からない『今日』が始まった。
眠たい……寝てたい……永遠に寝てたい。
小さい白い体に、ガラスのような薄く朝日に照らされキラキラと美しく輝く羽を持つ、三匹の世話好きな化け物たちは、カーテンを全開に開ける。眩しくて掛け布団を顔まであげて潜ろうとするが、阻止された。
『起きなきゃ遅刻する、布団、剥がす』
『起きろ、起きろ』
『朝だ、学校、学校』
「んっ!!眩しい……!!わかったから……起きるから……もう少しだけ………」
『布団、剥がす!!!!』
問答無用で思いっきり布団を剥がされ、四月のまだ少し冷え込んだ外気に触れる。
あぁ、お布団の温もりがぁ……。
「起きる!起きるから!」
まだしょぼしょぼしている目を無理矢理開けて体を起こし、スマートフォンで時間を確認すると、7時4分。全然大丈夫な時間だ。
『よし、起きた』
『素直に起きてれば、こんなこと、しない』
『カリン、本当に朝、弱い。マゼンタ様は5時に起きて、お弁当、作ったりしてる、見習え』
「うるさい。そんなに早く起きて何するの……」
『そんなの、決まってる』
『カリンと遊ぶ』
『カリンと一緒にいたずら、考える!』
「朝っぱらからいたずらも、遊びもしないから」
淡々と化け物たちの戯言をサラッと受け流し、トイレへ行き、顔を洗う。
再び部屋に戻り、制服に着替える。
三週間連続で同じブラウス、ジャンパースカート、靴下、下着諸々を着ているのに、まるで洗い立ての清潔感のある綺麗なものに着替える。
『今日も綺麗にした、かしら?ありがとう、は?』
水色の体をした、別の世話好きな化け物が得意げに話しかけてくる。
「別に、頼んでない」
『ツンツンしてるの、かしら?』
「……。」
無視を決め込んで、カバンを持ってリビングへ向かう。
……行きたくないけど、通らないと玄関へは行けない。
行きたくない理由は明白だった。
お父さんとお母さんは二人して私の姿を見つけると、睨み、憎み口調でストレスの吐け口のようにひどい暴言で怒鳴り散らす。
「あ?まだ生きてたのか、ゴミ娘」
「いつになったら死んでくれるの?ウチはお金ないのに、どれだけ苦しませるつもりなのかしら。ゴミ娘が死んだらその死亡保険で降りたお金で健太くんと温泉旅行でも行こうかしら!」
「はぁ!?俺の金だから一千もやらねぇぞ!!俺が萌奈ちゃんと遊園地お泊まりデートするからな!!!」
「本当にこのゴミがいなかったら別れてとっとと健太くんと結婚して幸せに暮らせるのに。……あーあ、ゴミのせいで不幸だわ!謝りなさいよ!!!!!」
「俺も萌奈ちゃんと結婚したいのに、全部ゴミのせいだな。謝れ!!!」
そう、お母さんもお父さんもお互い別の愛人を作って離婚したがっているけど、私がいるからという、無理矢理な理由で離婚しないでいる。離婚すると周りから噂されたり、近所付き合いに影響が出るからだとか、恥ずかしい思いをしたくないとか、周りの目ばかりを気にしてのことだった。
こうして大体いつもゴミ娘、ゴミ、と呼ばれ色んな理不尽を言い飛ばされるが、一歩外に出ると人が変わった様に優しく、模範的な両親を演じる。
かつては大企業だった。その頃は普通の両親だったが、経営がうまく行かず数年で倒産した。
そこから生活が一変し、酒を飲み散らかし、異性を遊び散らかし、変な子だった私を、邪魔だと考えるようになって・・・・・・子供を育てることを捨てた。
家事も料理もロクな会話も何もしなくなった、ただの自分の為だけに生きる人になって数年、もうこんなことには慣れていた。
「……ごめんなさい」
「ああん?聞こえねぇな!!!それに感情がこもってないだろうが!!」
は?……聞こえてるじゃん!!!
「こんなゴミが生きててごめんなさい、せめてでもお父様とお母様のお役にたてるように頑張りますって土下座しながらいいなさい!!!!」
……嫌い。だけど、親だからどこか切り捨てられなくて期待してしまう。
私が普通の子だったらもっと愛されていたのかな。もっといい子だったらたくさん色んな事をお話しできていたのかな……そう思うと私が悪いと考えてしまう。
「こんなゴミが生きててごめんなさい……せめてでも、お父様とお母様のお役にたてるように頑張り、ます。」
正座をして土下座でその文言そのままを言う。
悔しくて、悲しくて、自分が嫌いで涙が滲む。
「あっははは!本当にした!!!本当にゴミなのね!!!」
「分かったらさっさと学校に行け!!!」
「はい……いってきます」
立ち上がる時に気づかれないように涙を拭き、鞄を持って玄関でローファーを履く。
『朝から本当に容赦ないわね。捻り潰したいわ。大丈夫?華淋……。はい、今日のお弁当』
そう言って手作りお弁当を渡してくれたのは、妖艶なマゼンタ色をした、またもやガラスのような、薄い羽を持った世話好き達ををまとめる、人型っぽいマゼンタという化け物。
どうやら、化け物界では階級みたいなものがあるらしい……私は知りたくもないけど。
そして全く何一つ何もしないお母さんに変わって、家事や料理を主にやってくれているため一応、感謝はしている。
無言でお弁当を受け取り、玄関のドアを開けて外へ出た。
風が運んできた花びらを遠くに見ながら木々を見ると、美しく咲き誇っていた桜も散りかけていて、私の目には汚く映った。……そしてやっと咲いて人々は綺麗と言い寄り付いてどんちゃん騒ぎをするのに、散り始めると冷めるように離れていく悲しみを感じていた。
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