お菓子を常備しています。
どこかに隙はないかと視線を巡らす。その間にも彼女達の暴言は続く。
「貴女みたいな出来損ないがこの学園にいること自体許せませんわ」
「まったくですわ。ほら、神崎さんもお菓子ばかり食べてないで何か言ったらどうです」
取り巻きの内の一人がゆるふわっ子に声を掛ける。彼女は飴をガリガリと噛み砕くとつまらなさそうに首を振った。
「え〜、それよりもぉ、風深屋に出来た新作スイーツ食べたぁい」
「貴女はいつもそればかり……ちょっとは氷華さんの為に動こうとは思わないんですの」
取り巻きがゆるふわっ子を睨みつけるが彼女はまた新しいお菓子を出して食べるだけだった。
「全く、仕方がありませんわ。私達だけでこの愚か者に制裁を下しましょう」
「そうね」
「ええ」
そう言って三人がジリジリと寄ってくる。
その時、男性の声が彼女達の動きを止めた。
「お前達! そこで何してるんだ!」
「ッ! 行きますわよ!」
向こうから体育教師である松本先生が走ってくる。取り巻き達はゆるふわっ子を残して、一目散に反対側へと走り去ってしまった。
残された彼女は動じることなくお菓子を貪っていて、少し感心してしまった。
「何してたんだ」
息を切らしてやってきた先生はゆるふわっ子をじっと見る。
「さっき見た時、如月を取り囲んでいるように見えたが、何をしていたんだ」
「えぇ〜、眞紘のこと疑ってるんですかぁ。お菓子食べてただけなのにぃ?」
「そのお菓子食べるのをやめなさい! 全く、如月、大丈夫か。どこか怪我はないか」
「あ、はい」
ゆるふわっ子のお菓子を取り上げて、松本先生は私の方を見てくる。無事なことを確かめて、松本先生は困ったように言った。
「体育館の裏だと人気がないから悪さする奴がいるんだよな……見回るようにはしてるけど。如月、本当に大丈夫か。確か、二組は樋野先生が担任だったよな。このことは樋野先生に伝えておくから」
「あ、大丈夫です。特に暴力とか受けてないですし」
私は慌てて止める。大事になって柚月さんに迷惑をかけるのが嫌だったからだ。
松本先生はいやでも……と渋っていたが、ゆるふわっ子の「終わったなら帰ってもい〜い?」という発言に目尻を上げた。
「神崎! お前はまたお菓子を食べて! どこに隠し持っていたんだ!」
「えぇ? お菓子を忍ばせるのは常識でしょ〜?」
「忍ぶ気があるならもっと隠れながら食べろ! お前はいつもいつも目の前で菓子を食いやがって、教師を舐めてるのか! 指導室に来い!」
「やっだぁ! 女子生徒捕まえてナニを指導するんですかぁ? 先生のえっちぃ〜」
「うるさい!」
きゃっきゃ、きゃっきゃ。
片や笑って、片や怒って。私の存在など忘れられてしまったかのように二人は去っていく。
呆然と去っていく背を見守っていると、ゆるふわっ子が振り向いて、口をパクパクさせた。
『またね』
多分、そう言ったんだと思う。
彼女は直様向き直して、指導室へと連行されてしまった。