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津雲さん家の一成くん。


 「……悪かったな、杏香。騙すような真似して、でもさっき言ったことは俺の本心でもあるんだ。大人達は俺の事情を知ると口では可哀想にと言いながら笑っていた。同年代の奴らも大人達の反応を見て、笑っていいものだと影で指差してあることないこと好き放題言いやがった。だから、他人なんて信用ならねぇ」

 先程の感情的な発言から一変、淡々とした抑揚で一成は語った。ゲームでの大人しい感情を抑えているという印象よりは、感情そのものが乏しいというような印象が強い。

 普段からこうなのだろうかと考えていると、奏悟が話に加わってきた。

 「俺と杏香は小さい頃から一緒にいて事情を知ってるからね。一成の為人(ひととなり)を知ってるからこそ、周りの言うことが嘘だってわかるし……。一成にとって俺達は大事な家族だもんね」

 「うるせぇ」

 よしよしと頭を撫でる奏悟の手を一成は容赦なく叩き落とした。なんてことないと、奏悟は普段通りだ。もしや、このやり取りは日常的に行われているのだろうか。

 「とにかくだ。杏香が本気で俺のことを助けようとしてるのはわかった。けど、これは俺の問題だから」

 きっと、関係ないと言おうとしたのだろうが、私はそれこそ関係ないと切り捨てた。

 「え、私は奏悟と一緒に一成の父親探しに行きますけど?」

 「しれっと俺も追加されてた……まぁ、そのつもりだったからいいけど」

 「いや、そうは言うが」

 「行きますけど?」

 「だから」

 「い、き、ま、す、け、ど?」

 何か問題でも?

 強気な態度で首を傾げると、観念した一成が重い溜息を吐いた。勝負は私の勝ちだ。

 「性格は違うが、その強情なところは杏香そのものだな」

 「だよねー。でも、悪くない我儘でしょう」

 一成の言葉に奏悟はケラケラ笑って同意する。咳払いした一成は私に手を差し出してきた。

 「改めて、俺は津雲一成だ。よろしく。それと、俺の親父のこと、探すの手伝ってくれてありがとうな」

 「私がしたいだけだから気にしないで。それと、改めまして、如月杏香です。中身は違うけど、元に戻るまでの間、どうぞよろしく」

 しっかりとお互いの手を握り合う。そこに、奏悟も仲間外れは嫌〜と手を乗せてきた。

 「それじゃ、早速、翁のところへ行こうか」

 「行動が早い」

 「何事も、速い方が良いでしょう?」

 ジュースを飲み干して、私達は家を出ることにした。

 その時に私は、ヒロインが一成の傷付いた心を癒すシーンを思い出した。もし、これで問題解決すればヒロインとのシーンは無くなるかもしれない。

 「……」

 それがどうした。

 ヒロインと一成が付き合うかなんてわからないし、それこそ私の知っているゲーム通りに行くかもわからない。今確実にわかるのは、これ以上放置すれば一成が倒れるということだ。そうなってしまえば、何もかもお終いだ。

 人命優先!

 私はそう結論付けて、ストーリー改変という言葉を奥底に仕舞い込んだ。 

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