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ロレンシーネ家の逆ざまぁ阻止計画

ロレンシーネ家の逆ざまぁ計画2 婚約者とズッ友と

前回の続編です。ベガは黒髪赤目の美少女です。

よろしくお願い致します。

2/27 誤字修正しました。ありがとうございました。




私、ベガ・ロレンシーネは悪役公爵令嬢である。




前回、運命のお茶会を一家で乗り切って7年が経った。あれから、家族皆幸せにつつがなく過ごしている。あ、弟が産まれたので幸せ生活がよりいっそう幸せ生活になった。



そしてまた噴水に落ちて気がついた。まだ逆ざまぁの呪縛は解けていないと。

ちなみに今回は15歳の元気盛りなので、熱で寝込むのは3日で済んだ。心配しながらも呆れ顔したお母様に淑女の心得を滔々と語られたのは苦い思い出。



15歳になったので、流石に誕生日にテンションが上がって落ちた訳では無い。

留学中だった婚約者が帰ってきて、テンションが上がって落ちたのだ。テンションの上がった理由に成長を実感し、感慨深い限りである。



婚約者のサディオ・インテシーク公爵令息とは、あのお茶会の2年後に婚約した。



「ベガのリクエストは、学園で第一王子殿下と被らない年齢と言っていたけど、殿下が入学する時には隣国に留学予定なんだ。どうかな?ただ..........そこそこイケメンなんだ、彼。」

と眉を八の字にしながら伝えてきたお父様。切れ味抜群美青年の困り顔はなかなかレアって思ったけど、お母様によく困せられてるから、あんまりレアじゃなかったと思い直した。仲良し夫婦バンザイ!



──それよりもである。


「そこそこイケメン?」

「うん、そこそこイケメン。ベガは優しい顔が良かったのだろう?イケメンじゃない方が良かったんだろう?」


ん、言っていない。そんなことは言っていない。「少し年上で、出来れば殿下と学園の年代が被らず、顔ではなく性格が優しい、穏やかな人。」とは言った。父には「顔も性格も穏やかな優しい人」に伝わったらしい。成程。言葉って難しい。



お父様曰く、インテシーク公爵自身が愛妻家で息子にも可能な限り伴侶を選ばせたいと考えていた様で、息子の婚約者不在は焦ってはいなかったらしい。

うちのロレンシーネ家も同じような方針だ。

なんせ第一王子集団見合いを壊してるし。国はそこそこ仕事が出来る王様と空気の読めない王妃様と優秀な補佐官多数で安定している。高位貴族だけれど、多少の融通はつくのだ。


そんな両家で何となく気が合い、一応子供同士の顔合わせしてみようとなったようだ。



お見合いはインテシーク家のガーデンテラスに決まった。

青々とした芝はみずみずしく、緑が多めの草木に、季節の花が所々咲いている。あまり色味がないのに寂しさはなく、洗練された庭。今日この日に合わせたかのように晴天で過ごしやすい。王城は空気の読めない薔薇バラばらが多すぎて目がチカチカしたのに。



両家の挨拶が終わって、お見合い相手をチラッと見る。露骨だとはしたないのでチラ見。




──目が、あった。あ、笑った。好き。.....好き!!!




悪役令嬢転生、はたまた、ただの転生、転移者同士諸君、これほどのギャップ萌えを味わった者はいるだろうか!?

いや、いない。私が1番だろう。ぶっちぎりのNo1だ。異論は認めない、そう異論は認めないったら認めない。



サディオ様はイケメンだ、完璧イケメンだ。お父様と同じ切れ味抜群系のイケメンだ。切れ長の目は鋭く、冷たい印象を与える。確かに優しい顔とは真逆に振り抜いたようなイケメンだ。でも、その目を少し細めて微笑むとエメラルド色の瞳がそれはそれは優しい色に光るのだ。

むしろ「そこそこイケメン」と称したお父様に複雑な父親心を感じる。



その後、私主体で会う回数を重ね、私がふんわりした一目惚れを、本格的なベタ惚れに昇華し、会う度に見られる顔の造作と表情の不一致に悶え息も絶え絶えな頃、サディオ様もそんな私に絆され、婚約した。

今はまだ絆された位でいいのだ。私10歳、サディオ様14歳。この年齢の4歳差は大きい。




だから努力は怠らなかった。お父様似の美貌を磨き、これ幸いとお母様に容赦なく増やされた勉強をこなした。

まさに人参をぶら下げられた馬状態。

私はやれば出来る子なのだ。お茶会ですら、見事乗り切った集中力のあるやれば出来る子なのだ。夜中に「お母様めぇ〜〜」とめーめーと羊になった夜もあったけれど、サディオ様を思ってポエムをしたためた夜もあったけれど。




