乙女のいる限り。
「二人共、考えは変わっていないようだし、俺も一言物申したいし。一成の父親探しは続行で良いね」
「もちろん」
「ああ」
「東といえば大妖の一族がいたはず……彼等に会うことが出来れば……いや、会っても話を聞いてもらえるか……」
奏悟がぶつぶつと呟く。意気込んだはいいが、どうも次の一手が難しいようだ。そんな私達を見兼ねて翁が口を開いた。
「これに関しては今日明日と解決するものでもない。お主等には耐え難いかもしれぬが、地道に情報を集めることじゃな。わしも何かわかれば教えよう」
「ありがとうございます」
「今日はもう遅い。夜道に気を付けて帰りなさい」
外を見ればまだ明るいが、この間のようにきっと現世は真っ暗なのだろう。
私達は翁にお礼を言い、部屋を出る。庭で寛いでいた犬達は私達の姿を見ると立ち上がって出迎えてくれた。奏悟と一成が先に庭へと降りて、私もそれに続こうとした時だった。
「娘よ、何か、わしに訊きたいことがあるのではないかの」
後ろから翁が声をかけてきた。思わず振り返ると、翁は片眉を器用に上げてみせる。
「……」
ほんの数秒、なんと言えば良いのかわからず黙り込んでしまう。そんな私を気にすることなく、翁は続けた。
「乙女は秘密が多いと聞く。外野のいる前でいうことではなかったの。知りたくなったらいつでも来なさい」
さぁ、お行き。
私は何かを発することなく、翁に促されて縁側から降りる。奏悟達は気付いていないのか、帰りはどちらが前に乗るかで軽く揉めていた。
……今なら私の疑問を、翁は答えてくれるだろうか。
翁の話を聞いていた時に感じた疑問を、私は小さな声で尋ねた。
「乙女が死に宝珠がただの石になってしまっても、再び宝珠が力を取り戻すなんてこと、あるのでしょうか」
「……宝珠は乙女によって力を宿す。宝珠が砕けようと、石になろうと、次の乙女が生まれ覚醒すれば、その乙女の持つ宝珠が姿を現すだろう」
なんと、翁からの答えは予想もしないものだった。
ゲームではわからなかったが、宝珠は乙女によって違うという。ならば、ゲームで登場した宝珠はきっと乙女であるヒロインのもの。彼女にしか扱えない代物だったのだ。
例え宝珠が砕けてもヒロインがいる限り、きっとシナリオ通りになる。漠然とそんなことを考えた。
黙り込む私に翁は軽く手を叩いて注意を向けた。
「わしがいつでも相談に乗ろう。また遊びに来なさい」
翁は優しく声をかけると、そっと手を振って見送ってくれた。
……いつの間に私は犬の背に乗ったのだろう。気付くと夜の湿った風を感じながら、山を降りていた。




