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挨拶もそこそこに。


 一成の攻略ルートでゲームを進めていくと彼の母親が何故育児放棄したかわかってくる。それは父親が原因だ。

 彼の父親は一つ目小僧という妖である。成人男性に小僧は些かどうなのだと疑問が残るが、兎にも角にも彼の正体を知ってしまった母親は妖の血を継ぐ一成のことを気味悪がった。父親は自分の正体が知られたとわかると、即座に離婚して故郷へと帰ったらしい。幼い一成を残して。

 ゲームでの己の過去を話すシーンで一成はそんなことを言っていた。そして自分の代わりに泣くヒロインからそっと慰めるように抱きしめられるのだ。


 柚月さんから断片的に話を聞いた翌日、奏悟と共に遊びに来た一成にお互い挨拶を済ますと、私はすぐに彼に説明を求めた。いきなり、不躾だったと思う。しかし、今の私は腹立たしくて仕方がないのだ。ガリガリの一成を見て余計にそう感じた。

 イケメンで年下!

 なんて騒ぐ余裕すらない。

 スチルでは普通の体格だったが、今の彼は骨と皮の一歩手前だ。全く以て不健康である。

 一成は静かに私を眺めるとジュースを一口飲んだ。

 「今までの杏香なら、受け流してただろうけど……本当に違うもんだな」

 大人しそうな外見とは裏腹に、片膝を立てて座る一成はふうと息を吐く。

 奏悟の時もゲームとは違うと感じたから、きっと本当の彼は此方が素なのだろう。

 「ごめんね。でも、流石に見過ごせなくて。せめて養育費が入れば楽になるでしょう」

 「確かにな」

 「でも、一成の父親って、話じゃ故郷に帰ったんでしょう? 故郷がどこか知ってるの?」

 それまで静かにしていた奏悟が尋ねる。一成は首を緩く振った。

 「いや、誰も知らねぇ。本当に故郷にいるのかも、生きているのかさえもわからねぇ」

 「そんな……」

 手掛かり無しでは打つ手がない。一成の母親に金銭を要求しても、彼女も自分の生活でいっぱいいっぱいだろう。おまけに妖の血を引く一成を毛嫌いしている。望みは薄そうだ。

 ううむと唸る。ふと、犬の呼ぶ声が聞こえた気がした。

 「そうだ……翁は? あの人なら何か知っているんじゃない?」

 「なるほど、手掛かりはありそうだね」

 私の提案に奏悟が同意する。

 ポリポリとお菓子を摘んでいた一成は、一気にジュースを呷ると空になったコップを勢い良く置いた。

 「翁ねぇ……で? 会えるかわからねぇ親父に会って、生活に困ってるから金をくれって? 赤の他人のお前が言うのか?」

 「……一成?」

 それまで無表情に近かった一成の顔が嫌悪に塗れて私を見ていた。

 突然の変わりように、思わず身体を後ろに引いてしまう。奏悟は顔色を変えず、静かに一成を見詰めるだけだった。

 「俺を置いて一人逃げた奴が素直に金を貸すと思うか。見た目は杏香でも、中身全く違う本当の赤の他人が、どうしてそう本気になる? 手は差し伸べるが、誰もが深く関わろうとはしなかったんだ。ただその日その日に少しの食べ物を分け与えるだけで、根本的な解決は気付かぬフリ。お前だって、本当は面倒事は御免だろう? 何が目的だ? 俺を助けて聖人ぶるつもりか? それとも同情のフリして笑い者にでもしようってか」

 「違う! 私はただ一成に幸せになってもらいたいだけで!」

 そう、切っ掛けはゲームプレイヤーとして攻略キャラの幸せを願う物だった。けれども、実際に会って健康とは言い難い彼の身体つきを見て、その願いは強くなった。

 例え未来の一成が生きていても、今、誰も動かないのなら、赤の他人だろうと私が介入すべきだと判断するほどには。

 しかし、私の応えに納得のいかなかった一成は鼻で笑って一蹴した。 

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