「最近、ベガちゃんが来る日はそわそわしちゃって〜」

「この前ね、こっそり花言葉調べてたの見ちゃったの〜」

「ベガちゃんへのお手紙の書き損じ、恥ずかしくて捨てられないみたいでね。机の3段目に鍵かけて、しまってあるのよ〜」


なんて、イテシーク公爵夫人、略して未来のお義母様の人参()が甘すぎた。思春期の息子の恥ずかしい個人情報を余すことなく使って繰り出される人参()はとっても美味しくてとびきり甘い。

暴露された思春期真っ盛りのサディオ様の心情は察するに余りあるが、サディオ様自身は気づいていないようなので問題ない。


惚れた弱みがあるので、私だって時々人参()が欲しいのだ。その分、私はサディオ様に好意を沢山伝えて、恥ずかしい思いをしているのだし。

清々しい程のアンフェアさだが、感じる恥ずかしさはイーブンだ。心置き無く、これからもこっそりお義母様からサディオ様情報を入手していこう!と心に決めた。


こなした課題の数で情報のレア度が決まっている気もするけれど。両公爵家の母の掌で転がされている気はするけれど。気にしないで、全力で転がろうと思った私は淑女街道爆進中だ。

サディオ様が留学から帰ってきたと知らせを受けて、噴水に落ちるくらいは許される淑女なのだ。





そして私の愉快で幸せな生活語りから、やっと冒頭の話に戻れるのだが。



噴水に落ちて気づいたのである。


ざまぁは私がされる事になる──と。



「え?マジか??」

起きた瞬間、淑女らしからぬ呟きがでたのも許して欲しい。

何故、私が、サディオ様と言う最愛の婚約者がいるこの私が、どういう理由で断罪されなければいけないのか?!

落ち着いて考えて欲しい。何故なのか。いや、マジで。



理由は人生2度目の噴水落ちで走馬灯のように見てしまったので、種明かしは容易だが、まずはこの悪役令嬢の話からもう一度整理したいと思う。




大筋は高飛車・独りよがり・劣等感・第一王子と平民上がりの腹黒・浅はか・あざとい・男爵令嬢のありがちな身分差の恋だ。


主に貴族が通う15歳から18歳の3年制の学園で、第一王子と同学年の男爵令嬢がイチャイチャする。2年後2人が最終学年時の無法地帯と化した学園に婚約者が入学し、現状を知り苦言を呈す。

しかし、時すでに遅く、逆に虐めと騒がれ断罪される。最後の1年は障害がある分、燃え上がる2人、なんともなイカレポンチ具合だ。


卒業パーティ時には、例に漏れず騎士気取り次男、飾りメガネ三男、商品貢ぐ君の3人も一緒に加わる。



断罪にも凛とした姿で立ち向かう悪役令嬢は、密かに想いを寄せ見守っていた隣国の第二王子に助けられ、その後求婚される。

余談だが、この逆転劇は小説化され舞台化され、国民に周知される事となる。





そして、何故か私は婚約者でもないのに嫉妬で男爵令嬢を虐める悪役令嬢ポジション。



え?なんで?

そうなるわよね。私もそう思う。

そしてもう一つ。


今回の逆ざまぁは学園を巻き込む──と。


そう、私は由緒正しき逆ざまぁ悪役令嬢なのだ。多分サディオ様と婚約したことにより、隣国の第二王子の出る幕がなくなり、代わりに学園の皆が代わる代わる冤罪を晴らしていく。────大団円!!



本来なら、第一王子の婚約者から隣国の第二王子の婚約者になるはずだったので、二国を巻き込んでの大騒動が学園を巻き込んでの大騒動になるならば規模は小さいかもしれない。..............かもしれないけれど。



悪役令嬢転生の神様っぽい何かはどうしても私を逆ざまぁさせたいらしい。ブレている、ブレブレである。王道から離れてでも逆ざまぁさせたいらしい。

何度でも言おう。


え?なんで?

ざまぁも、逆ざまぁもしたくないっていいましたよね。見世物になりたくないって頑張ったの見てたよね?────ね!



