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怒りで震える。


 「顔を、見られたんだな」

 一成の言葉に、翁はゆっくりと頷いた。

 「その名の通り、一つ目の顔を見られたのじゃ。坊はもう己の力を制御出来るじゃろう?」

 「はい。俺は母の血が濃いのか、生まれた時から姿は人と同じ二つの目ですが、力が目覚めてからは感情が昂ると妖の姿に引き摺られて一つ目になっていました。今では殆どありませんが……」

 「うむうむ。仁義も油断していたのだろう。妻に見られ、碌に取り繕うことも出来ぬままここへ来てしまったと。まだ見られた段階であれば誤魔化すことが出来たが、もうそれも無理なほどお主の母は取り乱していた。恐怖、嫌悪、侮蔑、怒り。負の感情に呑まれていた。どんなに仁義が宥めようと無駄じゃった。どうにも顔を見られる前から仁義のことを怪しんでいたようでな。まさか妖だと思っていなかったようだが、何か隠し事をしているのではと考えていたらしい。

 ……仁義の力では見られたという記憶は消せない。妻は夫が妖であると周囲に言っても信じてもらえず、寧ろ心配されるばかり。己の子も妖ではと気味悪がり世話をせず、愛した者からの負の感情にやがて仁義は耐えられなくなり出て行った。残す我が子を好きにしていいと言ってな」

 「そんな……!」

 私は思わず声をあげた。翁は片手を静かに上げ、制止をかける。垂れた眉毛から覗く瞳が一成へと向いた。

 「お主の前で酷なことを言うが、仁義は言葉通り、子であるお主の命が続こうが終えようが全てお主の母に委ねると告げたのじゃ。それはつまりお主を殺しても良いということ。あれだけ願った子を彼奴は連れて行くことなく、あっさりと切り捨てたのじゃ……。世間では母親が育児放棄して仲が拗れての離婚となっているがの。実際は最初から最後まで己のことしか考えぬ小心者のせいじゃ。彼奴が今どこにいるかはわからぬ。しかし、最後に見たのは彼奴がここより東の方へと行く姿じゃ。もしかしたら何か知っている妖がいるかもしれぬな」

 私は途中から翁の話をよく聞いていなかった。

 それほどまでに、身体中が熱かった。これは怒りだ。

 あまりにも身勝手な男は願った命をまるで飽きた玩具のように、塵にように手放した。これを怒らずとして何とする。

 私は震える身体を抑えた。最も怒るべき一成が口を真横に引き結んで耐えているのだ。ここで私の感情をぶち撒けるのは間違いだろう。だから私も耐える。

 二人でじっとしていると、私達の様子を見た奏悟がふと息を吐いた。

 「一成、もし父親を見つけたらどうしたい」

 「全力で殴る」

 奏悟の問いに一成は食い気味に答えた。

 「杏香はどうしたい」

 「目玉潰して金をぶん取る」

 怒りで物騒な答えになったが奏悟は引くことなく頷いた。

 「さすが杏香。でも目はバレるから潰すならバレないところか相手が他人に知られたくないところにしようね」

 引くどころかアドバイスを貰ってしまった。

 さては貴様やったことがあるな? 

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