お嬢様との秘密!
突然の申し出に慌てつつ、私は、でもと問いかけた。
「他のクラスの人達から慕われているようでしたけど……」
「ああ……あの方達は私ではなく家の方に興味があるだけですわ。私に気に入られれば後ろ盾がつき、今より自由に振る舞えますからね」
そう言って彼女は目を鋭くさせた。蔑んだ視線はここにはいない人達を見ているのだろうか。
黙っていると、私が怖がっていると勘違いしたようで、瞬時に笑顔に戻った。
「やはり私とお友達になるのは駄目……ですか?」
困ったように眉を下げて、此方を見詰めてくる。
私の脳内では、奏悟が険しい表情で彼女に近付くなと言ってくる。しかし、それより上回るのは先程見た彼女の横顔だった。困った表情の、他人を思いやっての感情。そして一瞬だけ過った、教室の中で一人ぽつんと席に座る彼女の後ろ姿。
……すでにこの世界は私の知っているゲームの世界とは違う。悪役ポジションだから、悪い人だとは限らない。
そうだよね?
「……いいですよ。お友達になりましょう」
すると李紅は表情を明るくさせた。
「本当ですかっ。嬉しいです! 杏香さんとお呼びしても?」
「ええ」
「ありがとう、杏香さん! 私のことは李紅でいいわ! 私は家の者に知られると厄介だからこのままでいきますけど、敬語とか振る舞いとか気にしなくていいですからね!」
余程、嬉しいのだろう。李紅は私の手を握って跳ねる。
「それなら、二人だけの時は李紅も自由にしよう」
そう提案すると李紅は大きく頷いた。
「だったら、私も杏香と呼ぶわ! 二人だけの秘密ね!」
うふふと上品に笑う彼女に釣られて、私も笑う。
暫く二人でこの嬉しさを味わった後、残りの昼食を胃袋へと片した。ものの数分であれだけあったおにぎりやパンを食べ切った李紅は満足げに手足を伸ばして寛いでいた。
遅れて私もおにぎりを完食すると、待っていた李紅がねえと声をかけた。
「佐藤さんのこと避けてるようだけど、何かあったの? あ、言いたくないなら言わなくていいわ。杏香が望むならさっきみたいに妨害してあげるわよ」
その提案は有難いが、いつまでもこんな態度をとっている訳にもいかないだろう。私は緩く首を振って遠慮した。
「いいの、私が勝手に癇癪起こしただけだから」
「……そう?」
心配そうに見詰める李紅を見て、彼女にならいいかなと今朝のことを話した。
「……そう、杏香は佐藤さんに裏切られたと思ったのね」
ゲーム云々の話は隠して伝えると、李紅は少し悲しそうに目を伏せた。
「これは私が勝手に思い込んでいただけだから、奏悟は悪くないんだよね。寧ろ悪いのは避けまくっている私の方……」
「いいえ、そうだとしても杏香は悪くないわ。裏切られたと思う程、彼のことを信用していたのでしょう? それ程までに彼に心を預け、彼にも自分に心を預けて欲しいと感じていたのでしょう?」
李紅の言葉に私は息を詰めた。全く以てその通りである。