もう逆ざまぁ悪役令嬢って言うよりは、神様のようなものにお告げを受け、振り回される不運な可哀想な令嬢だ。.........ナンテコッタ。



転生したのに、日本食を作らなかったから?ハーブと蜜蝋で石鹸を作らなかったから?と、つい皮肉を言いたくもなる訳だ。





なににせよ、まずは家族で話し合いだ。


転生の事?勿論、打ち明け済みだ。何せ我が家は溺愛仲良し幸せ家族なのだ。

「あ、私、生まれる前の前世の記憶があるみたい。」

って、夕食の魚料理が美味しくて、何故かポロッと口から飛び出た2年前。

「それはすごいな。」

「まぁまぁ、楽しそうね。」

「俺も実は闇の囁きが聞こえるんだ」

説明するまでもないが、発言は上からお父様、お母様、弟だ。

弟は10歳にして、もう罹患したらしい、お姉様は貴方を温かく見守るわ。ずっと忘れない、ずっとね。



お見舞いに来てくれたサディオ様も是非と参加してもらう。夫婦になるのだ、頼りたいし頼られたい。

まずはお告げ?の内容を伝える。入学から殿下と愉快な仲間たちに目の敵にされる事、卒業パーティ時にお粗末すぎる断罪をされる事、学園の皆が助けてくれる事。


「いいお友達が沢山できるのね。」

お母様が笑顔で言っている。お母様、いい着眼点!私も学園自体は楽しみで仕方ない。

そして10分足らずでお父様はまたも自供した。最速自供タイムだ、まだ2回目だけど。



「どうでも良いと思って言わなかったが、殿下の初恋はベガらしい。」

......思ってたよりどうでもよかった。

お父様曰く、運命のお茶会前に殿下は私を見かけたらしい。お父様の登城について行った時だそう。そして一目惚れした殿下は、2人で会うのが恥ずかしく、王妃様にねだってお茶会を開いたようだ。それを未だに拗らせまくっているのではとお父様は締めくくった。



........殿下が根性無しで良かったとそこだけは神様に感謝を捧げたい。でも神様?に振り回されてるから、やっぱり感謝はしなくてもいいかもと迷うところだ。


しかし、2人でお茶会だったら、集団に混じって黄色い声も出せなかったし、他のご令嬢を押しのける事も出来ず、完璧な演技と演出は到底成し遂げられなかった。これだけは言っておきたい、殿下、ナイスヘタリ!





そんな感じで喧々諤々。

「卒業パーティの見世物大団円阻止、殿下と愉快な仲間たちに精神的苦痛を」とまたもやふんわり、不敬ギリギリアウトの方向性が決まった。



サディオ様からは「こんなタイミングで渡す予定ではなかったんだけど、ゴミ虫避けになれば」と顔と言葉は一致するけれど、表情はものすごい可愛い照れ顔で、ピアスを渡された。


私の好きなラナンキュラスの花に小さいアレキサンドライトの石がついている。陽の光ではサディオ様のエメラルドの瞳の色に、夜の灯火の光では私のルビーの瞳の色に。

シンプルで、私の黒髪にも良く映える、センスが光る逸品。

サディオ様のピアスはラナンキュラスの葉に同じ石が付いていて、私のものとペアになる。

「私と君の瞳の色だよ」って、もう──大好き。大好きすぎて、ロマンティックが止まらない。




........殿下の瞳もエメラルドだけど。それは記憶から抹消することにした。





手始めに学園への働きかけである。

荷物は自分で管理、自己責任。の校則の追加と共に、机の引き出しは鍵付きにする。

勿論鍵はロレンシーネ家公認複製不可の鍵である。失くした場合は貴族子女平均のお小遣い3ヶ月分の罰金、ローン可。


放課後は申請式で居残り可能。その分申請さえすれば、どの教室や部屋でも使用可能。正しい申請手続きには学園のカフェの飲み物券1枚進呈。


全てロレンシーネ家持ち。もってけドロボーロレンシーネ家持ち。勿論、お母様のスリーサイズ位、極秘裏に行う。



権力は使うためにあるとお父様がいいました。

お金は使わないと巡って行かないのよとお母様がいいました。

闇が騒がしいから、姉さんも気をつけてと弟がいいました。



学園長が、生徒一人一人が物を管理する自覚が出ると喜んで、学園主任が僕もカフェ券が欲しいと悔しがりました。お母様は変わらずにこにこしている....7年前と変わらない若さがちょっと怖い。


ロレンシーネ家はカフェ券配給の為に没落出来なくなった為、弟には病をそろそろ治して欲しい、姉心。



定番の教科書破りぃ〜と放課後貴族の心得呼び出しぃ〜への対策を整えつつ、まだ手を弛めてはいけない。何せ1年間あるのだ。準備だけで満足しては行けない。



次はクラスメイトの協力取り付けだ。

入学式前に「学友になるから、皆さんで交流しませんこと」と、クラスメイト20人にお手紙書いた。クラス分けは大体爵位の高さで決まる。爵位が違いすぎるとね!下の子たちが萎縮しちゃうしね!学園は優秀な平民も通うしね!萎縮しちゃうしね!お茶会やら夜会で会わないこともあるしね!



