これで明日は購買だ!
家に帰ってから取り出してみた茶封筒には千円札と小銭が数枚入っていた。
これで明日のお昼ご飯が買える。
食費に消えるとはいえ、初めて貰う自分のお金になんだか嬉しくなる。いそいそとお金を財布にしまうと、私は柚月さんと一緒に晩御飯を食べつつ今日のことを話した。
「……それでね、渡された服が可愛いんだけど、ヒラヒラのフリルがいっぱいで全然似合ってなかったんだ。でも灰藤さんは気を利かせて似合ってるって言ってくれたの」
「そうなの? ふふ、見てみたいわぁ」
初めての体験を語るということで興奮した私は砕けた口調で語っていく。嬉しそうに語る私に釣られてか柚月さんもニコニコと話を聞いてくれていた。
「そう言えば、お屋敷は凄い広かったよ。白銀家ってお金持ちなんだね」
「そうね、古くからあるお家だからね。事業も失敗したことが殆ど無いっていうし……私達じゃ想像もつかない世界よねぇ……」
「よくそんな凄い家で働くことが出来たよね」
ふと思ったことを口にすれば、柚月さんは苦笑いを浮かべた。
「まぁね……」
それ以上は何も言わず、お茶を飲んだ。あまり言いたくないことなのだろうか。話題を間違えちゃったかなと反省しつつ、私も食事を続ける。
そこから空気が悪くなるということはなく、他の話題で盛り上がりつつ、のんびりまったりとした食事を楽しんだのだった。
翌朝、いつも通りに起きて迎えにきた奏悟と共に登校する。ただ、いつもと違ったのは奏悟の表情だった。
普段の優しげな顔ではなく、眉を顰めて口をへの字に曲げたなんとも分かり易い表情だ。
どうしてそんな顔をしているのか。訊かなければいけないのかな。いけないんだろうな。
関わるの面倒臭そうだなぁ……と、渋っていると痺れを切らした奏悟が自ら言ってきた。
「どうしてバイトするって教えてくれなかったのさ」
「……それか」
どこから情報を仕入れたのか知らないが、奏悟は怒っているらしい。
怒っている顔も格好良いんだなとわざと意識を飛ばしていると奏悟が顔を近付けてきた。
「しかもメイドって。そりゃあ白銀家の人達は大丈夫だろうけど、他の使用人達からの嫌がらせとかセクハラとかあるかもしれないんだよ」
「ちょっ、顔近いから! 仕方ないでしょ、私だってまさかメイドとは思わなかったし……それにメイドって言っても掃除したり他の仕事の補助だもの。教えてくれた人も優しい人だったよ」
「……そうだろうね。でも、他の人もそうだとは限らないから、くれぐれも注意するように」
「奏悟ママ」
「保護者だからね」
話を逸らそうと揶揄っても奏悟は真面目な顔で返すだけだった。