私は公爵令嬢なので勿論1組。

流石、貴族の子女。読まずに食べた人は誰もおらず、入学式の3日前にお茶会が実現した。




ちなみにあの運命のお茶会で、ナイスガッツと目で伝えてきたマリシア・タランチーネ侯爵令嬢とは、今じゃすっかり仲良しズッ友状態。


あのお茶会は主役逃走という混乱でしりすぼみ的に終わったけれど、その機に乗じて、日持ちするお菓子を王宮から持ち帰った猛者でもある。

次の日に、お手紙出したら、すぐに返事と共に本人と菓子が来た。こいつやりよる!と思って一緒にお菓子を頂いたけれど、家のお菓子の方が美味しかった。マリシアも「大したことないわね」って、言ってたし。持ち帰って来たくせに。




さて、20人のなかなか高位の子女のお茶会だけれど────私は話した。


もう、恥も外聞もなく話した。

時折身振り手振りを加え、抑揚をつけ、侍女のネネが合いの手を、執事のジョーダンがトライアングルを打ちながら、とにかく話した。



運命のお茶会から遡って話すこと小一時間。2杯目のお茶が空になって来た頃。

ロレンシーネ劇団の熱が伝わったのか、クラスは団結した。私が第一王子と愉快な仲間たちに極力接触しない様に皆で連携していく方向性で。



全員、お茶会やその他で殿下に接触したり、兄姉から学園の様子を聞いたりしたようで、あれは無いわと思っていたようだ。

別に不敬なことをする訳でもなく、クラスメイトを不条理から守るためのノブレス・オブリージュだ!と何故かすごく団結した。派閥とかその他しがらみも考えず、動ける貴族の子女、素敵!



そこそこしか仕事出来ない人が王様だけれど、いい国に生まれてよかった。



ところで、ノブレス・オブリージュ....使い方あってるのかしら?って、思っていたら、マリシアだけは、何が面白いのか笑いすぎてお茶を吹き出しかけ、慌てて扇子を広げ、突き指してた。






そして迎えた学園生活。

入学式にすれ違いはしたものの──すれ違いざまに殿下の舌打ちと男爵令嬢の痙攣はあったけれど──概ね、会わずに過ごせている。



「3時の方向、アホと痴女接近中」

「了解。9時の方向から変態メガネと脳筋接近中」

「了解。ベガ様は誘導し、迂回させる。」



不敬って、本人に言わなきゃありなの?もう呼び名が変わってない?と感じる昼下がり。


日に日に護衛も真っ青な実力のクラスメイト達の鉄壁のディフェンスに、高位の貴族の矜恃とポテンシャルを感じながら、楽しく1年何事もなく過ぎ、卒業式も無問題──────と思っていた時期もありました。





「まさか、あそこまでとは......」

敗北感をあらわにするシュテッド伯爵令息。


「黒色をみたら反応する呪われた哀しき怪物かなにかなの....」

悔しさを滲ませるトライツァー辺境伯令嬢。


「呪い.......私の呪いの力がもっと強ければ.....」

弟が夜中に呟いてたセリフと同じことを言うガンフェール侯爵令息。


「もう、残り期間だけでもベガに布被せて過ごさせればいいんじゃない?」

笑いながらお茶を噴き出しかけるマリシア。




今クラスは卒業パーティを1週間後に控え、意気消沈し、異様な雰囲気を出していた。理由は単純、あのアホ殿下と愉快な仲間達だ。


面と向かって対峙する事は避けられていたものの、窓越しのニアミスや、後ろ姿を目撃されるなどやはり完璧に存在を消すことは出来なかった。


その結果

「横顔が私の関心を誘っている。」

「黒い髪が怖くて、虐められた気になる。」

「残り香で誘惑してきた。」

「学校でこれだけ会わないのは逆に不自然、なにか企んでるに違いない。」

「いや、企んだに違いない!」

となってるらしい。




卒業式の3ヶ月前から階段には護衛を配備して、ご希望の女生徒には階段の昇り降りだけのエスコートサービスをつけ、階段だけでもお姫様気分と好評をはくしたのに。



クラス皆で、社交に社交を重ねに重ね。人脈からアホ達の自室の机3段目鍵付きの引き出しからポエムを盗み出し書き写し、出版してばらまいて、匿名でそれぞれに送り付けたのに。3段目の鍵付き引き出しは殿方の決まりなの?って思ったりしたのに。



男爵令嬢の顔さえ知らないのに。そう言ったらマリシアが似顔絵を描いてくれたけど、目と鼻と口があって、口がめちゃくちゃ赤いのだけはわかったのに。



サディオ様とも何度もお忍びデートして、街でやっぱりお忍びデートしてるクラスメイトに会って、お互いちょっと照れてしまったりしたのに。



弟が突然「闇とか、別に関係ないから!」と言い出して、病気が治ったとお父様とお母様とネネとジョーダンと手を取りあって喜んで、「祝・闇との別離」って、お祝いしたりしたのに。



1年を楽しくご機嫌に過ごしてきただけなのに.......本当に楽しかった、クラスメイトの皆とも共通意識の中、楽しく、ズッ友になった。来年も楽しく過ごしていこうと思う。




真っ向からフラグをへし折る前にそもそもフラグを立たせない!を信条に歩んできたこの道。

お友達も沢山できて、大好きな社交もできて、なのに、まさかの「企んでたに違いない」ってなに?連ドラの探偵が事件解決しちゃう系の空回りする刑事だって、もう少しまともなこじつけで冤罪するよ!




負けた。完敗だ。

悪役転生令嬢界隈の神様っぽいなにかに完敗した。




余談だけれど、1学年上のアホの婚約者のご令嬢は、アホにさっさと見切りをつけ王妃教育を放棄したのにも関わらず婚約解消する前から隣国第二王子と逢い引きしてるらしい.....解せぬ。




もうここは大人しく逆ざまぁされるしかないのだろうか。



逆ざまぁ中、クラスの皆が無実を訴える中、私は学園生徒全員と卒業生親族とやはり親族枠の両陛下にどんな顔をしていれば良いのだろうか。

ドヤ顔だろうか。

目に涙を貯めればいいのだろうか。

それとも、凛とした顔だろうか、そもそも凛とした顔とはなんだろうか。もう絶対に凛としてても目が泳ぐ気しかしない。




「貴女、あの時凛としてたけれど、目が泳いで可愛かったわ」と知り合いのおば様達に言われる気しかしない。



死ぬまで「ああ。あの逆ざまぁしたご令嬢(ご婦人)ね。」って、言われる気しかしない。



市井で「悪役にされたご令嬢の逆ざまぁ物語」って、本が販売されてベストセラーになる気しかしない。



娘が孫に「お祖母様は昔逆ざまぁしたご令嬢なのよ、あなたもお祖母様に負けない淑女になりましょうね」って、言ってる光景が繰り広げられる気しかしない.....微笑ましい。




「死ぬまで逆ざまぁした令嬢と呼ばれるなんて....なんて恐ろしい。」

いつの間にか全て声に出していた私の話を聞き、ザックマーニー伯爵令嬢が身震いを気を失いかけている。婚約者のガンフェール侯爵令息が咄嗟に抱きしめている。

私もサディオ様となにもかも忘れてイチャイチャしたい。




「手がない訳では無いわ。逆ざまぁをさせないだけなら。ベガも思いついてはいるでしょ。」

さっきまで笑ってお茶を噴き出しかけていたマリシアが妖艶に微笑んだ。何故、この時、この場所で妖艶さを演出?!と思ったけれどスルーした空気の読める淑女とは私の事だ。


マリシアの言葉をきっかけに計画の修正を試みるのであった。





計画は2段階で行う。

1段階目で終わればそれでよし。

ダメなら2段階目に移行する。

2段階目ははっきり言って捨て身の作戦に近い。あまり使いたく無い手だが、アホの身になって考えられないのが口惜しい。皆で知恵を絞って、アホ殿下と男爵令嬢の真似をしながら寸劇風に推理したけれど、気品と知性が漏れだして、なりきることは叶わなかった無念。



大筋はざまぁをさせる隙を与えず。有耶無耶にして混乱に乗じてきちんと卒業生を祝うだ。本当にね、卒業パーティをなんだと思っているのか、お前達だけのパーティじゃないと言いたいが、耳では聞いても頭で理解出来ない哀しい呪いがかかった生き物達なんだと思う事にする。





──さて運命の卒業パーティが始まりである。

予め在校生、親族が控えている大広間に名前を読みあげられながら、卒業生が入ってくる。申請すれば、卒業生同士ペアで入ることが可能だ。同じ歳の婚約者はそこまで多くないので、1人ずつが多い。



ほぼ入場が終わった頃、俄に会場が騒ぎ出した。

理由は勿論、第一王子と婚約者でもない男爵令嬢がペアで入ってきたからである。

騒いでいるのは、親族が主で、卒業生は既に目が死んでいた。ご苦労なさったんですね、先輩方。



注目が集まっていることを察してか、第一王子はぐるりと会場をドヤ顔で一瞥すると、男爵令嬢の腰をグッと抱き寄せた。周りにはいつの間にか愉快なトリオも侍っている。

そして1度大きく息を吸い込んで────。


「今日「僭越ながら殿下、在校生としてお祝いを述べさせて頂きたく存じます!」........申してみよ。」

先鋒・シュテッド伯爵令息が被せた。



「だが、しかし、まず「今日この場で殿下の卒業を祝える栄光を与えられ感激しております。」...........そうか。」

次鋒・ガンフェール侯爵令息が負けじと被せる。



「今日「この良き日に、隣国から留学に起こしになられている第二王子殿下からお話があると伺っております。」.......聞いていないが。」

中堅・ザックマーニー伯爵令嬢が婚約者に続けと被せた。



「しかし、先に「今ご紹介頂けたので、1つお話がございます。今日は両陛下も居られる場、発言をお許しください。」........。」

副将?・隣国第二王子が空気に飲まれて被せてきた。



第1段階の計画「いわせねーよ」である。

もう不敬という前に、無礼である。

ただ、場数を踏んできた高位貴族の子女である。堂々としている。すごく堂々としている。堂々としすぎて皆「ま、いっかー、学生だしね」と場を支配するほど堂々としていた。


陛下はえ?今日、私、ただの父兄参観なんだけど、めんどくさいなーと顔全体で表現しながら「是」と言うように頷いた。面倒臭いなら息子連れて下がるのが1番手間かからないよ、陛下、割と切実にお願いしたいです、ダメですかね、ダメですね。



「ありがとうございます。リズ、こちらに。」

「はい、殿下。」

「私、この国に留学をし、多くを得ることが出来ました。中でも1番は真実の愛を見つけた事です。ここにいるリズ・スティラー伯爵令嬢こそ、私の真実の愛です。陛下にお願いがございます。第一王子殿下とここにいるリズ・スティラー伯爵令嬢との婚約を解消していただき、私とリズの婚約のご許可を頂きたく思います。」


長い!厚かましい!びっくりするほど厚かま長いかった!


発言を聞き、フロアがしんと静まりかえり、かなりの人がひいている。なんなら物理で3歩程下がっている。私もつい2歩下がった。

1枚噛んだ人間という責任感から2歩で耐えた。


クラスメイトも2歩で耐えているが、自慢のお茶を出されたけれど、虫が入ってしまい、なかなか言い出せないままキラキラした目で感想を求められるお茶会でにっちもさっちもいかなくなった様な表情をしている。


第一王子、自分が出てきて、肩ビクって、なってるし。伯爵令嬢見て、誰?て顔してるし。あ、変態メガネが「貴方の婚約者です」てまぁまぁ大きい声で耳打ちした。今度は殿下耳キーンてなってるし、婚約者って言われて私見るのやめてくれないかな、本当。なんで私だと思ってるの?えっ?ずっと思ってたの?



確かに少しお話しました。卒業パーティの場を借りてお二人の関係をはっきりしたらどうかと言いました。

この場で、伯爵令嬢と共に面会を申し込み、匂わせてからの別室で陛下と話し合いはどうかと言いました。

その混乱でざまぁからの逆ざまぁを凌ぎきれると思って言いました。下心しかありませんでした。


そこに嘘はありません。あるのは言語と常識の隔たりでした。伝わらなかったかぁ.....

私と仲良しお父様でさえ言葉の齟齬が生じるものねぇ........

第二王子も死亡率32%(ベガ調べ)「シンジツノアイ病」に罹った人だったね。




......運命のお茶会、本当に潰しておいて良かった。




「静まれ」

陛下がやっと重い口を開く。

いや、引きすぎてずっと静まってます。会場にいる人達は残像で、もうフロアには誰も居ないんじゃないかって言うくらい静まり返ってます。陛下、見えてるよね?聞こえてるよね?



「その話は、別室で行う事としよう。卒業パーティを始めようではないか!」

「父上!私からも1つよろしいでしょうか!」

「..........今じゃないとダメなのか?」

「はい、この場でないとダメなのです!」

「..........申してみよ。」

「まぁ、なにかしら、楽しみね!陛下。」


まだ間に合うと強引に仕切り直しをはかる陛下。

親の心子知らずで追いすがる殿下。

空気を読まない王妃。

もう、本当に嫌だ、この親子。さっきの騒ぎの後にまた騒ぎの予感しかないのに、なぜ許可だすの。陛下はそこそこ仕事が出来るじゃなく、仕事出来なくもないに看板変えて欲しい。



素っ頓狂で愉快ではた迷惑な王家に翻弄されつつ、第1段階では食い止められない事を悟る。




ここからは私の出番、第2段階に突入である。

ロレンシーノ家のお父様、お母様、弟には権力、財力、闇力を使って沢山協力してもらった。

クラスの皆には「警護対象を護る騎士みたいで、ベガ嬢を1日アホ達から護る達成感ってクセになりそう」と楽しんで協力してくれた。



今こそ私が踏ん張る時である。



「ベガ・ロレンシーネ!!」

まずは、無視である。ベガ・ロレンシーネなんて知りませんよとすっとぼけ無視である。

「ベガ・ロレンシーネ! ......貴様だ!」

「あら、私の事でしたのね。失礼を致しました。」

指を指されたので仕方ない。あまりここで溜めると記憶に残る、見極め大事。


優雅になるべくゆっくり陛下に近づき、4人と対峙する。多分この時の私は凛としていたと思う。凛とした私、綺麗だろうな、なにせ凛としてるし、お父様似の美少女だし。

初めてハッキリと顔を合わせた痙攣してる男爵令嬢は目と鼻と口があり、口はピンクだった。マリシアの嘘つき。



「貴様のあ「まさか、殿下、ご存知でしたの?」.......当たり前だ!」

大将・私ベガ・ロレンシーネが凛として被せる。

1組クラス特殊スキル、言わせねーよ発動!



「貴様がおこ「まさかご存知だなんて、私恥ずかしいですわ。」......そうであろう!今更言い逃れは出来んぞ!」

特殊スキル2コンボ!まだ、私凛としてる。

マリシアの肩を小刻みに揺らしながら「貴女、すごい凛としてるわよ。凛々煩いくらいよ。」って、目で語ってる。



「言い逃れなんて、そんな。」

「ベガ、殿下の折角のご好意だからね。」

ここで、まさかまさかのサディオ様登場である。卒業生の婚約者の従兄弟の親戚の為、親族枠での参加なのだ。まさか、その申請で通ると思わなかった。



「誰だ、貴様!」

「ご挨拶より、発言が先に出てしまい申し訳ありません。サディオ・インテシーク、インテシーク公爵家の嫡男です。」

「なぜ、貴様がここにいるのだ。」

「去年の卒業生ですので。」


嘘である!

すでに卒業した者が卒業パーティに参加することは出来ません。しかし、サディオ様が堂々と言い切っている。堂々としていれば、無理は通る──今日はそれを証明した世界的な1歩ではないだろうか。

この国の貴族の老老男女、ほぼ全員が卒業生なので、すごい規模の参加人数になる。由緒正しきマンモス校を甘く見ないで欲しい。



「では、なぜ、ベガの隣に来たのだ?」

「ベガ・インテシークは私の妻ですので。」


ハッタリである!

まだ入籍はしてはいない。男性が卒業していれば、基本籍を入れてもおかしくない貴族社会。籍を入れたと言ってもセーフ中のセーフである。



2段階目の計画は、そう、今名指しされた理由をふたりのめでたい門出を殿下が何故か祝うということにすり替えるのだ。

ベガ・インテシーク、えへへ、こそばゆいけど嬉しい、ベガ・インテシーク、えへへ。

小さくパチンと扇子がなって「凛々が崩れたわ」とマリシアが目で言っている。危ない、危ない。



「なっっっ?!」

「先日籍を入れましたまさか殿下が既にお知りでお祝いの言葉をいただけるとは婚約して6年ですが恥ずかしながら妻のベガが綺麗すぎて心配なのです予想がつかない行動をとる者もいますしね綺麗な黒髪や残り香で誘惑されたなどゴミの様な理由で迫る輩もいると聞いていますし私も学園を卒業してから1年経ちました公爵家の仕事も覚えてきましたまさか殿下が一家臣の婚姻にそこまでお心を砕いてくださるとは.......

──ありがとうございます。でも今の主役は卒業生の皆様です。私達は下がりましょう。音楽を!」



サディオ様の息継ぎなしの長台詞に驚いたのか、堂々とした姿に見惚れたのか、噛まずスラスラした話術に感銘を受けたのか、サディオ様のあまりのカッコ良さに禁断の扉を開きかけたのか、サディオ様が言葉を被せず発言したのに感動したのか、殿下達はポカンとしている。造作は整っているのに滲み出るものがアレなので、アホ面待ったなし正統派アホ面を晒している。



殿下達の不可解な行動に慣れすぎていたのか、そもそもどうでも良いのか、音楽に合わせて、卒業生の皆様が躊躇なくフロアに出て、優雅にダンスを踊り始める。皆様、キラキラして綺麗。



殿下達はその波に飲まれ、そのまま隣国第二王子の爆弾発言の話し合いの為、回収されていった。




こうして、逆ざまぁ阻止計画は沢山の人達の努力に助けられ、幕を閉じたのである。





その後────

隣国第二王子とリズ・スティラー伯爵令嬢は「シンジツノアイ病」という事で、唯一の治療方法の「平民の暮らし生活体験」を試し、3年間治らないようなら、治療不可能と診断され、適当な爵位を与えられ結婚を認められるらしい。ハッピーエンドが大好きな私としては、是非治療を跳ね除けていただきたいと思う。



ついでの感じで回収された、殿下と愉快な仲間たちは、実行しようとしていた事の余りのくだらなさに逆に処分が紛糾したらしい。



加え、殿下と男爵令嬢は「シンジツノアイ病」にかかっている事が発覚。とりあえず隣国と同じ治療法を10年間試すようだ。治療経過を記録に残すため10年きっちり続くらしい。途中でぶり返す可能性もあるしね。治療不可能なら男爵家に婿入り、快癒していた場合はその時考えるようだ。



まるで出番も存在感もなかった3人は「アナタノシアワセノタメナラ症」を発症しているため、治療方法「自分だけの愛を探す旅」、自力で諸国漫遊に出されるようだ。探し出せたら、帰国後、「愛の試練(メイド達による黒歴史の暴露話)」を受け、試練に乗り切った後は各家に任せるらしい。

存在感薄かった割に、ようやく見つけてきた好きな人に黒歴史の暴露をされるというある意味1番厳しい罰を受けることになった3人には少し同情をしてしまった。

可哀想なので、以前出版したポエム本で、3人の内、誰がどれを作ったかきちんと明らかにした原本を侍女に渡しておいた。

作ってもいないポエムを読まれるのは理不尽だしね。




王族とそこそこ高位の令息が、表舞台から消えたのだが、意外と国全体は変化ない。

王家も貴族も所詮国の歯車。人材が欠けてもまわる国の仕組み、プライスレス。

まぁまぁ仕事が出来そうな雰囲気を出している第二王子が近々立太子する予定らしい。




そして籍を入れたと言い切ったサディオ様と私は両家に説明したが、事後承諾になった事を怒られただけで、お咎めはなかった。父親だけ、涙目でサディオ様を睨んでいたけれど。



陛下に呼ばれ

「.......なんか、息子がまた......なんか、本当にすまんな。」

と言われ、怒りの矛先が陛下に向いたらしく、禿げる呪いではなく、禿げ散らかす呪いを研究している。




卒業パーティーは、恐ろしい病に罹った若者たちの茶番として参加者の記憶に残ることになった。

ただ誤算があるとするならば、お茶会や夜会で会うおば様達に「すごく凛としてたわね!」と時々言われるようになったことだ。


籍だけ入れたものの、生活は変わらず、私の卒業を待ってから披露宴とインテシーク家へ移ることになった私は、仲良しのクラスメイトと、笑い上戸のマリシアと楽しく学園生活を過ごしながら、サディオ様のギャップに悶えて暮らしている。



ずっとこのまま、みんなで幸せになる予定だ。まだ見ぬ、産まれるであろう子供を思いながらベビーベッドでも手作りしようかと思う今日この頃。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ずっと忘れない、ずっとね。 この文章、好きです。 [一言] 初めまして、夕凪です。 面白かったです。 回避方法が現実的なようで創作的なようなよくわからないラインなのがとても好きです。 …
[良い点] 闇オチした弟くんとご学友たちの話を読みたいでっす!
[一言] 発病して黒歴史が出来上がった弟君が可愛すぎ(笑)
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